軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2-8 エルフの相談役 その一

私はハーゲン王国の王家の相談役となったクロイム・サイルズという。

王家の相談役になるにあたり、左程の経歴は不要だ。

私がエルフの 系譜(けいふ) なので、新たな相談役として招かれただけの話なのだ。

前任者は、我がアレイフル族ではなく、オレムル族の者だった。

オレムル族はエルフの中でも異端と呼ばれるほど過激な思想を持つものが多い。

前任者のカレズ・ドラッケンもどちらかというと苛烈な思想の持ち主だったようだ。

過去400年に渡り代々の国王に寄り添って、ハーゲン王国の相談役を務めていたのだが、前元宰相等かなりの数の貴族が私利私欲で悪さをしていることを承知していながら何ら手を出さなかったようだ。

相談役を受ける以上は、森の賢者として、至らぬ者どもを導くのが相談役としての使命であるはずなのに、それを怠った。

王家の第四王子が生まれた際に忌み子として認知された際にも、その生存権を奪うが如き措置には反対すべきだったが、カレズは何もしなかった。

つらつら過去の記録を見るに、カレズは相談役として特段の働きをしていないのだ。

どうやら彼は傍観者に徹していたようであり、残された手記から彼が相応に事態を把握していたことがわかる。

第四王子の幽閉に際しても、何ら口を挟まず、放置し、あまつさえ、当該幼子を保護できる立場に居ながら、関係者の悪行を知りつつも放置していたようだ。

しかしながらその偽りの 静謐(せいひつ) は、第四王子の失踪と共に壊された。

何者とも知れぬ者が王家の主要人物に書簡を送りつけて、王家の中で進行していた腐敗の数々を暴露した。

その上で、幽閉されていた第四王子も 何処(いずこ) へか脱出させたようだ。

王宮内で起きていた数々の犯罪を告発した者の素性と第四王子の行方は 杳(よう) として不明のままだ。

王家は、カレズがある程度の事情を知りながら何の働きもしていなかったことについてひょんなことから知るに至り、彼を解任したのだった。

相談役は相談された時にだけ何かをすればよいというわけではないのだが、カレズは何らかのアクションが無ければ動くに値せずと考えていたようであり、その点で王家と意見が合うはずもない。

而(しこう) してカレズは追い出され、私がその後任に就いたわけである。

任に就き、事実関係を調べて第四王子の扱いについては本当に 酷(ひど) すぎると感じた。

乳飲み子の時に親元を離されて幽閉され、最初の頃はまだしも、6歳を過ぎる辺りからまともな食事すらも与えていないことが関係者の証言記録からわかった。

この状態で良く生きていたものだと思った。

7歳から10歳までは、スラムに住む子供であってももう少し食べているのではないかと思われる量の食事しか与えていないのだ。

まして10歳になって半年ほどは、ヒ素をその少ない食事に混ぜていたというから驚きだ。

実行犯のみが知る事実であり、第四王子の身近にいたメイド等の関係者ですら知らない事実ではある。

第四王子が庇護者の手によって匿われているならば、少なくとも王宮に居るよりもましな生活が送れているのではないかと思う。

幽閉王子フレドリックに関しては情報が特に少ない。

既に第四王子の虐待に関わった執事三人は、多額の罰金を課され、なおかつ国外追放処分となった。

後に王家の暗部が手を下し、秘密裏に殺害したことは私も知っている。

けん責処分を受けたメイド三人からフレデリック王子の容貌を一応聞いてはいるのだが、当てになるのは髪の色と瞳の色ぐらいだろうか。

その証言に合うような子供を見るたびに鑑定をかけ続けているが、それらしき人物には遭遇していない。

或いは第四王子を虜囚から解き放った者が、国外の安住の地へと送り届けたのかもしれない。

この国は10歳程度の子供が一人で生きて行くには過酷な場所だ。

周囲の世話なしには到底生きて行けないだろう。

増して長期にわたる栄養不足で発育が遅れていることも考えられる。

そうしてまた、本来は成されているべき最低限度の教育すらも行われた形跡が認められないのだ。

第四王子の直筆と思われる稚拙な文字の置き手紙が遺されているが、なんら教育を受けていないはずの幼子がそれを書いたこと自体がむしろ驚きである。

いずれにしろ、私の一族ではないにしても間接的にエルフが関与した事件だけに、私は今もって市内を見て回る時には、第四王子の姿を探して髪型と瞳の色を確認して歩いているのだった。

