軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3―11 結婚と披露宴 その四

儂は、カールハインツ、由緒あるハンブリ―公爵家の当主じゃ。

貴族の陞爵の際の披露宴については王宮で開催されるお披露目の宴には当然のことながら出席した。

王宮の招待となれば断ることもままならない上に、一つには王都の英雄と持て 囃(はや) される平民上がりの新公爵がどんな男か見ておきたかったからでもある。

見て驚いたのは、未だ童顔が抜けぬ若造であったからじゃ。

如何に功績が有ったにせよ、年端の行かぬ若造に公爵位を与えるとは少々合点が行かなかった。

内々に調査してみると、王家相談役となっているエルフのクロイム・サイルズの進言が大きかったとわかった。

まぁ、確かに火の精霊を使って「国崩し」とまで称されるオーガロードの率いるスタンピードをほぼ単独で鎮圧した功績は見事なものじゃ。

それが初代国王の業績と比肩されては、流石の王家もその意向に沿わざるを得なかったようじゃ。

しかも、初代国王が戦において召喚し使役したはサラマンダーであったそうじゃが、此度、王都の英雄が使役したは、サラマンダーの上位精霊であるイフリートであったとの非公式情報もある。

なれば初代国王の 御業(みわざ) よりもはるかに大きな力を持っているとも考えられ、王家としても無視はできぬであろうのぉ。

そのために、王妃殿下が、当該王宮でのお披露目に際して、第二王女殿下との婚約を強く推したに違いない。

初代国王から何世代も 隔(へだ) たっているがゆえに、現在の王家に実際にサラマンダーを召喚し、使役できる者は居ないと聞いておる。

確かに聖紋は子孫に引き継がれておるが、実際に妖精なり精霊なりを召喚し、顕現させなければ、その力を利用することはできぬであろう。

それがために噂のある王都の英雄を王家に取り込もうとしたのじゃろうが、その場では断られておったな。

正直なところ、公的な場面で王妃の申し入れを拒否できる平民が居ようとは思わなんだわい。

まぁ、 如何(いか) にあがいても、最終的には二の姫殿下を押しつけられるのは目に見えている。

仮に、ブラッセルマン公爵が他の貴族家の令嬢を嫁に迎えようとしても、王家から物言いが有れば、その令嬢は側室に落とされ、正室には二の姫が押し込まれることになる。

貴族院への届け出を出した段階で、手続きが保留され、側室に落とされることになるのだ。

その辺の動きが見えていないからこその 彼奴(きゃつ) の行動なのじゃろうが、まぁ、仕方がないであろうのぉ。

如何に他国の王族の難病を治癒したからと言って、王宮若しくは貴族の仕来りと 機微(きび) を知っておるはずも無い。

その王宮でのお披露目の際の余波なのか、王宮から下し置かれた屋敷が、よりにもよって、旧セントリード伯爵邸とその隣の元エッフェンベルグ子爵邸であったというから、もしや、これは嫌がらせかと思うたわい。

事情を知っている貴族ならば、この二つの屋敷は何としても拝領を断るはずじゃ。

現に我が派閥のザイツィンガー子爵も男爵から子爵に 陞爵(しょうしゃく) した際に、従来の男爵邸から元エッフェンベルグ子爵家の敷地ではどうかと打診された際に、丁重にお断りして、従前の男爵邸に居座ったという経緯がある。

間違いなく敷地の広さでは元エッフェンベルグ子爵邸の方が広いし、屋敷も大きいのじゃが、呪いが降りかかっておる屋敷には住みたがるはずもない。

不利益を承知しながらも、男爵邸のままで受忍することになったわけじゃ。

他の派閥でも新侯爵の陞爵の際に似たような事例があったとは聞いておる。

王都の貴族街において絶対に住んではならぬ呪いの館が、旧セントリード伯爵邸とその隣の元エッフェンベルグ子爵邸なのじゃ。

にもかかわらず、この両邸を 敢(あ) えて拝領したということは、余程の 戯(たわ) けかそれとも誰も 諫言(かんげん) する者が居なかったということなのか?

