軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

59:しばらくそのまま

早朝、一番早く目が覚めたのは言うまでも無くスタッドだった。

毛布に潜り込んでいるイレヴンへと一瞥すらする事無く、起き上がったベッドの上でリゼルを見る。

二人の恒例の諍いから真ん中のベッドを余儀なくされたリゼルが起きる様子は無い。以前もスタッドが起きてからしばらくは寝ていたし、まだ目は覚まさないだろう。

「…………」

ベッドの傍に膝を付き、寝ているリゼルを眺める。

毛布からはみ出ていた手を静かに持ち上げ、その手を自らの頭に乗せた。

数秒後、ゆっくりぽんぽんと緩やかに頭を撫でた指先に満足そうにぽんっとスタッドから花が飛んでいく。ちなみにリゼルは完全に寝ているので、全くもって無意識の行動だろう。

「ごゆっくりお休み下さい」

例え至近距離にいようと聞こえるか聞こえないか、それ程に微かな声で囁いてスタッドは持ち上げていた腕を毛布の中へとそっと戻した。

用事も済み帰るだけなのだし、出発するなら早い方が良いがリゼルにはゆっくり寝ていて貰いたい。

スタッドは脳内で出発を引きのばせるギリギリの時間を考えながら立ち上がった。

今頃はせっせと御者であるギルド職員が出発の準備を進めているだろうが、しばらく出番は無いだろう。伝えに行かなければと支度を整えてギルドの制服へと腕を通す。

「(……早ぇ、ジジイかよ)」

慣れない気配が部屋の中を歩く気配に、眠気を感じながらイレヴンは毒づいた。

リゼルへと宛てた言葉も、寝かせておこうという気遣いも気に入らない。リゼルがゆっくり寝られるに越した事はないが、やはり気に入らないものは気に入らない。

しかしそれをわざわざ口に出すのは嫌で、イレヴンは眠気に支配される頭をそのままに二度寝へと入る。ゆっくりと闇に溶けていく意識を感じながら、部屋を出て行く音を聞いた。

