作品タイトル不明
幕間 ざまぁを添えて 第一話
メルクルディ国のアルジェ・ロッシーニ元王太子妃が、隣国カルナのダルタニアン騎士学校へ入学したというニュースは、数日の内に各国へと伝えられた。
第二王子フランシスが、彼女の行方を探して血眼になっていた時のことだった。
「くそっ!」
王となった者の言葉遣いとは思えない粗野な物言いに、周りに控えていた側近たちも、ビクリと体を震わす。
普段物静かな人物だけに、一瞬信じられない思いを抱いた。
何事かとフランシスに視線が集まったが、直ぐ、普段と同じような雰囲気に戻り、
「…悪い、つい…」
と苦笑いをしたことで、普段の作業へと戻っていく。
フランシスは、第二王子として、人の目を人一倍気にして生きてきた。
長身で、見目も悪くなく、学業の成績は王太子であるロイドとは比べ物にならないほど良い。
だからこそ、背中を丸め、目立つ位置には立たず、悪意を持たれないように細心の注意を払いながら、虎視眈々と王太子を狙ってきた。
しかし、一足飛びに王座を手に入れられるとは思っておらず、その準備が整っていなかった。
母の実家が、十九才のフランシスを傀儡にしようと躍起になっている。
『小賢しい』
そう言ったのは、母の兄。
『貴方は、微笑んでさえいたら良いのよ』
そう言ったのは、実の母。
既に、何も考えないように育て上げられた女は、前王妃からの嫌がらせを受けた時でも、気味の悪い微笑みを浮かべていた。
多分……いや、本当に、何も考えていないのだろう。
フランシスは、彼なりに、この国を良くしようと思っていた。
父である男の、自己敬愛からくる国の舵取りは、滅亡の一途しか未来がなかった。
自分なら……そんな思いを胸に、今まで研鑽を積んできた。
生まれてからずっと、兄である青年の母から命を狙われ続け、生きた心地がしなかった。
どんな変化をも見逃さないとばかりに厳戒な監視を敷いてくる。
その為、身を守るすべすら、フランシスは、相手の力を利用する体術を中心に訓練を重ねた。
下手に筋肉を付ければ、要らぬ注意を引きつけ、相手の警戒感を上げることになるからだ。
しかし、そのどれもが受け身の行為であり、己の理想を実現する為の手段は、何一つ手に入れられていない。
「少し疲れたようだ……」
「お休みになられたほうが」
待っていましたとばかりに、側近と言う名の監視者が退室を促す。
彼らは、母の実家がから送り込まれた精鋭部隊だ。
既に各部署にも手勢が送り込まれ、その勢力図は完全に塗り替えられている。
どうやら、執務室すら、フランシスのものではないらしい。
「あぁ……そうだな」
諦めたように呟いたフランシスの手には、アルジェの報告書が握りしめられている。
突然姿を消したと思ったら、手が届かない所へ飛び立っていた彼女。
カルナ国は、メルクルディ国と違い、女性の社会進出が進んでいる。
そして、外部からの圧力には徹底抗戦できるだけの戦力も持ち合わせていた。
アルジェの入学した騎士学校も、見上げるほど高い堅牢な外壁が、巨大な校舎や闘技場、馬術場などをぐるりと取り囲んでいる。
まるで要塞のような様相だが、それだけカルナ国が、この学校を重要視している表れでもあるのだろう。
ここでは、未来の指揮官や、王の身を守る近衛騎士など、幹部クラスの養成が行われている。
そのため、最新の武器や国の防衛に関する重要機密も多く扱っており、外部からの侵入に対して、鉄壁の防衛網を張り巡らせてた。
生徒達が不用意に外出せぬよう、校内に飲食店や娯楽施設まで整え、寮で共同生活をさせる徹底ぶり。
今、フランシスがアルジェを無理やり校内から引き摺り出し、自国に連れ帰ろうものなら、国家問題に発展するだろう。
生半可な気持ちで手出しできる場所ではない。
「君は、本当に、私を驚かせる天才だね」
アルジェに異常な程の執着を見せるフランシスも、流石に今は時期ではないと悟った。