おそらくは、従者ギルドの斡旋で侍従などを雇ったであろうが、その者達が必ず 諫(いさ) めるはずであるにもかかわらず、一月後にはその二つの敷地に新たに建造した公爵邸で披露宴を開くというのじゃ。

まぁ、開いた口が塞がらんとはこのことじゃな。

二つの屋敷を取り壊して新たに屋敷を造ったからと言うて、呪いが解けるはずも無し。

これまで幾度も名の知れた大司教が解呪の儀式を行っても、呪いが残った屋敷なのだぞ。

如何様(いかよう) なことをすれば住めるようにできるのか、興味が湧いたこともあるな。

しかも、手の者の情報によれば、予定されていた披露宴の三日前までは新しい屋敷の普請のために大きな垂れ幕で工事現場を覆っていたがために、工事の様子が全く見えなかったというのじゃ。

二日前になって、ようやくその垂れ幕が外されて、遠目にも新邸の全容が見えるようになったようじゃが、建物の大きさで言えば我が王都別邸をしのぐ大きさじゃと聞いておる。

我が侍従長からは、呪いを心配して、欠席してはとの諫言もあったが、儂のこの目でどんな屋敷であるのか見たくもなったわけじゃ。

何せ一月で作り上げた 急ぎ普請(いそぎぶしん) の屋敷じゃぞ。

アラがそこら中に見えるに違いない。

話の種に実際に見分しておくのも良いじゃろうと思って出席を決めたのじゃ。

無論、呪いがかかっては困るから長居はせぬ。

四半時も顔見世をすれば、王都の英雄殿の顔も立つつじゃろう。

然しながら、当日、出向いて驚いたことに本当に立派な屋敷が出来上がっておった。

目を皿のようにして、細部も見て回ったのじゃが文句のつけようもない豪勢な屋敷であった。

仮に王都中の名工を集めたとしても、絶対に一月で仕上げるのは無理であろうと儂が判断したわい。

特に、柱、壁、床と天井の仕上がりが見事じゃったし、調度品も何処から入手したのか超一流と思われるものが揃えられておった。

王宮の意匠も見事じゃが、それに引けを取らぬ美麗さと調和が見てとれたのじゃ。

更には、玄関先でのブラッセルマン公爵の立ち居振る舞いも、貴族として満点をつけられる所作であったのには驚いた。

余程有能な侍従に恵まれていたのじゃろうとは思うが、それでも一月で貴族の立ち居振る舞いと威厳を身に着けるのは生半可なことではできないものじゃ。

そうして、ブラッセルマン公爵に 誘(いざな) われて儂と正室のイザベラ、それに息子のアンベルマンが案内された待合室で、給仕から渡されたカクテルワインなるものがまた見事であった。