朝日が山間から完全に姿を現した丁度その頃、リゼルはゆるりと瞼を開いた。

自主的に早起きしなければと思いながら昨晩は寝たし、寝過ごしたという事は無いだろう。

寝起きは良いとは言えないものの、一度起きようと決意してしまえば起きられるリゼルは多少とろりと瞳を緩めながらも起き上がった。

ゆっくりと息を吸い、吐く。髪を耳にかけながら、ふと視界の隅で動いた姿へと視線を向けた。

「おはようございます、スタッド君」

「おはようございます」

ソファに座りながら書類を見直していたスタッドが、リゼルが起きてからずっと此方を見つめていた。

微笑むと、淡々とした無表情のまま此方へと歩み寄ってくる。書類は良いのかと思うが、じっと見下ろして来る視線に苦笑しベッドの上に座ったままスタッドへと手を伸ばした。

差し出すように下げられた頭へと手を乗せる。さらりと指を滑る髪へ指をさし込むように撫でると、何処か満足そうな雰囲気を出しながら書類の元へと戻って行った。

「出発はいつぐらいでしょう」

「貴方の支度が終わり次第で構いません」

「もしかして、待たせてしまいました?」

「そんな事は決してありませんのでご安心を」

普段ならば起きたと同時にさっさと帰るべきだと御者をせっつくスタッドだが、勿論リゼルはそんな事は知らない。

しかし多少気を遣わせてしまったか、と思いながらベッドから立ち上がる。王都へ帰るにも半日かかるだろうし、出発は早いに越した事は無いと分かっている。

「イレヴン、朝ですよ」

「んあ」

隣に寝ているイレヴンへと声をかける。

もぞりと動いた毛布に苦笑し、僅かに見える頭のてっぺんを指でつついた。ごそごそと毛布が動き眠そうな顔が露わになる。

リゼルは少し乱れた髪を手櫛で整えながら、うとうとと閉じようとする瞼を止める様に優しくその肩を揺らした。薄らと瞼を開けた瞳がリゼルを映す。

「もうちょぃ……」

「駄目です。スタッド君も早く帰らなきゃ駄目でしょうし」

伸ばされた手を掴み、イレヴンは鱗を押しつけるように頬を擦り寄せた。

ちらりとスタッドを窺うと無表情ながら此方を見ており、「ざまぁ」と内心で吐き捨てながら優越感を浮かべ優しい手の平に懐く。

基本的に他人のいる場所で甘えて来ないイレヴンなのだが、挑発目的で見せつけるのは“有り”のようだ。

リゼルは苦笑しながら指の腹で独特の感触の鱗を撫で、そのままぺちりと頬を叩く。手の平の感触からイレヴンが笑みを浮かべたのが分かった。

「はい、起きて」

「はぁーい」

しなやかな体をぐっと伸ばしながらイレヴンが起き上がった。

リゼルもゆったりと冒険者装備へ着替えながら、書類を片付けているスタッドへと歩み寄る。

「時間が無いようでしたら馬車の中で朝食でも構いませんが、スタッド君はもう食べました?」

「いえ、貴方と共に食べたいと思っていたのでまだ食べていません」

「すみません、待たせちゃいましたね」

「構いません」

ふるりと首を振るスタッドにさてどうしようかと考える。

このままリゼルがゆっくりと朝食を取りたいと言えばスタッドはその通りにするかもしれない。

しかし時間的にどうなのだろう、と思っていると髪の毛を纏めながらイレヴンが欠伸まじりの声で言う。

「今日中に帰れりゃ良いなら別に全然ゆっくり出来るっしょ。リーダーがどっかブラつきたいなら寄れるんじゃねぇッスか」

「そうなんですか?」

「馬鹿に同意するのは癪ですが、私としても元々交渉が長引いた事を考慮して今日の日付が変わるまでに帰れれば僥倖だと思っていました。貴方が寄りたい所があるのなら寄って頂いても構いません」

じっと見上げる視線に嘘は無く、ならば良いかとリゼルは頷いた。

「じゃあ朝食をとってから、少しだけお土産屋を回っても良いですか?」

「何、ニィサンに土産でも買うんスか」

「ええ、出掛けにちょっと仕掛けちゃいましたし。お詫びに、と思って」

穏やかに微笑んだリゼルは、若干えげつなささえ感じる仕掛けを施した張本人には見えない。

朝の人が集まるギルドで、まるで妻に逃げられる夫のような台詞を吐かれて置いて行かれたジル。普通ならば冒険者らしく容赦なく笑われるだろうが、それが天下の一刀ならばそんな空気にはならないだろう。

あのジルだし冷静に対処したのだろうがと思いながらイレヴンは浮かんだ疑問をそのまま口に出した。ちなみにスタッドはジルの事などどうでも良い。

「リーダー、人間関係ドロドロの本とか最近読んだ?」

「好みじゃないけど、割と好みの作家さんが珍しく書いていたので。良く分かりましたね?」

分からないはずがない。

朝食を食べ終えた三人は、さて土産を探そうと村の中を歩いていた。

規模がそこそこな上に商人が行き来する中継地点でもあるこの村には、幸いな事に店や露店が軒を連ねている通りが存在する。

普段は見られない珍しい品物を目を輝かせて覗きこむ子供たちや、王都などから運ばれる流行りの服を喜々として見ている少女達を眺めながら通りを歩く。

貴族っぽい男とギルド職員の男と派手な冒険者の組み合わせは噛み合っていそうで全くそんな事も無く、好奇の視線を集めているが気にしない三人なので特に問題は無い。

「ニィサンに何買うんスか」

朝食の直後だというのに早速食べ物関係の屋台を覗きこんでいるイレヴンが問いかける。

買った甘味を二、三口で食べ終えて再び歩き出した。

「折角だしこの村特産の物とか……あ、ジルって肉とか好きだし」

「生肉は土産に向かねぇッスよ」

はい、と生肉を渡されても困るだろう。土産だと判断して貰えるかどうかも怪しい。

差し出されたジルの反応を見てみたい気もするが、とニヤニヤしながらイレヴンは一応止めておく。ジルの事だからリゼルから渡されれば呆れながらも受け取るだろうが、流石に変な芝居を仕掛けた詫びに生肉は無いだろう。

