軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八十五話

エルザさんとマモンさんと再会した翌日。私はライハルト殿下に呼び出されました。

どうやらエルザさんは私のところに来た足でパルナコルタ王宮も訪れていたみたいです。

「フィリアさん、どうぞそちらにおかけください」

ライハルト殿下の執務室を訪れると彼は立ち上がり来客用のソファーに腰掛けるように勧められます。

室内には既にオスヴァルト殿下とエルザさんがおりました。

「エルザさんに昨日お聞きしましたが、パルナコルタ王室宛てに教皇様の訃報とフィリアさんを次期教皇にするという遺言が記されていたという旨の書状が届きました」

どうやら王室にもクラムー教の本部から正式に書状が来たみたいです。

これでパルナコルタ王国は選択を迫られることになります。私を他国に送るのかどうか。

いえ、選択を迫られるというのは適切な表現ではありませんね。

この国に私が留まったところで聖女として活動することは許されなくなる。私は教皇の勅命に逆らった異端者とみなされるのですから……。

「承知されているかとは思いますが、教皇様の御意に反発するということは、大陸全土の国を敵に回すことを意味します。輸入、輸出のストップはもちろんのこと、下手をすると戦争まで発展する可能性すらあるのです」

ライハルト殿下はトーンを落として教皇様の命じられたことに逆らうと近隣諸国すべてから縁を切られて孤立すると説明をします。

「兄上の言っていることは千も承知だ。だからといって、フィリア殿がこの国から出ていく理不尽は受け入れられない。兄上だってそう思っているだろう? 聖女としてフィリア殿をこの国に来てもらうという選択をしたのは兄上なんだから!」

オスヴァルト殿下は語気を強めて、それでも受け入れられないとしました。

この件についてはどうしようもないと、殿下も思っているかもしれませんがそれでもはっきりと思いを真っ直ぐに伝えるのは彼らしいです。

「エルザさん、もう一度確認しますが、弟はフィリアさんの婚約者です。弟がフィリアさんと共にダルバート王国で暮らす、ということについては全く問題がないのですね?」

そんな彼の訴えを聞いて、ライハルト殿下はエルザさんに私とオスヴァルト殿下が二人でダルバート王国に行くことについて言及します。

昨日、エルザさんはそれは構わないと言っていた気がしましたが。この質問の意図はなんでしょうか。

「ええ、昨日の説明どおり二人の生活については保証するわ。王室の賓客として扱うし、教皇の夫となる方を冷遇することあり得ない。大聖女さんが教皇になるにあたって、何一つ不自由させないことを約束する。ダルバート王国に来てくれさえしたらね」

エルザさんは昨日よりも私の生活面の保証について強調してライハルト殿下に説明します。

おそらく、ここまでがクラムー教の本部側の譲歩出来る限界なのでしょう。

「オスヴァルト、結論から伝えます。フィリアさんとダルバート王国に行きなさい。それが最善策です」

「あ、兄上! な、何をいきなり! そんなの認められるはずないじゃないか! 俺もフィリア殿も、この国を離れるつもりはないぞ!」

有無を言わさぬ口調でライハルト殿下は私たちにダルバート王国に行くように命じると、オスヴァルト殿下は立ち上がって反論しました。

ライハルト殿下の立場からするとそう言わざるを得ないことは、承知しています。

多くの国と隣接しているパルナコルタ王国にとって外交問題はまさに死活問題。国を守ることを優先するならば今回の命令に反抗するという選択肢はないのです。

「オスヴァルト、冷静に考えなさい。あなたとフィリアさんのお二人が幸せに暮らせるのです。結構なことではありませんか」

「結構なことだと?」

「そうです。愛する者と共に生きられる、という保証をしているのですよ。それにクラムー教の本部はパルナコルタ王国に聖女まで送ると約束もしてくださっている。国防に関しては何ら問題はない。あなたは何も心配せずにフィリアさんを守ることだけを考えれば良いのです」

アリスさんは優秀な聖女ですし、退魔師としての力もありますから国の安全は保証して貰っていると言っても過言ではないでしょう。

確かに私が居なくなってもパルナコルタ王国に損失はない。逆に居座れば、外交問題に加えて聖女の喪失とデメリットが大きくなります。

そして、オスヴァルト殿下を諭すように言葉をかけるライハルト殿下からは、彼に対する優しさのようなものも感じられました。

「ほう。それで万事平和に丸く収まるなら、個人の感情は押し殺してでもその方がいいとでも言うのか!?」

ですが、オスヴァルトは怒りは収まりません。

それどころかダンとテーブルを叩いて、さらにライハルト殿下に反発します。

「そのとおりです。今回は従ってもらいますよ、オスヴァルト」

熱くなっているオスヴァルト殿下とは対象的に冷静さを失わずに淡々と諭すライハルト殿下。

この件については私が以前にミアを助けたいとジルトニアに向かおうとしたことを反対されたとき以上に譲らない、という意志を感じました。

「フィリアさんはどうお考えですか? 私としては出来ればあなたからも弟を説得してほしいのですが。フィリアさんの言葉ならオスヴァルトも素直に受け入れられると思いますし」