そんな折、王都のはずれで比較的大きな魔力の発動を感知して調査に出向いた。

私の仕事は王家相談役ではあるのだが、その仕事のためにもいろいろなところに顔を出し、調べて回るのが仕事の一つなのだ。

従って私の活動を邪魔する者は居ない。

王都の西の外れ、スラム街に近い場所に、ワラミスカ修道会に属する聖アンクレア教会があり、その敷地の一角に平民である者が日没前の一刻だけ開く診療所があるようだ。

診療所で治癒師の真似事をしているのは聖職者ではない。

普通の場合、治癒師には聖職者がなる。

というよりも治癒師の能力がある者については、幼い時からその資質を見出して教会が取り込んでいるというのが実情である。

私も相応に治癒魔法は使えるけれど、聖職者ではない。

光なり水なりの属性魔法の素質を有する者に、それなりの訓練を施せば治癒魔法など誰でも使えるようになる。

尤も、ヒト族の場合、個人の持つ魔力量は往々にして少ないし、個人によってばらつきがあるので、治癒能力そのものは人によってかなり異なることになる。

その為に教会は早いうちから素質ある者を取り込んで、英才教育を施して治癒師に仕立て上げているのだ。

当初は、この聖職者にしても治癒師が博愛主義の精神で大勢の人の命を救う活動に身を捧げていたようだが、昨今は教会自体が 拝金(はいきん) 主義に染まっているようだ。

高価な報酬が無いと聖職者である治癒師が患者を診ないということが往々にして起きている様なのだ。

その辺は不条理に思っても、我らエルフの相談役が介入すべき話ではないだろう。

ところで、このスラム街に近い診療所は、一人の患者に着き大銅貨一枚で、病を癒しているという。

どんな重病人であれ、重傷者であれ、一人につき診療一回に付き大銅貨1枚が報酬となっている様だ。

大銅貨一枚とは、王都のパン屋が売っている固めのパン二個程度の金額である。

安宿でも一泊で大銅貨8枚程度は取られるだろうから、とても安い診療費だということがわかる。

比較的大きな魔力の放出を感じ取った翌日、私は日没前には当該協会の敷地付近にいて、診療所の様子を見ていた。

聖アンクレア教会の敷地の一角に泥で造られたような小振りの診療所があり、小規模な魔法の発動が連続して行われているので中で治癒魔法が使われていることがわかる。

しかし、その量は少々驚くほどである。

エルフならばともかく、ヒト族にしてこの量の魔力量を持っていること自体が珍しい。

恐らくは魔力だけなら王宮魔法師団の師団長に匹敵するかもしれないのだ。

そうして日没直前に驚くべきものを見た。

診療所から姿を現した者が10歳前後の少年だったからであり、下働きの者と思っていたのが違っていたのだ。

彼が、残った患者に指示をして彼の周囲に人を集め、そうしてエリアヒールを掛けたのだ。

このエリアヒールは、エルフの治癒師でも使い手が稀なほど難しい術だ。

魔力量もさることながら、魔力の制御に長けた者でなければできない技なのである。

ヒト族の間で伝説となっているカウリアの聖女は、200年以上も前に実在した人物だが、彼女は実はハーフエルフであった。

それゆえ並みのヒト族よりも魔力が豊富であって、たまさかエリアヒールが使えたのである。

だが目の前の少年は、いとも簡単にエリアヒールを使い、大勢の人々を治癒してのけた。

だが、身体的特徴からして彼は断じてのエルフの血をひいてはいない。

そうしてその少年は、第四王子と同じ色の髪と瞳を持っていた。

だから、情報を得るために私は鑑定に掛けたのだが・・・。

驚くべきことに、私の鑑定が跳ね返されたのだ。

この事実は、二つの意味を持つ。

彼はその能力を隠すために隠匿魔法を使っていること。

また、彼の魔力量若しくはレベルが私よりも上のために、彼の能力が見えないことの二つである。

隠匿魔法は、エルフならば使える魔法の一種だが、ある意味でその者の持つ能力に左右され、高位な能力者に対しては隠匿できないのだ。

従って、彼は私よりも能力が高いという事実を示している。

アレイフル族の中でも十指に入る能力者であるはずの私に勝るヒト族、しかも10歳前後の少年が居ること自体が驚きだった。

そうしてまた、彼が第四王子と同じ色の髪と瞳を持っていることが奇妙だった。

王国の宰相まで巻き込んだ王家のスキャンダルを暴いたのは凄腕の魔法師であるだろうことは推測していた。

だが、第四王子とその凄腕魔法師の結びつきがわからなかったのだが、仮にその二人が同一人物ならば様々な不可解なことが良くわかるようになる。

ふむ、これは第四王子の元メイドの一人を連れて来て、首実検をする必要がありそうだ。

◇◇◇◇

一月後、私は、貴族街のダイノス侯爵邸から出て来るであろうリックと名乗る冒険者の少年を待ち受けていた。

実は、教会近くの物陰から第四王子の元メイドに確認させたところ、断言はできないけれど第四王子のフレデリック様によく似ているとの証言を得たのだった。

その元メイドには闇魔法を使って記憶を無くさせておいたので、スラム街の近傍で第四王子に似た少年を見かけたという記憶はない。

私も今のところ、私の雇い主である王家にその事実を知らせてはいないのだ。

全ては、これから面談することになるであろう少年の意思次第である。