リゼルはそれもそうかと頷き、考える。ジルの好きなもの。

「剣か、お酒かな」

「剣が土産かは置いといて、ニィサンって剣とか好きなんスか」

「いつも同じ剣しか使っていないような在り来たりなイメージですが」

「いえ、何本か良いやつストックしていますよ。勿論使うことが前提の実用性重視な性能の良い大剣ばかりですけど、何かにこだわって選んではいるみたいです」

その何かは剣に詳しく無いリゼルには分からないが、恐らく性能とかそういう面だろう。ただの飾りとしての剣に興味を持ったところは見た事が無い。

「へぇ、今度見せてもらお」

一刀が保有する大剣、間違いなく最上級迷宮品だ。使う事が前提というところが“らしい”が、売れば一財産築けるような価値のあるものばかりだろう。

得物は違うが同じく剣を使うイレヴンは興味を持ったらしい。彼自身の剣へのこだわりも並々ならぬ物が有るし、気になるのだろう。

「スタッド君は剣とかって分かりますか?」

「いえ全く。何を使おうと喉笛が掻き斬れるなら何も問題は無い派です」

「ですよね、斬れれば良いんじゃないかって思っちゃいます」

「その切れ味とかの問題ッスよー」

若干恐い事を話しながらリゼル達は酒場へと入って行った。

流石に剣はない。何らかのこだわりがあるのならば下手なものは渡せないし、尚更だ。

朝は食事処として営業しているらしい酒場は空いている。何組か座っている恐らく冒険者だろう客の視線を受けながらリゼル達はカウンターへと歩いて行った。

地元の酒場での酒の品ぞろえは馬鹿に出来ない。カウンターの向こう側でずらりと並ぶ酒瓶を見ていると、慣れたように食事を運んでいた少女がパタパタと近付いて来た。

「いらっしゃいませ! お食事です……か……」

振り返ったリゼルに、元気な声が徐々に途切れて行く。

酒場の娘である彼女は村から出た事が無い。領主だって時々しか見ない。

しかし目の前の男が普通とは明らかに違う高貴な雰囲気を持っている事は分かるし、普段酒場へ来るような冒険者とも村の住人とも違う事も分かる。

「お店の方ですか?」

「は、はい!」

何故か軽々しく話しかけられないという初めての感覚にうろたえながらも、ゆるりと微笑まれて知らず入っていた肩の力を抜いた。

「お食事でしたら席にご案内します」

「いえ、友人へのお土産にと思ってお酒を見ていたんです。此方は販売ってやっていますか?」

「はい、えっと、どちらをお求めでしょうか?」

どちらを、の言葉にリゼルは改めて並ぶ酒瓶を見た。

酒の種類など詳しくない。いや、知識としてはあるが美味なのかどうなのかが分からない。

「ジルって辛口なら何でも飲みますし……どれが良いでしょう。ワインも開けてたし、エールも地酒も飲んでましたよね」

「あー、確かにニィサン甘くなければ何でも飲むッスね。酒に関しちゃ節操ねぇし」

「先程特産のものが良いとおっしゃってましたしその中から選んだら良いんじゃないでしょうか」

「そうしましょうか。どれが美味しそうですか?」

あーだこーだ話し合う三人を、少女は何処か憧れを含んだ瞳で見つめていた。

何と云うか、彼女の想像する王都の人のイメージが具現化したようだ。がさつさなど欠片も無くしゅっとしてスマートで、余裕のある態度に嫌味を感じず、話す姿や立ち姿すら雰囲気がある。

人が行き来するこの村でも滅多にお目に掛かれない存在に、思わず視線が釘付けられても仕方が無い。

「度が強ければ美味しいとかそういう……ん、どうしました?」

意見を聞こうと髪を耳にかけながら少女を向いたリゼルが、輝く瞳から向けられた視線に首を傾げた。

仕草ひとつとっても品がある。何処から来たのか知らないが絶対に王都の人だと、ほうっと息を吐いた少女が呼びかけられてハッと意識を取り戻した。

視線に気づいてはいたが流していたイレヴン達も、リゼルが気付いた事で一緒にそちらを向く。少女は微かに頬を染めながら持っていたお盆で口元を隠した。

「いえ、その……皆さん王都の人らしくて、田舎臭さが全然無くて、憧れちゃうなぁって。す、すみません不躾でしたよね!?」

「いいえ、褒めて頂いているんですよね。ありがとうございます」

「王都にいる人って皆そんな風に、えっと……スタイリッシュ? な方たちなんですか?」

「そんな、俺なんて他の方と比べるとまだまだですよ」

イレヴンとスタッドが無言でリゼルを見た。

そして話を聞いていた冒険者も無茶言うなと思わずリゼルを見た。

これでまだまだとかやっぱり憧れちゃうなぁと夢を膨らませる少女を見て、ほのほのといつも通りに微笑んでいる。

それで良いのか。少女に現実を突き付けないで良いのか。

二人はリゼルの発言に何の悪気も無いことを知っている。

恐らくリゼルの言う「まだまだ」の意味など、王都に住む住人に比べ値切りも出来ないし商売も下手だしとかそういう意味なのだろう。リゼルが馴染もうと目指す王都の住人像と少女が憧れる住人像との間には決定的な差がある。