私はどう考えているのかライハルト殿下は尋ねられます。

オスヴァルト殿下は仮に私が説得したとしても意見は曲げられない方だと思いますが……。

「私としてはパルナコルタ王国を離れたいとは思えませんし、現時点で離れるつもりはありません」

「つまりフィリアさんもオスヴァルトと同じ意見だと。これは参りましたね」

私の意見を聞いたライハルト殿下は意外そうな顔をして、しばらく考え込む仕草をします。

どうやら私がライハルト殿下に同意するものだと思っていたみたいです。

「大聖女さん、あなた本気でそんなことを言っているの? もっと頭の良い方だと思っていたけど」

「買い被りですよ、エルザさん。ただ、最初にこのお話には違和感があります。ですから、その疑問をまずは解消したいと思っているのですが」

「違和感? 違和感ってどんなことなの?」

このお話が例えばどうしようもない決定事項なら私たちに出来ることは何もないかもしれません。

結局はこの国に迷惑をかけないように、とオスヴァルト殿下も納得して二人で国を出る選択をすることとなったと思います。

ただ、私が納得出来ない理由としては最初からある違和感があったことです。

この話は根本から変だと思ってしまったからこそ私は素直に受け入れられないでいました。

「まずは通例だと大司教が次期教皇になるはずですし、なぜ自分が教皇になるのかという疑問です。普通は私ではなく大司教の中のどなたかが教皇として選ばれて然るべきだと思うのですが」

大司教のうちの誰かが教皇になっていたという通例に従わずに私が選ばれたというのは、大きな違和感でした。

どう考えても私にパルナコルタの聖女をやめさせてまで教皇にせねばならない理由がないのです。

「例外がない訳ではないわ。五代目教皇リチャード・アーデルバイン、十二代目教皇デイビッド・デイモンは司教から教皇になったもの。必ず大司教でなければならないって訳ではない」

「五代目のときも十二代目の時も大司教がかなり老齢だという理由でやむを得ず例外的にという事情だったはずです。それに聖女は教皇になったという例はまだ歴史上に一人もいません」

エルザさんの仰るとおり大司教以外から教皇になった例はあります。

しかしながら、それはタイミングの問題で大司教の年齢が八十を超えており、体力的に難しいと判断されたという特殊な事情からでした。

現在の大司教は最高齢のオウルストラ様すらまだ六十代の前半でヘンリー大司教に至ってはまだ二十代。

クラムー教は年功序列で位が上がるというシステムではないので、厳しい修行を乗り越え、人格や能力が問題なしと判断されれば若くして大司教になることも可能なのです。

それでもヘンリー大司教のように二十代で大司教まで上り詰めた人材は歴代でも二人しかおらず、稀有な人材だということは間違いありません。

「あなたの主張は分かったわ。でもね、大聖女さん。例がないからといって、あなたには断る権利はないの。いいえ、断ることは出来るけど、その結果がもたらすのは良くない状況ってことは分かるでしょ?」

「はい。私がこの話を断ればパルナコルタ王国に迷惑がかかるということは承知しています」

「あなたが本当にこの国のことを想うのなら、教皇になりなさい。あたしたちのトップに立って今度は大陸中を信仰の力で救えるように動くべきよ。聖女としての務めは教皇と兼任して行えばいいわ」

エルザさんの言うことはとことん正論です。

彼女も私のためを思っているからこそ、強めに教皇になることを勧めていらっしゃるのでしょう。

「オスヴァルト殿下とよく話し合って身のフリ方を決めようかと思います。まだ六日間お返事は待ってもらえるみたいですから」

「フィリア殿……」

私はオスヴァルト殿下と話し合って結論を出すとして、すぐに答えを出しませんでした。

エルザさんは一週間待つと仰っていたので、まだ考える時間はあるはずです。

「そう、安易な答えを出さないことを祈っているわ」

彼女は私の答えを受け入れてくれました。

たったの六日ではありますが、何らかの答えを出そうと思っています。

自分とオスヴァルト殿下との将来がかかっているのです。

後悔のないような道を選べるようにしなくてはと、心に決意を固めました。