容器が透明なガラス製でそのデザインに見惚れ、また各テルワインの味にしびれたわい。

また、このカクテルワインが冷やされたものであったのじゃ。

ワインは地下蔵にて常温で保管する故、決して温かくはないのじゃが、それでもこの時期に冷たいと思うほど冷やされてはおらぬはずじゃ。

少なくとも我が家で飲むワインはこれほどに冷えてはおらぬ。

今一つ、ワインに果汁と泡立つものを混ぜた味付けが見事であった。

さわやかであると同時に、少ない酒精がのど越しを刺激するために何杯でも飲みたいと思わせる代物なのじゃ。

イザベラはワインでの酒精でも酔うはずなのに、この見事な色合いのカクテルワインが随分と気にいったようじゃな。

普段なれば、口をつけただけでテーブルに置くはずが、今宵は飲み切っておったわ。

そうしてつまみと言うか、菓子と言うか、白く甘いチョコなるものもイザベラが気に入っておったものの一つじゃな。

給仕に、『お土産に少し頂けようか?』とまで尋ねておったわい。

このチョコなるものは体温で溶けるらしく、箱に入れて、お帰りの際にお持ち帰りいただけるようにしますと給仕が答えておった。

ふむ、この辺の応答も侍従長がよほどしっかりしておるのじゃろうと見た。

それから間もなくブラッセルマン公爵の案内で、披露宴会場に入った。

当然のことながら儂以外の招待客は会場に揃っていたが、公爵位を持つのは儂とブラッセルマン公爵のみじゃ。

無論、儂が先任であるから、この場で最も位階が高いのは儂と言うことになる。

ブラッセルマン公爵が、一段高いひな壇に立ち、恒例の披露宴の挨拶を無難に為した。

その上で更なる発表として、ダイノス侯爵の一人娘クラウディア嬢を正室として迎え、本日午前中に貴族院への届け出も済ませたという。

この発表で、会場内はザワっとした。

平民どもは知るまいが、一月前、王宮のお披露目で王妃から第二王女との婚約を申し入れられているのだ。

如何にすれば、王妃を出し抜いて侯爵令嬢との婚儀が成り立つのじゃと誰もがそう思ったはずじゃ。

これにより、公爵以上の位階を有する家から娘をブラッセルマン家に嫁がせるのは不可能になったと言えるじゃろうな。

無論、二の姫の話もあり得ない。

貴族院で正規に受理された以上、正室はクラウディア嬢であり、それ以外の者が後に嫁げば側室になるのだ。

公爵若しくは大公の娘、ましてや王女が、ブラッセルマン公爵の許嫁になることなどあり得ない。

侯爵の娘も同じ侯爵の家から嫁いだ正室の下に就くなどプライドが許さないだろうから、あり得るとすれば子爵以下の令嬢若しくはそれらの娘を養女として迎えて嫁がせることになるであろうな。

尤も、もっとてっとり早い方法が無くもない。

クラウディア嬢、いや、クラウディア夫人を亡き者にしてしまえばそういう制限は外れるのじゃ。

貴族の闇として、古来幾度も繰り返されて来た権勢に関わる汚い部分じゃな。

ブラッセルマン侯爵よ。

うまく立ち回り、夫人を守らねば愛妻を失うことになるぞと儂は思ったわい。。

話は変わって、こうした披露宴で必ずあるのが舞踏じゃ。

その始まりのダンスを儂とイザベラ、それにブラッセルマン公爵と同夫人が務めることになった。

楽団が演奏する曲に合わせての踊りになるが、若い新婚の夫妻は見事に踊り終えていた。

余程に練習をしていたものと思われる。

始まりのダンスの後はある意味で無礼講じゃ。

踊りたいものは踊り、食べたいものは食べ、会話を楽しむものがそこら中に居ったな。

肝心の料理と酒じゃが、どれも美味かった。

そうして出された料理を盛る皿や容器が素晴らしく豪勢なものじゃった。

統一された藤色に近い薄青に統一された唐草模様が見事な絵柄であり、どれもが均一な絵柄なのである。

こうした皿を生み出す陶芸職人が最も大変なのが均質な製品を生み出すことぐらい儂も知っておる。

ざっと見まわして招待客とその連れだけで百名を越えておるから、それに供するだけで少なくとも百五十ほどの各種の皿や容器が必要じゃ。

驚いたことに飲み物については、カクテルワインとは異なるガラス製品が用意されて、客の好みによって多くの酒やワインが楽しめるようになっていたことじゃ。

ほんの四半時と思っていたものが、時間を忘れて一刻近くもブラッセルマン邸にとどまっておったわい。

幸いにして、儂の馬車は邸内の馬車置き場にて待機しておったから、すぐにも帰路に着けたのじゃが、聞くところによれば、待機していた御者や侍従にも酒や料理が別途に振舞われたそうじゃ。

そうそう、給仕が言った通り、きれいなリボンをつけた箱に収められたチョコが我妻に手渡されておった。

ブラッセルマン公爵、若いが中々に侮れぬ男と見たぞ。