イレヴンとスタッドは嫌々ながら視線を合わせ、ちらりと酒を見た。

「そういや此処の地酒で一番人気があんのってどれ? それと一番度が高いの欲しいんだけど」

「そろそろ出発予定時刻ですし一刀への土産を選んでしまいましょう」

とりあえず全力で話を終わらせる方向へと持って行く。

少女が都会に出て何を思おうと知らないが、リゼルが意図せず嘘つきにされる事態は避けるべきだ。

出発の時間があるなら大変だと少女はカウンターの中へと駆けていく。土産だと伝えてあるし、簡単に包んでくれるだろう。

「今回はラッピングに拘んねぇんスか」

「だってジルって絶対嫌がるし破くじゃないですか」

「一刀が丁寧に包装を剥がしていても心底気持ちが悪いですしね」

嫌がると分かっているのにわざわざ包装するようなリゼルではない。

ちなみにスタッドは普段ならば容赦なく破るが、リゼルからの贈り物に関しては丁寧に開ける。リゼルはそれを察していたからこそ時計の包装にこだわった。

好意を寄せて貰っている自覚があるからこそ、それに応える為の手間は欠かさない。

「てめぇが綺麗に開けんのも気持ち悪ィけど」

「その言葉そのまま目の前の馬鹿に返しますああ包装された贈り物された事無いんですっけザマァ」

「隣にいるから包装する手間いらねぇんだよ黙ってギルド籠ってろ負け犬ザマァ」

両側で声を荒らげる事無く行われる罵詈雑言の応酬にリゼルは微笑んだまま、ひぇぇと小さく呟いて震えながら手渡されたジルへの土産を受け取った。

ようやく帰宅の途についたリゼル達は再び長い馬車の旅を迎えていた。

進行方向を向いて座り、隣には相変わらずスタッドがいる。盛大にイレヴンは嫌そうな顔をしたが、護衛の名目で同行しているからには隣じゃなければというスタッドの思ってもいない言い訳により並び順は行きと変わらなかった。

リゼルのまん前へと座ったイレヴンは見るからに不貞腐れている。

とはいえリゼルはスルーして本を開いているのだが。

今回の依頼主はスタッドだし、依頼主に対して相応な態度を取っているだけに過ぎない。

行きは依頼や芝居を知らせなかった落ち度があった為に謝罪と共に機嫌をとったが、今は必要ないと穏やかに本を読み続けている。

隣に座ったスタッドが一緒に本を読んで露骨にイレヴンを煽っているが、気にしない。

「そろそろ半分ぐらい進んだ頃でしょうか」

「リーダーも飲む?」

しばらくして、ふとリゼルが本から視線を上げた。

イレヴンが差し出してくれるガラスのボトルに入った水を有難く受け取り、一口飲んで返す。

「魔物にも出くわさないですしこのまま順調に行けば夕方までには王都に到着するかと」

「それは良かった」

リゼルが微笑み、髪を耳にかけながら再び本へと視線を落とす。

その寸前、目の前に座ったイレヴンの手が剣へと掛かるのを見て無意識に本を閉じた。

「順調に行けばですが」

パンッと小気味良い音と共に本が閉じられるのと、リゼルの肩にスタッドの手が回されたのはほぼ同時。

直後体を前に倒され、剣を持っていない方の手でイレヴンが庇う様にリゼルの頭を抱え込みながら好戦的な笑みを浮かべる。

「おい御者仕事しろ! 真後ろ!」

バキッと馬車の後部を破壊しながら槍が勢いよく車内へと伸びた。

先程までリゼルの頭があった辺りから生えたそれをイレヴンが剣で弾きながら御者へと声を張り上げる。しかし予想外といっても良い程に槍が容易く砕けた次の瞬間、その中からぶわりと白い煙が広がった。

スタッドが咄嗟に御者席へと繋がる窓を氷で塞ぐ。これで被害は馬車内だけに収まるはずだ。

「ん、?」

「眠り薬、リーダー息止めてて」

寸前でイレヴンに口元を覆われ、リゼルは頷きながらうーんと考え魔法を展開した。

馬車の中を風が吹き荒れ、煙を馬車の外へと押し出していく。速度を上げた馬車では例え煙が外へ広がろうと馬にも御者にも影響は無いだろう。

視界がクリアになった事を確認し、リゼルは止めていた息をゆっくりと吐く。

そしてそのまま銃を取り出し、自らへと向けると同時に迷わず発砲した。

連続した銃撃は前へと体を倒したリゼルの上を通過しながら背後の板張りの壁に穴を開けて行く。ダンダンと響く銃撃音が馬車内に響くのを、イレヴンは愉快そうに笑いスタッドは淡々としながら聞いていた。

何発目かに野太い悲鳴と共に馬の嘶きが聞こえ、リゼルは攻撃を止める。

襲撃からわずか数秒、取られた先手をリゼル達は容易に取り返していた。

「大胆な事するようになったッスね!」

「君達の教育の賜物ですよ」

にこりと笑うリゼルに、イレヴンは声を上げて笑った。

ふとスタッドを見ると、じっとリゼルを見つめている。床に落ちた本を拾い上げてポーチへと仕舞いながら、リゼルはどうかしたかと微笑んだ。

「何となく予想はしていましたがやはり貴方が噂の銃使いなんですね」

「あれ、ジャッジ君から聞いてなかったですか?」

「あれは商人だけあって口が堅いんです、特に貴方が不利になる事ならば私にだろうと言いません愚図でもそれぐらいは分かっています」

そういえば知らなかったか、とリゼルは頷いた。

スタッドの言う通り冒険者の戦い方を容易に言い触らすのは良い事ではないだろう。

例え予想していなくとも驚かなかっただろうスタッドは納得したように頷いていた。驚きもしないのはリゼルのやる事ならば全てを受け入れる心持ち故か。

スピードに乗りガタガタと大きく揺れる馬車の中、リゼルが庇ってくれた二人に礼を言いながらさてと銃を操作する。

「随分と慣れてますね、盗賊でしょうか」

「それにしちゃお綺麗っつーか、初撃失敗してカウンター喰らっときながら諦めねぇとか引き際知らねぇ雑魚としか……おいもっとスピード上がんねぇの、馬やられっと面倒なんだけど!」

