軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八十四話

ヨルン司教からヘンリー大司教の話を聞いて二週間程が過ぎたでしょうか。

一通の手紙が私の所に届きました。差出人の名前は……。

「ダルバート王国のアリス・イースフィル殿からです」

「ありがとうございます。ヒマリさん」

ヒマリさんから手紙を受け取った私はさっそく拝読させて頂きました。

その手紙の内容は簡単に申しますと訃報です。

そう、教皇様がお亡くなりになられたという知らせでした。

「大陸中が喪に服すことになりそうですね」

「まさか、教皇様がご逝去されたのですか?」

手紙を読み終えた私の言葉を聞いてヒマリさんは全てを察します。

「そのとおりです。ヒマリさん、屋敷の皆さんにこのことを伝えてください。そして今日より一ヶ月間、喪に服すようにとも」

「御意」

明日には大陸中に知れて、同様に追悼の意を示すことになるでしょう。

ですが、早く知った以上はせめて私たちの周りだけでも先んじて喪に服すべきだと思ったのです。

「フィリア様〜、お客様ですよ〜」

「リーナさん、どうぞお通しください」

ヒマリさんに喪に服すように皆に伝えるようにお願いしてまもなく、リーナさんがお客様だと口にされました。

「やぁ、フィリアちゃん。相変わらず美人だね〜」

「大聖女さん、お久しぶりね」

「――っ!? マモンさん、それにエルザさんも……」

マモンさんとその傍らにいるのはエルザさん。

アスモデウスとの戦いから約四ヶ月ぶりの再会に私は少なからず驚きました。

アリスさんの手紙にもお二人が来られる予定とは書かれていなかったのですが。

お二人は以前と変わらぬ感じで声をかけてきました。

何故、こちらに来たのかは分かりませんが、私はこの再会を嬉しく感じております。

「よく来てくださいました。ご連絡いただければ、もてなす準備をしたのですが。お上がりください。リーナさん、お茶の準備をお願いします」

「は、はい~、分かりました~。わー、エルザさんとマモンさんが来てくれるなんて~。びっくりです~」

私はお二人を屋敷の中に招いて、リーナさんに紅茶を出すように、とお願いをしました。

教皇様が亡くなられたタイミングでの訪問。これは偶然でしょうか。それとも、何かしらの関連があってのこと?

疑問は色々とありますが、落ち着いてゆっくりと聞きましょう。

「リーナちゃんの淹れてくれた紅茶はやっぱり格別だなぁ。僕ァ君をお嫁さんにしたい」

「やだ~、マモンさんったら。相変わらずお上手ですね~」

「いやいや、僕ァ冗談とか嘘とか大嫌いな悪魔なんだ。至って真剣にプロポーズしてるわけさ」

「マモン、ナンパを続けるか、首を落とされるか、選ばせてあげる」

「嫌だなぁ、エルザ姐さん。冗談だよ、冗談。僕ァ姐さん一筋に決まっているじゃない」

アスモデウスが私を狙っていると護衛していたときに、お二人はこちらに滞在していましたから、我が家に一瞬で馴染んでしまいました。

お二人のこういう掛け合いを見るのも久しぶりですね。

「それで、エルザさん。今日こちらに来た理由は何なのでしょうか?」

雑談もそこそこにして、私はお二人に用件を尋ねます。

エルザさんの性格上、遊びに来られたということはないでしょう。

「“新たな教皇”に就任おめでとうと挨拶に来たのよ」

「“新たな教皇”様、ですか?」

エルザさんは“新たな教皇”という言葉を出しました。

教皇様がお亡くなりなられたので、もちろんその地位は継承されるのですが、その者がこのパルナコルタ王国にいるということでしょうか。

しかし、一体誰が? 心当たりがありません。

「就任、おめでとう。新教皇フィリア・アデナウアー」

「はい?」

今、エルザさん、私のことを教皇と呼びましたか? これはどういうことでしょう。まさか私が次の教皇に指名された?

