作品タイトル不明
3ー12 ブルームランドへ その一
叙爵の披露宴については、取り敢えず慣例に 則(のっと) り、一応の義理を果たせたので良しとしよう。
因みに、妖精sの情報では、出席者の評判はとても良かったようだ。
但し、良すぎて若干 妬(ねた) みを買っているきらいもあるようだ。
第一に、披露宴に出された酒と料理で、他の披露宴とは随分と差がついたようなのだ。
予定としてはそれほど高級志向ではなかった筈なのだが、酒やワインは確かに僕の魔法で熟成度をちょっと上げたために、希少価値が出て、本来のものより数段良いものになっていたんだ。
料理もこれまでハーゲン王国では使われたことのない調味料や香辛料を多用し、多彩な料理を提供しているから余計に目立ったようだ。
雇ったシェフを僕自身が鍛えたし、シェフが自らの料理技術を上げようと頑張った成果でもある。
仮に、他家が我が家で出された料理の真似をしようとすると、 途轍(とてつ) もない経費と労力がかかりそうだ。
また、ブラッセルマン公爵邸が、旧セントリード伯爵邸の敷地と元エッフェンベルグ子爵邸の敷地の双方を拝領しており、この両屋敷が呪いの館として貴族たちに知れ渡っていること、さらにはその敷地にわずかに一月で新たな屋敷を作り上げたことは、貴族の間で王都の不思議とさえ噂されているようだ。
我が邸の新築に当たって、雇った 匠(たくみ) をわざわざ調べた暇人が居るようだ。
一月で大きな屋敷を作り上げたこと自体が驚きだったので、それを造った者達を確認して、場合によっては自分の手元に置こうとしたのかもしれない。
だが、生憎と我が家で手配した庭師は判明したものの、石工、大工などは不明のままだったようだ。
従って、謎の匠集団が居るのではないかとの憶測も出回っているようだね。
まぁ、そんな人は元々居ないのだけれど、僕自身が一人でやりましたとは言わない方がいいでしょうね。
当然のことながら、従者達には 緘口令(かんこうれい) を敷いている。
ところで、一応の貴族の義理を果たしたので、次は領地経営の問題に取り掛からねばならない。
既に、法衣貴族の子息等で優秀な人材として雇ったオーラッド・マクブランには、ブルームランドに赴いてもらっている。
王宮の命により、ブルームランド代官として赴任していたジョシュア・ケアンズについては、王宮と掛け合って僕の直臣として引き取り、引き続き僕の領地の代官として職務についてもらっているところだが、オーラッドにはその補佐役をしてもらうことになっているんだ。
これまで代官として勤めていたわけなので、ジョシュア・ケアンズ一人でも何とかなりそうではあるのだが、生憎と彼の下に居る者が隠れたところで悪さを働いているようなのだ。
その辺は、妖精sの情報でしっかりと把握しており、ワルが誰なのかは重々承知している。
また、既に証拠の在り場所なども判明しており、代官にその処罰を任せても良いのだが、ここは僕と僕の妻となったクラウディアの初お目見えを含めて、領地の巡回視察に行こうと思っている。
そのために、妖精sには諜報活動と言うか実情調査をしてもらったよ。
ブルームランドは、ハーゲン王国の中でも穀倉地帯として知られる中央部地域にある。
この地区は、平地と見間違うほどに、東から西にかけて緩やかな斜面がひろがっていて、全体になだらかな平野部であり、水利も良く、農耕に適した場所なのだ。
ブルームランドの位置は、王都の略南方に在って、王都からブルームランドまでは主要街道があるために、馬車で概ね三日の旅程である。
その旅程の間にある領地は、王家直轄領と大公領のみであり、ブルームランドに至るのに他の貴族の領地を通る必要は無い。
従って、巡回視察に特段の支障は無いけれど、大公領を通過する際に一度は代官若しくは大公殿下にご挨拶をしておく必要があるようだ。
通過する王家直轄領の二つについても、当地の代官二名には、別途挨拶をしておく必要があるようだね。
ブルームランドにおける 喫緊(きっきん) の問題としては、領主館がないことなのかな?
