軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八話

「んで、魔界とやらが近付くとどーなるんだ?」

パルナコルタ王国の第二王子オスヴァルト殿下は王宮の大会議室にあらゆる分野の専門家や国政や軍事に関わる主要な人間を集め、『近いうちに魔界が最接近する事態』への備えについて話し合いを取り纏めていました。

私は殿下たちにどのような危機が訪れるのか具体的に説明をするために自らの研究資料を持ち出して、会議に参加しています。

ジルトニア王国にいた時も魔物たちの活動を抑えるためにいくつか提案したいことがあって、進言しようとしたこともあるのですが、「女が出しゃばるな恥ずかしい」と父に一喝されて以来……表立って意見を発することを控えていました。

そういった理由でこの会議の話が来た時も、最初は資料のみオスヴァルト殿下に渡して参加はしないと意志を示したのです。

『フィリア殿、あんたの聖女としての忌憚のない意見が聞きたいのだ。頼む……、国のためにあんたの力を貸してほしい』

私の答えを聞いた殿下はわざわざ夜遅くに屋敷を直接訪ねて頭を下げて会議に参加してほしいと仰せになりました。

一国の王子が簡単に頭を下げても良いものなのかと思いましたが、ここまでされて参加しないとは言えません。

そんな経緯もあって、私は皆さんの前で殿下に意見を求められているのです。

「正確には分かりませんが、400年前は魔物の巣の数が一気に10倍から20倍に急増したみたいです。人口は大幅に減少し、国家として成り立たなくなった国もありました。現在……『光の柱』によって 聖域(サンクチュアリ) を形成しておりますが、その中に魔物の巣が大量に作られるとそれが破られる可能性があります」

緊張して少しだけ早口になりながらも私は過去に起こった出来事と、これから起こりうる可能性があることについて話しました。

もちろん、不確かな話です。数百年に一回という大きな周期で起こっている事象ですから、ブレもありますし、結局何も起こらないなんてことも十分に考えられます。

「魔物の巣が10倍か……。国家の危機というレベルじゃ収まりきらねーだろうな。とりあえず国防に予算アホほど回すか」

「し、しかしながら……、すでに今年の予算はかなり切迫してると言いますか……、不確かな情報に対して無駄な出費を――」

オスヴァルト殿下は金に糸目をつけずに対策予算を回すと仰ってましたが、国内の予算の管理をしている宰相は言いにくそうな表情をされながら出費は控えたいと言葉を出しました。

宰相の言っていることはもっともです。私みたいな 他所(よそ) 者の意見を聞いて国庫から多額の予算を捻出するなんて……反対して然るべきだと思います。

「バーカ。何も起こんなかったら、起こんなかったで、最高じゃねーか。んなことより、あーやってりゃ良かったとか、こうしてりゃ助かったとか、後悔しねぇことが大切だろ? 金は何とかするし、責任は俺が取る。なるべく、被害を抑えられる方向に動こうや」

殿下は何も起こらないことを願いながら、後悔しないように最大限の努力をするべきだと主張しました。

この人はどうしてそんな選択肢を選べるのでしょう。批判とかそういうことが怖くないのでしょうか……。王族とはいえ、予算の無駄遣いをすればお咎めなしとはいかないはずなのですが……。

「そんじゃ、臨時で兵士の数をこれだけ増やして……。フィリア殿、これで何とかなるか……?」

パルナコルタ騎士団の団長などの意見を取り入れながら、殿下は私に人員の配置や数を地図に記して見せました。

これは凄いですね……。大軍が攻めてくるという状況でもこれだけの配備は必要はないでしょう。

しかし――。

「これではまったく足りません。兵士たちが多数犠牲になります」

「手厳しいな。しかし、どーやってもこれが限界だぜ」

聖域(サンクチュアリ) が破られる前提だと、魔物は凶暴化しているので生半可な戦力だと潰されてしまう可能性が高いです。

パルナコルタ騎士団は剣術に長けた騎士たちが多いと世界的にも有名ですが、それでも大量の化物の相手は厳しいでしょう。

オスヴァルト殿下――保身よりも国の安全を優先してリーダーシップを発揮出来る……今までに会った人たちとは違うタイプの人間。

ミアのことがとても気がかりで、故郷のことも少しだけ心配になっていますが――私は最早この国の聖女。

それならば、この国の安全を第一に考えることが私の天命のはずです。だから私は――。

「一つ方法があります。騎士団の方やその他の兵士の方にもかなり負担がかかりますが、何とかする方法が」

「「――っ!?」」

この国の聖女として全力を尽くすことを決心しました。

あれだけ私を嫌っておられるユリウス殿下や両親が戻れと言うことはないはずですから、全部の力をパルナコルタを守ることに使いましょう――。

この決断が正しかったのか未だに分かりませんが、私もオスヴァルト殿下と同じで後悔しないように動こうと思ったのでした――。