いえ、そんなはずはありません。これはエルザさんの冗談でしょうか。

「あのう。今、エルザさんは私のことを教皇だと言われましたか? 聞き間違いではありませんよね……」

「ああ、確かに姐さんはそう言ったぜ。アリスちゃんの手紙を見たなら知っていると思うが、教皇が亡くなった。んで、亡くなった教皇の遺書に次期教皇は大聖女であるフィリアちゃんを指名するって書かれていたのさ」

そ、そんなことってあるのでしょうか。

私はこの国の聖女ですし、教皇になるならばパルナコルタ王国を出ていってクラムー教の本部があるダルバート王国に行かねばならないのですが……。

通例では大司教のうちの誰かが新たな教皇になるはずなのに、どうして亡くなった教皇様はそんな遺言を記されたのでしょう。

「そんな~、フィリア様はこの国の聖女です~。教皇にはなりませんし、ずっとこの国に居るんです~」

リーナさんは立ち上がって私を庇うように手を広げて反論します。

彼女がこうして慕ってくれることは嬉しいです。

それに何より私はパルナコルタ王国が好きですし、この国の聖女であることに誇りを持っていました。

「私、自身そのつもりです。パルナコルタ王国の聖女となりまだ一年も経っていませんが、私なりにこの国を愛せるようになりました。何があろうとこの国を去るようなことは出来ません」

この話は承服出来ない、と私は思いながらリーナさんの言葉に同意します。

この国から動くなど考えられません。教皇にはもっと相応しい方がいるはずです。

「それに私が居なくなれば、この国に聖女は再び居なくなります。そんなことを看過することは出来ません」

そして私はこの国の唯一の聖女。

パルナコルタ王国はエリザベスさんを失って窮地に立たされました。

また、同じことを繰り返すわけにはいかないと私は主張しました。

「安心なさい。この国にはあなたの代わりにアリスを送ることになっているわ。あの子ならあなたの代わりは務まるでしょ?」

「アリスさんはそれを納得されているのですか?」

「本部所属のあの子が決定に逆らうことはない、ということだけは保証するわ」

私がパルナコルタ王国から居なくなってもアリスさんがこちらに来るから問題はないとエルザさんは主張しました。

「とにかくダメです~。フィリア様はオスヴァルト殿下と婚約しているから出て行ってはダメなんです~」

悲痛な声を出して、リーナさんは私とオスヴァルト殿下の婚約のことを持ち出しました。

そうですね。殿下も私とともに国を出るなど拒否するでしょう。

「あー、そういえばフィリアちゃんは婚約中だっけか。おめでとさん。式には呼んでくれよ。そして、僕がお嫁さん募集中ってこともお友達に伝えといてくれ」

「あなたがあの実直そうな王子様と婚約したのはアリスから聞いているわ。遅れたけど、おめでとう」

「ありがとうございます。ご挨拶が遅れて申し訳ありません」

婚約したことを祝福してくれたお二人に私はお礼を言いました。

お二人ともアリスさんから婚約したことは聞いており、ご存じだったみたいです。

「でもね。大聖女さん、あなたも知っているでしょう? 教皇の指名は絶対なの。これはどこの国のどんな法律でも覆らない神の啓示に等しい命令。あなたには拒否権はない」

声のトーンを落として、エルザさんはまっすぐに私を見据えながら新たな教皇に就任することは拒否出来ないとしました。

教皇の権力は各国の王族をも上回り、その命令を拒否することはこの大陸全てを敵に回すことと同義だということは承知しています。

ですが、私にはこの命令を不当だと主張するのを止めたくはありません。

「では、もしも私がこの話をお断りした場合はどうなりますか?」

「残念だけど、大聖女さんとあなたのことを呼べなくなるでしょうね」

「というと、やはり私は……」

「ええ、そのとおり。あなたは聖女の資格を剥奪される。今後、異端者として一切教会に関わることを禁じられ、ただのフィリア・アデナウアーとなるわ。そうなれば、この国には聖女は再び居なくなるわね」

私は聖女ではいられなくなる。

そうはっきりと断ずるエルザさんの目は爛々と輝いており、一切の反論を認めないように見えました。

この国に、聖女を残すためには私が出て行かねばならない。そう仰るのですね。

「フィリアちゃん。この話は確かに理不尽だし、辛い気持ちは分かるぜ。だがな、ダルバートは良いところだ。さっさとこの国のことは諦めて新しい環境で楽しむことを考えようや」

「とはいえ、あなたも迷うでしょうし、悩む時間も必要でしょう。一週間、一週間だけ時間をあげるわ。一週間以内に答えを出しなさい。婚約者の王子様がダルバートに来るなら厚く遇することは保証するから。彼にもそれを伝えておくことね」

一週間だけ、待つ時間を与えるとエルザさんは言いました。

オスヴァルト殿下と共にダルバート王国に行くことを歓迎するみたいです。

この国で殿下と結婚をして一生を過ごすと先程まで思っていただけに、この選択はあまりにも重く胸を締め付けました。