軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

白いカラスと

メアリやディンディル伯爵を巻き込んでしまい、申し訳なく思う。

ふたりは帰り道の心配をし、護衛を付けようかと提案してくれたものの、これ以上迷惑をかけるのも悪いので丁重にお断りした。

オイゲンは騎士に拘束されたので、今日のところはこれ以上接触してくることもないだろう。

問題は鳥マスクの人物であるが、彼は先生と呼ばれ、オイゲンが一目置くような存在であった。

きっと大金を積んで、依頼したに違いない。

オイゲンがいなければ、手出しをしてくることはないだろう。

次に向かったのは、中央街にある市場だ。ここで食料などを買い足したい。

お昼前だというのに、商店が並ぶ通りには大勢の人達がいた。

一瞬でもぼんやりしていたら、人の波に飲まれ、自分の意思とは関係ない場所まで流されてしまうだろう。

今日は綿埃妖精がいるので、重たい小麦粉や油などを買おうか。

なんて考えていたら、目の前に白い羽根が落ちてくる。

はらり、はらりとゆっくり舞うそれを、手で受け取った。

「これは――」

思わず空を見上げると、白いカラスが私の上をくるくる旋回していた。

あのカラスには見覚えがある。

常連さんの手紙を運んできていた使い魔だ。

白いカラスは珍しいので、見間違えるわけがなかった。

上空から、声が聞こえる。

『見ツケタ、見ツケタ!!』

いったい何を見つけたというのか。白いカラスは甲高い声で叫んでいる。

普段は大人しい子なのだが、今日は興奮したように叫んでいた。

『ベアトリス、危な~い』

「え?」

綿埃妖精の、のんびりおっとりとした注意でハッと我に返る。

すぐ傍に、大きな荷車が迫っていたのに気付く。回避は間に合わない。

ぶつかる!!

奥歯を噛みしめ、衝撃に備えたが、腕をぐっと強く引き寄せられた。

路地に引き込まれ、衝突を回避する。

「――!!」

私を助けてくれたのは、ボロボロの外套に身を包み、頭巾を被った男性だった。

その姿にギョッとしてしまったのは、鳥マスクの人物と似たような外套を着ていたからだろう。

今、目の前にいる人は、鳥マスクをかけていない。

ただ、頭巾を深く被っているので、顔は見えなかった。

「あ、ありがとうございます」

感謝の気持ちを伝えたあと、バサバサと鳥の羽ばたく音が聞こえる。

先ほど上空で見た白いカラスが、男性の肩に着地したのだ。

『彼女、彼女ガ、イーゼンブルク公爵家ノ、薬師!』

白いカラスが肩に止まっているということは、彼が常連さんだったのか。

使い魔を使役し、私を探していたようである。

「何かご用でしょうか?」

「少し、話がある」

「あの、あなたはいったい、どこのどなたなのでしょうか?」

「ここは誰の耳目があるかもわからない。場所を変える」

少し掠れていて、落ち着いた声である。声色から年齢を推測するのは難しいように思えた。

彼について行ってもいいのか。

先ほどのオイゲンとの事件もあったので、不安になる。

立ち止まって考えていると、男性が振り返った。

「どうした?」

私の代わりに、綿埃妖精が答えてくれた。

『知らない人に、ついていったら、いけなーいんだ!』

綿埃妖精の言うとおりである。

白いカラスには見覚えがあるものの、それだけで安全だとは言えない。

男性はずんずんと大股で戻ってきて、私の前で頭巾を外した。

腰まで届くような白く長い髪が、さらりと流れてくる。

研ぎ澄まされたような美貌が、露わになった。

透き通るような美しさに、気品を感じるような佇まい、それからナイフのような長い耳を見てハッとなる。

それは国内で唯一存在する、クリスタル・エルフの血を引く一族――ヴィンダールスト大公家の一員である証であった。

一度、王宮に飾られていた肖像画で、その姿を目にした記憶が残っていた。

千年も昔、国王を不治の病から救い、人々に医術と薬術を伝え、大公の位を与えられて国に留まることとなったクリスタル・エルフの始祖の姿。

ふと、思い出す。それは、社交界デビューをした日の、王宮での記憶である。お祖父様の案内で目にした、肖像画に描かれていた始祖の姿に、驚くほどそっくりだった。

名前はたしか、エルツ・フォン・ヴィンダールスト、だったような。

クリスタル・エルフは長命のエルフで、長くて千年ほど生きる。

始祖は現在も在命で、王室典医貴族として治療に当たっている、という話を聞いた覚えがあった。

「あなたは、ヴィンダールスト大公家の」

「それだけわかればいいだろう」

大公は吐き捨てるように言うと、私の手を握ってずんずんと歩き始めた。