軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

宴のおわり

「あー、面白かった!」

クリスタル・エルフの始祖は満足げに言っていたものの、オイゲンが起こした騒動を見た者達の顔色はよくない。

それも無理はないだろう。イーゼンブルク公爵家の一大スキャンダルが暴露されたのだから。

「あ、そうだ、陛下、イーゼンブルク公爵の爵位はもちろん剥奪だよねえ? 陛下が開いてくれた宴に勝手に侵入するだけでなく、見苦しい騒ぎを起こしたし」

「それはまあ……そうだな」

「よかったー!」

それを聞いて私も安心する。

イーゼンブルク公爵家の名誉は、これ以上堕とされることもないようだ。

「それから、陛下は私の誕生日に、なんでも願いを叶えてくれるって言っていたよね?」

「ああ、もちろんだ。千年もの間、我が国のために尽くしてくれた始祖のためならば、なんでも叶えてやろうぞ」

「よかった。じゃあさ、取り上げたイーゼンブルク公爵家の爵位を、彼女、ベアトリス・フォン・イーゼンブルクに与えてほしいんだ」

「なんと!」

国王陛下は瞠目し、周囲の者達もざわざわと騒ぎ始める。

それも無理もない。

これまで女性が公爵を継承した例などなかったからだ。

「始祖よ、イーゼンブルク公爵を継承できるのは、直系の男系男子だと決まっているのだが……」

「わかっているよ。だから、お願いをしているんだけど」

これまで上機嫌だったクリスタル・エルフの始祖の空気が、ピリッとして緊張感が広がっていく。

さすがの国王陛下も、千五百年と生きたクリスタル・エルフの始祖を前にしたら、強くでられないのかもしれない。その一言で、あっさり認めてしまった。

「わかった、わかった。それでは、オイゲン・フォン・イーゼンブルクから没収した爵位は、速やかにベアトリス・フォン・イーゼンブルクへ与えよう」

「本当? よかったー。これで私が天国に行ったときに、グレイにいい報告ができるよ。陛下、ありがとう」

「いや、まあ、喜んでくれたようで何よりである」

クリスタル・エルフの始祖は参加者達を振り返り、美しい笑みを浮かべて言った。

「それじゃあみんな、私はこれくらいにしておくから、各々最後まで楽しんでね!」

そう言って会場をあとにする前に、クリスタル・エルフの始祖は私達に向けて手招きをする。どうやら、話があるようだ。

別室に移ると、そこにはお酒や軽食が用意されていた。

勧められるがままにソファに腰かける。

「いやはや、ごめんねー。茶番を計画したのは私だったんだ」

エルツ様は気付いていたようで、険しい表情でいた。

「なんかねえ、真面目に生きてきた人達が損をするのは嫌だったんだ。グレイのことは守れなかったから、余計に孫娘である君にはすべてを手に入れて、幸せになってほしかったんだよね」

「始祖様、ありがとうございます。きっと祖父も、感謝していると思います」

「そうだといいけれど」

まさかイーゼンブルク公爵の爵位が私のもとにやってくるなんて、夢にも思っていなかった。

「イーゼンブルク公爵を、私がいただいてもよろしかったのでしょうか?」

「何を言っているの? 君しかいないよ!」

「そう、でしょうか?」

エルツ様のほうを見ると、こくりと頷いてくれた。

「申し訳ないけれど、君についてもいろいろ調査したんだ。そうしたら、驚くほど考え方や生き方がグレイにそっくりだと思ってね。グレイは亡くなってしまったけれど、彼は確実に、君の中で生きている。それに気付いたら、君以上にイーゼンブルク公爵に相応しい者はいないと思ってね。自信を持っていいよ、次期イーゼンブルク公爵!」

「始祖様、ありがとうございます」

「それと――」

クリスタル・エルフの始祖は慈愛に満ちた表情を浮かべながら私に言った。

「エルツ君のこと、これからもよろしくね」

「はい」

私達は笑顔で別れたのだった。

クリスタル・エルフの始祖は威厳があって、近寄りがたいお方なのだろう、とイメージを決めつけていた。

しかしながら実際のクリスタル・エルフの始祖は気さくかつおちゃめで、とても優しいお方だった。

クリスタル・エルフの始祖のおかげで、私はイーゼンブルク公爵となるらしい。

まだまだ実感できないものの、もしも本当になれたとしたら、この先一生をかけて大切にしたい。

◇◇◇

それからオイゲンはイーゼンブルク公爵の爵位を没収され、社交界から追放された。

クリスタル・エルフの始祖の生誕パーティーに侵入し、騒ぎを起こした罪で拘置されていたようだが、一ヶ月ほどで釈放されたという。

二度と、私に近付かないよう厳命を受けたようだ。

それからどうなったかは把握していない。

ヒーディは修道院に入り、生まれる子は養子に出されるようだ。

エラはエルツ様やクリスタル・エルフの始祖から貰った報酬を、全額ギャンブルに使い込んでしまったらしい。

残った僅かなお金でケルンブルンの街に戻って、慎ましい暮らしに戻ったようだ。

私はといえば爵位を授与され、正式にイーゼンブルク公爵となった。

それと同時に、お祖父様が凍結していた財産が明らかとなる。

なんでもオイゲンが使い込まないよう、三分の二の財産を別に確保していたらしい。

お祖父様がそんなふうに手を打っていたなんて知らなかった。

おかげで、使用人達や魔法薬師達を呼び戻すことに成功したのである。

まずは荒れ果てた屋敷をきれいにするために庭師と共に薬草の植え替えから始める。

それと同時に、下町の人たちが気軽に立ち寄れる診療所と薬局を作る計画を立てている。

損をするだけだ、と他の魔法薬師から言われているものの、私はそう思わない。

実現できるよう、頑張っている。

いろいろと奔走する間に、冬は過ぎ去り、温かな風は吹く春を迎えていたのだ。

薬草は元気いっぱいで、これから太陽の日差しをたっぷり浴びて、大きく成長してくれることだろう。

忙しい毎日を送る中、私の癒やしはエルミタージュで過ごすことである。

今日はエルツ様が遊びに来てくれた。

以前約束した、全自動洗濯機を修理してくれたのだ。

「魔法式が消えかけていたから、動かなくなっていたのだろう。書き直して、消えないよう加工をしておいたから、あと百年は使えるかもしれない」

「エルツ様、ありがとうございます」

修理が終わったあとは、シーツやカーテンを洗って 物干し用の芝生(ドライング・グリーン) に広げて干した。

そのあとは、シナモンとクローブを入れた木イチゴのパイをエルツ様と囲む。

お茶はもちろん、庭で採れた薬草をたっぷり入れた一杯だ。

「やはり、ビーが焼いた菓子と、薬草茶は世界一だな」

「そのようにおっしゃっていただけて、嬉しく思います」

このように、エルツ様とエルミタージュで過ごすこの瞬間が幸せでしかない。

これから先も、こんな時間が続きますように、と祈らずにはいられなかったのだった。