「限界です!」

「流石イレヴン、説得力が違います」

国を脅かす一大盗賊団の元頭。盗賊など大抵二、三回襲撃をすれば直ぐに捕まるのが普通だが、同じ国内で幾度も略奪を行って来ただけあって引き際も良く知っている。

引き際を知らないのか、引きたくない程この馬車に用があるのか。

しかしギルドの紋様が入った小さな馬車ともなると、金目の物など積んでいない事が分かるだろうに。

「あー、やっぱ追いつかれるわコレ。まあ馬車と馬じゃ当たり前ッスけど」

「馬車を止めたら思う壺ですし、このまま迎撃しましょうか」

近付いて来る馬の蹄の音、常とあまり変わらない空気の車内とは違い御者は半泣きだ。

必死に馬を走らせているものの機動力の違いには敵わず、並走するように馬車を囲まれつつある。

「じゃあ俺が銃で狙うので、イレヴンは俺が攻撃されそうになったら援護を」

「いけません危ないので中に居て下さい私が出ます」

「スタッド君、一応俺たちが護衛なので」

「大丈夫です」

扉へ向かいかけたリゼルを止め、スタッドが代わりに扉へと手をかける。

報酬を貰うのだし働かねばと苦笑するリゼルは真顔で首を振られて否定されてしまった。

開いた扉の隙間から天井に手をかけ、揺れる馬車に全くの危なげも感じず逆上がりの様に馬車の上へと身を翻して登る姿を見送ってイレヴンを見る。

「良いんでしょうか」

「良いんじゃねッスか」

基本的にリゼルが無事ならそれでいい年下達は、外聞など何も気にしない。

依頼人を働かせてのんびりしているのも何だし一人二人撃ち抜いておいた方が良いかと思うが、余計な手出しだというのなら止めておいた方が良いだろう。

何せスタッドも実力者、Sランク冒険者二人ぐらいならば真正面から同時に相手をしても生き残る。変に手を出しても邪魔になるだけだ。

「俺としてはちょっと複雑ですけど、本人が良いって言うなら任せちゃいましょうか」

「別にリーダー一人潰してるし充分ッスよ。それよりこっち、俺の隣。そっち危ねぇから」

イレヴンは背後の御者席へと繋がる窓の氷を叩き割りながら、リゼルを呼び寄せた。

スタッドは音も無く馬車の屋根へと乗り、すっと立ち上がった。

下でリゼルが気にしているようだが、別に気にすることはないのにと思う。今も自分が好きなように動いているだけであって、彼には何の責任も無いのだから。

揺れる馬車にふらつきもせず、馬を走らせながら此方を見上げる男達を見下ろす。

淡々とした無表情は変わらず冷たいままで、しかしパキパキと足元から薄く広がる氷が彼の心情を表していた。

「ッてめぇギルド職員だな! わざわざ顔を出してくれるたぁ好都合だ、俺達の狙いは冒険者ギルドだからなァ!」

「黙りなさい」

ギルド 如き(・・) が目的だと言うのなら、リゼルに手を出すべきでは無かった。

比べても比べようが無い程に至上の存在を、その程度の理由で巻き込むなど許される事では無い。

「誰に向かって手を出したのか思い知れクズ共が」

射られる矢を氷の刃で叩き斬り、スタッドは絶対零度の名に相応しい瞳で 罪人達(・・・) を見据えた。

目が合っただけで凍り付きそうな瞳、幻聴のように響くパキリパキリと氷の割れる音、向けられた敵意を越えた殺意に男達は冷や汗を流す。

前に進む事を嫌がる馬を何とか制し、罵声を上げながら前進する男達にスタッドは持っていた氷のナイフを投げつけた。

「ぐッ……!」

手元すら見えない速さで投げられたナイフが先頭の男の肩に刺さる。

この程度かと嘲笑を浮かべた男はしかし、次の瞬間その体から赤い結晶を咲かせながら落馬していった。

何が起こったのか分からないまま周囲が見たものは、体中を貫かれ絶命した男の姿。氷のナイフを中心に広がった巨大な結晶が血を纏い、それは何処か不気味ながら美しく光を反射していた。

