軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

299話 〈閑話〉プミラの婚約者とその商店その八

兄が立ち止まり、トミーを振り返ります。

トミーはさりげなく私の横に立とうとしましたが、私はさっさと兄の横に並びました。

私の立ち位置はこちらです。

私の隣にはバロックが立ちました。

トミーの背後には、インドラ様とソード様。

トミーは気まずい顔でいったん目をそらしましたが、また兄を見て、

「……詫びを入れるので、証文を破棄してくれ」

と、キッパリ言いました。

すごいですよね、詫びてる感じが全くしないお詫びのしかたです。ものすごく上から目線です。

敬語すら使っていませんけれど、どれだけ私たちを下に見ているのでしょうか。

兄がせせら笑います。怒ってますけど。

「は? その前に、破棄してない証文を既に破ってここに現れてる始末をどうつけるつもりスか? あと、詫びを入れるって、どうやって入れる気だよ? デカい態度で、どれだけ俺たちを下に見てんだよ!」

兄が怒鳴りました。

あ、インドラ様とソード様がびっくりしてます。

揃ってパチクリした後、揃って顔を見合わせました。

ちょっと止めて下さい、こんなシーンで笑ってしまうじゃありませんか。

「お、落ち着け。そんなつもりはない。ただ、会わなければ詫びを入れられないからここへ来たんだ。約束を破ったことも謝るから、それで帳消しにしてくれ」

「は? お前、バカか?」

兄が喰い気味に返しました。

バカと言われて、トミーの顔色が変わります。

「それが謝ってる態度かって、何度も言ってんだよ。タメ口ききやがって、何様だと思ってんだよ、田舎の小さな商店の倅がよ。テメェなんぞもう俺の相手にならねーんだよ、詫びなんかいらねーから消えろ!」

トミーが手を握って悔しさを堪えています。そうね、下だと思っていた相手からこんなふうに言われたら腹が立ちますよね。

兄が、顎を上げてトミーを見下すような顔で静かに言います。

「契約不履行の違約金はもう考えてある。取り立て屋として、Sランク冒険者パーティ【オールラウンダーズ】のインドラ様にお願いした。テメェはもう終わりだ。二度と俺たちの前に現れるな」

えっ、インドラ様が取り立てるの!?

なにをどう取り立てるんだろう……気になるけど聞いちゃいけない気がする。

……と、考えていたら急にトミーが私を見つめてきました。

「プミラ、愛している。私と結婚してくれ」

全員、フリーズしました。

私は、あまりのセリフに放心しながらつぶやきました。

「…………聞き違えたかしら? なんだか今、とんでもないことを言われた気がしたんです」

トミーは憤って私に訴えます。

「聞き違えじゃない! プミラ、私は間違っていた。あの女にだまされたんだ。家族全員があの女とその父親にだまされた。連中は自業自得だが、私は被害者なんだ。プミラ、愛している。あの女とは別れた。私と結婚してくれ」

…………あぁ、つまりは彼女を見捨てたのね。

だから店の前に現れなかったのね。

みんなが私を見ているわ。そうね、あまりにもひどいセリフだったので自失してしまったけれど、ちゃんと言わないと。

私は気を取り直し、息を整えた後に言いました。

「お断りします」

「プミラ!」

トミーは私の名を呼びこちらに向かってこようとして、ピタリと止まりました。

一瞬でソード様が立ち塞がり剣を抜いて目の前に突きつけたからです。

「ふむん……。私が両足を切断してもう近寄れないようにしてやろうと思ったのに、ソードに先を越された……」

インドラ様、悲しそうな声で物騒なことを言わないで下さい。

トミーは盛り上がっていた感情が一気に冷めたようで、生唾を呑み込んで下がりました。

私は眉をひそめつつ、トミーにお断りしました。

「近寄らないで下さい。……貴方と結婚なんてしません。兄に迷惑がかかります」

するとトミーはまた感情が高まったようで、大声で私に訴えます。

「プミラ! 周りに流されるな! 君は、私を愛していたじゃないか! 順調にいけば私たちは結婚していたはずなんだ!」

「お前が他の女に乗り換えて結婚したのも、お前にとっては順調だっただろうにな」

インドラ様が冷静にツッコみました。

トミーは詰まりましたが、聞こえなかったことにしたようです。無視して続けます。

「だが、引き裂かれてしまった! でも今は障害はない! プミラ! 私と結婚するぞ!」

………………。

あらすごいわ。懇願から命令に変わったわ。

本当に…………。

なんて迷惑な人なんだろう。

本当にガッカリして完全に愛想を尽かしたわ。

私はため息をついたら、私とトミーを見比べていたインドラ様が口を開きました。

「プミラ嬢、もっとハッキリと伝えた方がいいぞ? 貴女に隙があるので、この男はつけ上がっているのだ。自分の気持ちをちゃんと述べて関係を清算するべきだ。でないと、貴女を案じて仕入れの途中で私たちに連絡をつけてまで飛んできたベン君がかわいそうじゃないか」

インドラ様の静かな声にハッとして、兄を見ました。

兄も私を見返しました。

「…………プミラ、お前が思った通りに言っていいッスよ。俺は、たった一人の家族……俺の大切な妹のために何も出来ない男じゃないッス」

…………そう。

兄は、いつでも私を案じてくれた。

婚約破棄は、私よりも兄が怒ってくれていた。

私の幸せを一番に考えてくれた。

……そのわりには手紙を書く従業員を増やしてくれないけど!

それでも、私は兄に助けられてきた。