軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

二巻発売記念番外編 エルツ様がお泊まりにやってきた!

今日、エルツ様が 隠者の隠れ家(エルミタージュ) にやってきて、一晩泊まることになっている。

なんでも休日をここでのんびり過ごしたいらしい。

泊まりでと聞いて驚いたのだが、照れた表情で言ってきたのがかわいらしくて、思わず承諾してしまった。

おそらく何もないとは思うが、なんだかドキドキする。

そんな気持ちを打ち消すように、私は朝からアライグマ妖精の三姉妹ムク、モコ、モフと一緒に薬草を摘み、料理の仕込みを行っていた。

エルツ様は時間ぴったりにやってくる。ネズミ妖精のモモも一緒で、アライグマ妖精の三姉妹との再会を喜んでいるようだった。

「エルツ様、いらっしゃいませ」

「お邪魔する」

エルツ様はお土産を持ってきたと言って、美しくラッピングされた箱を差しだしてくる。

中に入っていたのは、王都で大人気のチョコレートタルトだった。

「まあ、ありがとうございます! 一度、食べてみたいと思っていたんです」

予約必須のチョコレートタルトで、 隠者の隠れ家(エルミタージュ) に引きこもりがちだった私は予約と店頭への引き取りというステップを踏めずにいたのだ。

庭に置いてあるテーブルでお茶会を開くことにした。

ムクが皿を並べ、モコがフォークを添え、モフが茶器を用意する。

モモは魔石ポットを使ってお湯を沸かしてくれた。私はマルベリーの葉で作った茶葉をポットに入れて、お湯を注ぐ。

エルツ様がチョコレートタルトを切り始めたので、私がしますと言ったのだが、「私にも何かさせてくれ」と止められてしまった。

戸惑っていたら、家猫精霊のセイブルがやってきて『何かやりたいお年頃なんだよ』と言ってくる。エルツ様は否定せずに頷いたので、お任せすることにした。

「ビー、上手くカットできているだろうか?」

「ええ、完璧です」

「よかった」

エルツ様が切り分けてくれたチョコレートタルトをいただく。

「まあ、おいしい!」

チョコレートは濃厚で、タルトの生地はサクサク。底にラズベリーソースが入っていて、後味はさわやかだ。

エルツ様は食べずに私を見つめていることに気付き、思わず赤面してしまう。

「エルツ様も召し上がってください」

「そうだな」

静かな時間が流れる。なんとも癒やされるようなひとときを過ごしたのだった。

その後、私は薬草の世話を始めたのだが、エルツ様もするという。

「ビーと一緒にこうして土いじりをするのに憧れていたんだ」

「そ、そうだったのですね。では、お願いします」

一緒に、とは言っても作業をするのは別々の場所である。

エルツ様がせっせと庭で働く姿はなんとも貴重で、離れ離れなのになんだか心強いと思ってしまった。

お昼は朝から仕込んでいた野ウサギのパイと、薬草スープをいただく。

野ウサギはセイブルが仕留めてくれたものだ、と説明するとエルツ様は驚いていた。

「まさか狩猟の才能があるとはな」

『まあな。大型のクマとかも狩れるぜ』

クマを仕留めても食べきれないので勘弁してください、と言うとセイブルは楽しげな様子で笑っていた。

午後からはエルツ様と一緒にサンルームで読書する。

ぽかぽかとした日差しが温かくて、いつの間にか眠ってしまった。

その後、ふと目を覚ますと、エルツ様の上着がかけられていることに気付く。

「――!」

起き上がってエルツ様にお礼を言おうとしたら、眠っていることに気付いた。

読書の途中に寝落ちしてしまった私とは異なり、エルツ様はきちんとブランケットを被って眠っていた。

このまま身動きを取ったら起こしてしまいそうなので、もう少しだけ眠ろう。

なんて思っていたら、あっという間に夜になっていた。

エルツ様はすでに起きていて、サンルームのガラス張りになった天井を指差す。

そこには満天の星が広がっていた。

こんなにきれいな星に気付くのは初めてだった。

「美しいな」

「はい」

しばしうっとりと、エルツ様と一緒に星空を眺めたのだった。

夜はアライグマ妖精の三姉妹とモモが夕食を作ってくれた。

豚肉を薄くカットしてパン粉を振って揚げたシュニッツェルには、長時間煮込んだグレイビーソースが添えられていた。他にもタマネギとチーズのグラタンスープに、温サラダ、マルベリーパイとごちそうが並んでいる。

どれもおいしくって、心も体も満たされた。

最後にエルツ様にゆっくり入浴いただけるよう、薬湯を作る。

気分をリフレッシュできるよう、ローズマリーとレモングラスを束にしてまとめ、お湯に浮かべておいた。

そんな薬湯もエルツ様に大好評で、家でも試してくれるという。

私はお昼寝をしすぎたので、夜もゆっくり眠れるようにカモミールとラベンダーの薬湯に浸かったのだった。

あっという間に眠る時間となり、エルツ様は祖父がかつて使っていた部屋にお通しする。

「ビー、いいのか?」

「ええ。エルツ様が使ってくださるのであれば、祖父も喜ぶかと」

「そうか」

別れ際、エルツ様は私の手を握り、労ってくれた。

「今日一日、とても楽しかった。ビー、感謝する」

「私のほうこそ、すてきな時間をありがとうございました」

そんな感じで一日が終了する。

翌日、エルツ様は朝食を作ってくれた。モモと一緒に考えてくれたらしい。

キュウリのサンドイッチに、ふわふわのオムレツ、カリカリベーコンと私が好きなものばかりだった。

感謝の言葉を伝えると、今度はエルツ様のご実家に遊びにきてほしいと言ってくれる。

「ありがとうございます。いつか機会がありましたら」

「いや、具体的な日にちを決めておこう」

社交辞令的なお誘いかと思いきや、本気だったらしい。

大公家にお邪魔するのは気が引けたものの、エルツ様と一緒ならば意外と楽しめるのかもしれない。

「でしたら、月末のお休みでも」

「ああ、いつでも歓迎する!」

というわけで、今度はエルツ様のご実家にお邪魔することとなった。

楽しみはひとつ増えた日の話である。