男達の視線が集まる中、スタッドの手の中でミシミシと氷がきしむ音を立てながら何本ものナイフが作られていく。

「ひっ……」

「怯えて逃げる奴ぁ後で殺してやるからなァ! 何としてもブッ殺せ!」

男の怒号と共に、馬車の進行方向からも待ち伏せをしていたのか何人かが馬に乗って現れた。

スタッドはチラリと背後を見てその数を確認する。特に何の問題もない。

「リーダー前からも来たッスけど」

「前進で行きましょう、前なら御者席の窓からこのまま狙えます」

聞こえて来た声に、わざわざ手を煩わせるまでも無いと思ったが自分が手を下そうと思えば確実に馬車を一度止める必要がある。

リゼルもずっと馬車の中で疲れるだろうし、早く王都に帰れるに越した事は無いだろう。

淡々とそんな事を考えながら、ならばさっさと後ろ側を殲滅してしまおうと出来上がったナイフを投擲しようとした。

「リーダー、…………」

「え、どうしようかな、うーん……スタッド君、今良いですか?」

「はい」

真下から少し大きめの声で呼びかけられ、スタッドは平静の声で返事をする。

この声を悲鳴に妨げられるのは不快だと結晶を咲かせることは保留にし、近付こうとする者への牽制だけに留めた。

「今、とあるSランクパーティの二人が結婚を機にギルドを退会しようとしているのは?」

「知っています。ギルド長個人としては賛成の方向ですが本部から引きとめるようさり気なく言われたらしいです」

「それ、スタッド君本人はどうおもいます?」

不思議な質問に、スタッドは淡々と足元を見た。

真っ直ぐに向けられる穏やかな瞳が見たい、その声を屋根ごしではなく直接肌で感じたい。その思いが脳内を占める程度にはスタッドにとってどうでも良い話題だった。

「どちらでも構いません」

「Sランクが 王都(パルテダ) ギルドから抜けたら、評価が下がって仕事がやりにくくなったりしませんか?」

「評価が下がるのを気にするギルド長では無いですしギルド自体も際立って何か影響がある訳ではないかと」

「ギルド長やギルドじゃなくて」

可笑しそうに笑う声に耳を澄ませ、絶対零度のガラスの様な瞳が微かに和らぐ。

後ろからも前からも襲撃者達は迫っている。あと数十秒もすれば接触するだろう状況だが、スタッドには何も関係が無かった。

気にするのはただ一つ、リゼルという存在だけ。

「スタッド君だけが、俺にとっては大切なんです。影響、ありませんか?」

ぞくりと肌が粟立つ感覚を、抑えようも無い歓喜だと気付ける程にスタッドは感情に聡くはなかった。

ナイフを持つ手が震える、返事を返そうとする喉が詰まる、もう一歩も動けない。いっそ何かの攻撃を受けて自分の体が異常をきたしたのではないかと、それ程までに初めて味わう激情はスタッドを絡め取った。

泣くことなど知らない癖に、何かが込み上げる感覚を覚えて歯を食いしばる。

とにかく返事をしなければ。彼に問われたのだから、自分がすべきことは直ぐに答えを返す事だ。声が出ない。

「は、い」

喘ぐように絞り出した声にリゼルが微笑んだような気がした。

「じゃあ、貸しを作ることにしましょう。戻っておいで」

もはや疾走する馬車の上だという事も忘れ、完全に囲まれつつある状況すら忘れ、スタッドは声に促されるままに車内へと飛び込んだ。

穏やかな微笑みを前にして無意識に手を伸ばすと、その手を握られた。決して引かれた訳では無いのに引き寄せられるように近付きポスリと額をリゼルの肩に乗せると、頭を撫でられる。

