作品タイトル不明
30 幸せ
「ブレイザー家が機能していたのは、マリレーヌさんとアンセルのおかげだな」
「私の働きなど、マリレーヌ様の足元にも及びません」
リシューさんに褒められて、謙遜しているのはアンセル。
アシュトンと一緒にスカレティア皇国にやって来たアンセルとコネリー。アシュトンはサザリアン王国に帰って行ったけど、この2人は帰らず、コペリオン家で働く事になった。
「よく、アシュトンがアンセルとの契約を解消したわね」
ブレイザー家の執務をこなしていた、執事のアンセル。自分ができないと分かっているのに、唯一できるアンセルが居なくなったらどうなるのか──分からないほどの馬鹿ではないと思うけど……。
「普段から執務をこなしていたのは、私だけでしたから……」
と、にっこり微笑むアンセル。優しいようで企みに成功した時のような微笑み。
「ああ……」
アンセルは、先代が亡くなった後からアシュトンを補佐していた。アシュトンが行方不明になってからは、私が居るところでは当主印も扱う事もあったから、私が居なくなってからは、アンセルが完全に扱っていたんだろう。そうだとしたら、契約解消の書類なんて簡単に……。
「何というか……本当に心配になるぐらい、どうしようもない状態になっていたのね」
当主印を執事に丸投げなんてあり得ない。その印さえあれば、伯爵家のお金も自由自在に扱えるのだから。勿論、アンセルがそんな事をする事はなかっただろうけど。
「とにかく、私としては、またアンセルとコネリーと一緒に居られるようになった事は嬉しいし、これでノエラも安心して過ごせるわね」
「本当に、私達を受け入れていただいたコペリオン伯爵様には感謝しかありません」
アンセルの執事としての能力を知っていたリシューさんのおかげで、アッサリとコペリオン家に受け入れられた。既に執事が居るから、“使用人の1人として”だけど。コネリーはノエラと同じで、私付きの侍女となった。
「これからも、よろしくね」
******
アシュトンが帰ってから2年。
「ブレイザー伯爵の当主が代わったそうだ」
ある程度の予想はしていたけど、たったの2年で──とは思わなかった。
あれから、アシュトンは何とか頑張っていたようだけど、土地の改良が上手くいかず税収が減り続けていた。そんな中でも、贅沢な暮らしをやめられなかった義母とフラヴィアさん。
「先代夫人が、公費の使い込みをしていたそうで、使用人が国に訴えた事で、当主の管理不行届きで降爵か代替えか迫られ、当主の座を譲ったそうだ」
緩い処罰だと思うけど、義母やフラヴィアさんにとっては受け入れ難いものだろう。今迄のような贅沢な暮らしができなくなるどころか、新たな当主次第では、辺境地に追いやられるのだから。
「あの2人の子供が心配だわ……」
ブレイザー伯爵の跡継ぎではなくなった子供を、あのフラヴィアさんと義母がちゃんと面倒をみるのか、アシュトンが2人の手綱を握れるのか。
「私には、もう関係のない話ね。それに、他人の子よりも──」
「今日は天気も良いから、マリレーヌの体調が良かったら、庭園でお茶しない?」
「よろこんで!」
そうして、私はリシューの手を取って庭園へと向かった。
「いつ見ても、ここの花は綺麗だな。蝶も増えた?」
「そう言われれば、蝶は増えたかも?」
2人でお茶をしている場所は、コペリオンの庭園の奥にある、私専用のスペース。やっぱり花が綺麗に咲いていて、そこにはエメラルドグリーンの蝶が飛んでいる。
ようやく安定期に入って体調も落ち着いたから、先週あたりからまた、お花の世話を始めたところだった。
アシュトンが帰国してから半年後に結婚。夫婦となっても仕事でバタバタ忙しかったけど、半年前に妊娠が分かり、今は仕事はお休み中。先月まで 悪阻(つわり) もあり、寝込む日も多かったけど、ようやく悪阻も収まり、今日は久し振りの庭園でのティータイム。リシューと一緒に──というのが嬉しい。
「子供ができるというのは、本当に大変なんだな。本当に体調は大丈夫?何か、俺にできる事はある?あるならいつでも、どんな事でも言って欲しい」
「ありがとう。その気持ちだけでも嬉しいけど……我儘を言うなら、これからも時間がある時でいいから、こうして2人でお茶をしたいわ」
「それは、お願いされなくてもするし、俺からの願いでもあるから我儘のうちには入らない。我儘とは、他人を困らせる事だ」
相変わらず真面目で優しい。結婚する前と後で変わったのは、第一人称が“私”から“俺”に変わった事と──
「もっと俺を困らせるようなお願いはないのか?邸内で抱き上げて運んで欲しいとか、入浴の手伝いをして欲しいとか……は、俺が喜ぶだけだな……うん。マリレーヌになら、何をねだられても俺が喜ぶ事しかない気がする」
「リシュー……」
天然発言が悪化(?)した事。隙あらば私に構おうとする。
『 あ(・) の(・) リシューがねぇ……』
なんて、カロリーヌさんはニマニマしていた。
「俺がマリレーヌを愛しているから、何をされても嬉しさしかないんだろうな」
「ごふっ───」
「マリレーヌ、大丈夫か!?風邪か!?疲れたのか!?部屋に戻ろうか!?」
「リシュー、落ち着いて、大丈夫だから!」
天然発言と過保護がひどくなっている。でも、それさえも幸せだと思うのだから、困ったものだなぁ─と思ったりもする。
ーこの幸せが、今度こそいつまでも続きますようにー
そう願うと同時に、蝶が綺麗に輝いたように見えた。