既に、五十年以上も領主が不在の王家直轄領であったために、ブルームランドには領主の館が設けられていなかったのである。
王都から代官が派遣されていたわけなので、当該代官が住む館はあるし、役務を取り扱う事務所もあるが、それらの館は、飽くまで宿舎や役所にしか過ぎないのである。
これが王家が保有する避暑地や避寒地の場合は、別荘と云う王族が過ごすための屋敷が整備されているので問題は無いのだが、そもそもブルームランドは農民と商人が多い地域であって、王族がわざわざ立ち寄るような名所旧跡があるような場所でもなかったがゆえに、宿場町の宿以外に王族や貴族が逗留する設備も無かったのである。
僕が領主である以上は、例え王都に居ることが多くても、その象徴としての領主館を造っておく必要があるらしい。
実際に現地に赴いて、適当な場所を探し、必要に応じて館を建設せねばならないわけである。
妖精sの情報により、予め領内の地形とマップは把握しているから、既に建設候補地も二か所までに絞っている。
現地に行って実際に場所を確認の上で、人手を雇い、屋敷を順次作ることにする。
そうしてもう一つ、王都別邸とは別に、領主館でも従者は必要なのである。
僕が領地に赴く際には、相応の従者と警護の騎士が王都出発時から同行することになるが、彼らは飽くまで王都別邸の従者であり、騎士であるから、領主館にそのままは留めてはおくわけには行かないのだ。
従って、領主館のための従者と騎士の人材が別途必要になる。
このため、僕は再度従者ギルドを訪れることにした。
執事長であるマイクにそうした手続きを代行させても良いのだが、どうしても人物そのものを確認しておかねばならないと思うので、僕と執事長の二人でギルドを訪ねることにしていたのだが、その話を聞いたクラウディアが、自分も一緒に行きたいと申し出たのだ。
結局は、従者を含めて大人数で従者ギルドを訪ねることになってしまったな。
領主館の従者については、王都の従者ギルドで約半数を雇い、残り半数は現地で雇うことを考えている。
現地で新たに従者として雇い入れる者(ド素人)については、新人従者としての育成・教育もしなければならないから、従者ギルドで選定されて現地に赴く 者(プロ) は、結構大変だとは思うが、僕としてはそれができる人材を選ぶつもりだよ。
だから、従者ギルドで選ばれて僕の従者となる者は、田舎とも言えるブルームランドの領主館がのんびりと暮らせるような働き場所ではないということを予め十分に知っておかねばならない。
その上で、王都を離れてまで雇われるかどうかを自ら判断してもらうことになる。
尤も、従者ギルドでは、既に僕の噂がかなり広まっているようだ。
少なくとも王都別邸の従者たちが情報を選びながらギルドにも伝えているようなのだ。
僕の王都別邸は、随分と労働環境が良いところで、主も素晴らしい人物だということが秘密裏に伝えられているらしい。
その意味で従者ギルドと言うのは、かなりの情報の集積場所でもあるようだ。
但し、雇い主のプライバシーにかかるような情報はそもそもオフリミットとされているのがギルド創設時の基本理念だ。
従って、不利益な情報と言うものは、従者ギルドで選出された人物から直接漏れることは無いのだが、「どこの誰それがこのように言った。」などと言う噂話については、ギルドにも結構持ち込まれるようだ。
勿論、裏取りができるような情報に限られる。
それはともかく、領主館の従者選別のために僕らは従者ギルドを訪れた。
未だブルームランドには領主館が無いわけなので、従者の選別を急ぐ必要は無いのだが、王都別邸勤務ならば転居の必要も無いけれど、ブルームランドでの務めともなればどうしても転居を伴う。
その転居自体が簡単にはできない者も居るので、予め準備期間を与えるために、内定を早めることにしたのだ。
領主館の完成は、起工から少なくとも三月はかかるものと見込まれているから、その間に従者達には準備をしてもらえればよい。
因みに、王都別邸で仮の宿舎としていた建物は、そっくりそのまま僕の亜空間に保管しているから、必要に応じて、領主館の建造予定地付近に仮設置しても良いと思っている。
領主館が無くても取り敢えず宿舎さえ有れば、新たに雇う従者たちも相応の生活を始められるはずだ。
特に現地で雇う人材については、就職の条件として、是が非にでも住むところの提供は必要かもしれない。
従者ギルドにおいてブルームランド領主館の従者とするべく選んだ人材は、執事6名、メイド12名、コック5名の計23名となった。
執事長はルーベルト52歳、メイド長はサンドラ37歳、コック長はクラウス50歳である。
いずれも地方での勤務は初めてのようであるが、地方へ行くことについて特段の忌避感は無いようだ。
ブルームランドでも、ほぼこれに匹敵する人数を新たに採用することになるだろうが、その大部分は若い者になるだろうとみている。
従者ギルドで新規に採用した者のうち約半数は身軽に動けるらしいので、僕らが巡回視察に赴くときにはそれらの者も同行することになった。
このために、新たに馬車が必要になったな。
新たな馬車を用意するのに結構な時間がかかりそうなので、例によって、僕が馬車二台を錬金術で作り上げると、執事長のマイクが小言を言ってきたよ。
「旦那様、何でもご自分でやっておしまいになるのはできるだけ控えてくださいませ。
私どもの仕事がなくなりますし、外注が無くなる分、民へ落ちる金も少なくなってしまいます。
確かに予定と異なり、ブルームランドへ行く馬車は三台ほど余分に必要になりましたし、それを用意するには業者に頼んでも時間がかかってしまいますけれど、旦那様が御自ら馬車を造っているなどと他所に知られますと、公爵家の 沽券(こけん) に関わります。
どうか、でき得る限り旦那様が動くことのないようお願い申します。」
こう言われると仕方がないよね。
本当にやむを得ないとき以外は、できるだけ僕が手を下さないようにすることにしたよ。
他にもマイクから小言を言われていることが有る。
一つは診療所の件だね。
だが、こればかりは今更辞めるわけには行かないので、今後とも余裕がある限り継続するし、可能な限り後継者を育てるようにするつもりだ。
もう一つのハンター活動の方は、よほどのことが無い限りは休止することにした。
一応、その旨をハンターギルト西支部のギルマスには伝えてあるよ。
本来はハンターとしての資格維持には相応の実績が必要なんだけれど、統括ギルドまで協議して最終的に僕の場合は、特別扱いの名誉ハンターとして、実績が無くても現状のクラスを維持できることになったみたいだ。