まるで親の腕の中で甘える子供のように、スタッドは多大なる幸福と安堵に包まれていた。

「折角能面崩れたと思ったのに無表情のまんまじゃん、つまんねぇ」

「スタッド君にしては割と盛大に崩れてますよ」

「まじで、全然分かんねぇ」

擦り寄り動かなくなったスタッドをそのままに、さてとリゼルは馬車の扉を開けた。

疾走する馬車の速度が徐々に落ちて、もはや止まってしまう寸前だ。前後から挟まれて御者の怯える声が聞こえて来る。

広がる草原、遙か遠くに見える森。自分達と男達以外の何も存在しないはずの場所で、リゼルはスタッドを撫でる手でそのまま彼の耳を塞いだ。

息を吸い、珍しく大きな声で呼びかける。

「ヒスイさん、お願いします!」

ヒィンッと空気を裂くような甲高い音が聞こえると共に、今まさに馬車の扉の前で剣を振り上げた男の脳天を何かが貫いた。

貫いたそれはあまりの勢いに貫通して後ろの草原へと消えていったが、間違いなく矢なのだろう。

ヒィンッ、ヒィンッと音が続く。その度に男達は頭に風穴を開け、倒れる。

リゼル達を襲いにかかっていた人数分、その数だけ響いた音は襲撃者を全員地に伏せた後にピタリと止んだ。

「良く気付きましたね、イレヴン。俺は未だにヒスイさんが何処にいるか分からないんですけど」

「まー風下ッスからね。アイツとは会った事あるし」

「気付いて貰って助かりました。御者さん、あっちの森の方へ向かってくれますか?」

イレヴンの頬を褒めるように撫でながら、リゼルは遠くの森を指差した。

訳が分からないまま襲い掛かって来た男達は全滅したし、訳が分からない方向を指差されるしで混乱の最中にいる御者は、もはや言われるがままだ。

助かった事だけは理解している。魂が抜けたように馬を走らせている御者を大丈夫だろうかと見ながらリゼルは椅子へと腰かけた。

「で、そいつ何時までくっつけてんスか」

「気が済むまでさせてあげて下さい」

床に膝をつくように、スタッドは腰かけたリゼルとともにズルズルとしゃがみ込んだ。

離れまいと背中に回された手は決して放さず、ちょうどリゼルの腹に顔を埋める状態となっている。

全てを明け渡すような様子にリゼルは苦笑しながらその髪を撫で、イレヴンは不満そうにしながらも剥がそうとしなかった。イレヴンが泣いたあの日、リゼルと部屋をそのまま貸しておいて貰った借りを今回返せるのだと思えば我慢するしかない。

疲れた馬を気遣い、ゆっくりと走っていた馬車が止まったのは十五分ほど経った時だった。

小さく揺れて止まったのを確認し、リゼルはスタッドの背中を叩きながら立ち上がる。一緒に立ちあがったスタッドは頑なに離れようとはしない。

「馬車から降ります、ちょっとだけ離れて下さい」

どこか恍惚に浸っていたスタッドが腕を外し、一歩離れた。

一瞬たりとも逸らされる事の無い淡々とした瞳に苦笑し、リゼルは馬車を降りる。

目の前に立っていたヒスイ達パーティに、ゆるりと微笑んで見せた。

「すみません、巻きこみましたね」

「別に、嫌だったら拒否してるから良いよ」

「こんな所まで依頼ですか?」

「そう。でもあの程度、リゼル君とか獣人とか絶対零度とかがいれば手助けなんていらない気がするけど? 何で? …………え、何で今絶対零度抱きついたの?」

「お気になさらず」

ヒスイと会話を始めた事に構わず、スタッドはもう良いだろうとばかりにリゼルの正面に回って両手ごと抱きついた。再び肩に額を預け落ち着いた様子に、ヒスイ達パーティがざわめく。

まさかあの 王都(パルテダ) ギルドの伝説となりつつある絶対零度が、まさか幼い子供のように誰かに甘えている様子が見られるとは。

明日は雨だ、いや槍だ、むしろ今から飛竜の大群が、そんな声すら飛び交った。

「気にするなって言われても今それ以上に気になることなんて無いけど?」

「いいえ、もっと気になることがあるでしょう?」

にこりと微笑んだリゼルが、ヒスイ達パーティを見回した。

これだけ遠出の依頼なのだから居るだろうと思ったが、やはり全員総出で依頼にあたっていたようだ。リーダーである男性を見つけて、首を傾げるように挨拶する。

リーダーはヒスイの隣に立つように歩み寄り、簡単に挨拶を交わした。

「先日はジルがお世話になりました」

「いや、世話になったのは此方の方だ。一刀は怒ってはいないか?」

「大丈夫です、何とも思っていませんよ。その件に関して失礼ながら聞きますが、どうですか? そろそろお許しは貰えそうでしょうか」

「いいや」

俺はちょっと怒ってる、と小さく呟いたイレヴンをリゼルはさり気なく制した。

幸いにも相手には聞こえなかったようで、リゼルはさてとスタッドの髪を指に絡ませながら本題へと入る。

苦笑と共に寄こされた否定の言葉は上手くいっていないのだと如実に伝えて来た。

それなら好都合、リゼルはこんな場で何故そんな話をと訝しげな表情を浮かべる面々を眺めてヒスイへと視線を止めた。

「そちらのヒスイさんのお陰で助かりました、有難うございます」

「そうは言ってもヒスイの言う通り君達だけで片が付いたはずだが。だが失礼だが場合によっては此方を巻き込んだと見られてもおかしくは」

「いいえ。俺達だけじゃ無理で、貴方達は善意で手を貸してくれたんでしょう?」

襲撃犯を押し付けた上に、その非を逃れるつもりかと相手パーティの雰囲気が不穏なものとなる。

ただ一人ヒスイは普段の不機嫌そうな顔のまま、わずかに戸惑ったようにリゼルを見ていた。

そんな事を言う人物ではないはずだ。あのパーティーの夜、誰よりも高貴だった男と卑劣な真似が全く結びつかない。

庇う様に隣へと立つイレヴンに微笑み、リゼルは目を細めて悪戯っぽく笑って見せた。

「ギルドの馬車をわざわざ狙って襲い掛かる、ギルドに恨みを持って集まった元冒険者たちはなかなか手強くって……ギルド証剥奪とかの恨みだったんでしょうか。でも彼らが盗賊に身を落としてギルドの評判を落とす前に貴方達によって討伐されたんだし、ギルドはきっと感謝しきりになるでしょうね?」

「ええそれはもう」

促される様についっと髪を引かれ、スタッドはそちらを見もせず同意した。

わざわざ男達がギルドの紋様の入った馬車を襲う理由、準備万端な襲撃、眠り薬の知識と変則的な槍は迷宮品で、何より身に付ける装備は明らかに冒険者の装いだった。

もはや彼らの正体など一つしか浮かばない。スタッドに見覚えのある顔が無いか聞けば、そういえば数人居たと言うから確実だ。

どこか茫然とする面々を可笑しそうに笑い、言葉を続ける。

「ギルドとしてはこんなことバレたく無いだろうし、もしかして弱みまで握れちゃったかもしれません。口止めもしたいでしょうし、ちょっとしたお願いなら喜んで叶えてくれるかも」

ヒスイが出会ってから初めて眉間の皺を消して、目を瞬かせるようにリゼルを見た。

リゼルは髪を耳にかけながら目を伏せる。頬にあたるサラリとしたスタッドの髪に唇が触れた。

「なんて、こんな話し合いを聞かれたらギルドに睨まれちゃいますね」

「何の事でしょう私は今うっとりするのにかなり忙しいので何も聞いていませんでした」

「それは良かった」

クスクスと笑い、伏せた瞳を上げて前に立つリーダーを見た。

これだけ言えば充分だろう。後は彼がどう立ち回るかだが、Sランクパーティのリーダーというギルドと関係深い人物が手段を誤るとは考えにくい。

与えた材料が使われなければ貸しには出来ないが、今の状態を見ていると間違いなく使うだろう。

別に冒険者ギルドを脅迫しろと言っている訳ではない。ただ男達の事をギルドに知らせるだけで、勝手に向こうが機嫌をとってくれるだけだ。

「では俺達はこれで、依頼頑張って下さい」

「待ってくれ、礼を」

「言うのは此方のはずですよ。助けられたんですから」

ちなみに聞いてはいけない事を聞いてしまったと白い顔でガクガク震えている御者に関しては大丈夫だろう。Sランクパーティとスタッドを敵に回すことなど出来はしない。

話の聞こえないちょっと離れた所で待たせてあげれば良かったのだが、魔物の危険を考えるとそういう訳にもいかなかった。

離れたスタッドが先に馬車に乗り込み、リゼルも乗ろうとしてそういえばと振り返る。

「使った矢の代金、今度払いますね」

「……いらない、言わせないでよ」

言いにくそうなヒスイに笑い、リゼルは馬車へと乗り込んだ。

其処から王都までのおおよそ三時間、スタッドがくっついて離れなかった事は言うまでも無い。

依頼の完了手続きを終えて宿へ向かい、女将に帰った事を歓迎されながら階段を上る。

「ただいま帰りました、ジル」

「ああ」

リゼルは自室へと寄る事無くジルの部屋へと顔を出した。

居ないかもしれないと思いながらノックした扉は普通に開き、出掛けてはいなかったらしいと思いながら部屋に通される。

椅子に腰かけたリゼルが早速とばかりにポーチを漁った。

「はい、お土産です」

「お詫びの間違いじゃねぇの」

「大して驚きもしなかった癖に」

並べられた二本の酒に、どうやらマトモな土産らしいとジルは溜息をついた。

正直とんでもない土産が渡されるかと思った。そんな彼は生肉という選択肢をイレヴンが潰してくれた事を知らない。

一本は飲んだ事がある、もう一本の見た事の無い銘柄を見ながらジルはリゼルの向かい側へと座った。

しばらく眺め、横へ置く。どうやらハズレでは無いらしいとリゼルは満足そうに頷いた。

「どうですか? 久々に完全に一人の時間、楽しみましたか」

「楽しんだと思うか?」

あれ、と目を瞬かせる。怒ってはいない、しかし確実に機嫌を損ねている。

ジルが自らと共にいる事を苦だとは思っていないと知っているが、元々一人が普通だった彼なので時にはそういう時間も必要ではないかと思ったのだが。

ジルはそんな的外れな事を考えているであろうリゼルを呆れたように見ていた。

大体出会う以前のようにと言われても目の前の存在を知ってしまった以上無理に決まっている。知らなかった頃に当然のように過ごせていたのが嘘のようだ。

「何だかすみません」

「いーえ?」

察して謝ったリゼルに瞳を細めながら言う。

拗ねてる、と可笑しそうに伝えられた言葉に苦い笑みを浮かべながら溜息をついた。

笑いながらもどこか機嫌を窺うような視線を受けながら、さてどうやって機嫌をとってくれるのかと思うと悪くは無かった。