軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六十八話(ミア視点)

とにかく何とかしなきゃ。魔物の数は数えるのが嫌になるくらいだけど。

これってどうしようもないかもしれない。だって、大陸中で魔物が急に大発生しているんでしょう。

「エミリーお姉様、フィリア様の気配を辿ってここに来てみれば」

「嫌な状況になっているみたいですわね。なるほど、ジルトニアの窮地とはこのような事態でしたの」

グレイスやエミリーといったボルメルンの聖女たちもフィリア姉さんの魔力を感知してこっちに向かってきていたみたいだ。

彼女らの助けを借りたって、ううん、集まっている聖女たちの力を合わせてもこの魔物の数はどうにもならないわ。

彼女たちも、そう思っているのだろう。顔色が良くない。

「「ギャオオオオオオオオオッ!」」

ワーウルフやエビルタイガーといった無数の魔物たちが一斉に私たちに向かってくる。

こうなったら、力の限り戦って――。

「メガ・フレイム! ギガ・ブリザード!」

私は自分がどんなに傷付いても魔物たちを一掃する。

そんな覚悟を持って、戦いに挑もうとしたとき、巨大な炎と寒波が周囲の魔物たちを蹴散らしてしまう。

何という魔法のキレとセンス。

こんなに威力の強い魔法を使える人、フィリア姉さん以外にいたんだ。

でも、今の声……明らかに男の人の声だったよね。聖女じゃないってこと?

「「お父様!」」

「マーティラス家の聖女がこの程度で動揺しよって情けない!」

あの人はマーティラス伯爵。

グレイスたちのお父様って、あんなすごい魔法を使えるんだ。

そういえば、フィリア姉さんが尊敬してるって言ってたような……。

見た目は普通のおじさんって感じなのに。

「エミリー! アデナウアーの聖女に出来て、お前に出来ないなんて言わせぬぞ! 追いつくために訓練したのだろう!?」

「えっ? エミリーお姉様、大破邪魔法陣を使えますの?」

「…………」

エミリーさんはフィリア姉さんをライバル視していて、お義母様も力を認めていた人だけど、まさかこの短期間で“大破邪魔法陣”を使えるようになっていたなんて。

いや、あの魔法陣の修得難易度は並じゃない。

私も訓練しているけど、発動は上手く出来るようになったけど、それを拡大して展開させることが技量不足でどうしても出来なくて……。

「出来ることは出来ますわ。しかし、今のわたくしでは発動までに時間がかかりすぎますの。安定して拡大し展開するには魔力が足りずに失敗してしまう確率が高いでしょう」

本当に出来るんだ。発動に時間がかかる弱点はあるけど、展開まできちんと出来るなんて……。

よし、それなら。私にも考えがあるわ。

「エミリーさん、今の話は本当ですか? 魔力に余裕がある状態で発動さえしちゃえば、魔法陣の展開――確かに出来るんですね」

「あ、あなたはフィリアさんの妹の――」

「ミア・アデナウアーです。出来るのですか? どうなのです?」

「ええ、出来ますわ。魔力に余裕があれば、ですが。ですが、それが何か?」

フィリア姉さん、姉さんの守ったこの大陸を魔物になんかに好き勝手させないから。

「私が大破邪魔法陣を発動させます。エミリーさんは私が発動させた魔法陣の展開をお願いします。私の力では安定して展開させられないので」

「しかし、あなたとわたくしでは魔力を共有することは――」

「フィリア姉さんがもしもの時を想定して私にもネックレスを渡してくれていたんです」

そう、姉さんは自分にもしものことがあった時のことをちゃんと考えていた。

私が完全に大破邪魔法陣を使えたら、それだけで問題なかったのに情けない。

でも、エミリーさんと力を合わせれば……。

「あなたが術式を発動させるとして、発動までの時間はどれくらいですの?」

「5秒ってところです。術式の発動スピードだけは誰にも負けない自信があります」

「……承知しましたわ。それでは、わたくしの魔力と波長を合わせなさい。時は一刻を争いますの」

ネックレスに魔力を集約させ、それを自らの力として取り込む。そして、大破邪魔法陣を発動させる。

フィリア姉さん、どうか無事でいて。私は絶対に成功させるから。

「それでは、いきます!」

私は大破邪魔法陣を発動させた。大地が黄金に輝き、発動に成功したことをそれが証明する。

とはいえ、魔法陣の半径は10メートル程度。安定して展開出来ない私の限界だ。

あとは頼んだわよ。姉さんのライバルなんでしょ。エミリーさんは……。

「きっちり5秒、お見事ですわ。それでは、ここから先はわたくしが責任を持って大陸全土を覆ってみせましょう!」

「エミリーお姉様! 口だけじゃないというところをお見せくださいな!」

「おーほっほっほっ! もちろんですわ! マーティラス家の聖女の実力を大陸全土にアピールして差し上げます!」

何か凄い人よね……。

こうやって、高飛車な態度取ってるから素直に尊敬できないんだけど、本当にグーンと大破邪魔法陣が広がっているし。

とにかく、エミリーさんのおかげで大破邪魔法陣が消えてしまって最悪な状況になったけど、すぐに現状復帰してくれたわ。

大破邪魔法陣は悪魔には効果がないけど暴れていた魔物たちは次々と倒れて無力化される。

あとはあの、鬱陶しい悪魔たちを全滅させれば――!

「くっ……、フィリア殿が俺のせいで……! うおおおおおおおおっ!」

倒れていたオスヴァルト殿下も立ち上がり、眼鏡の力で低級悪魔たちも認識して槍を振るって粉々にする。

オスヴァルト殿下のせいじゃない。姉さんを守れなかったのは、私の方だ。

近くにいたのに、大事なときに気絶して。情けないよ。何のための修行だったのよ!

「シルバー・ジャッジメント!」

「むっ! やりますわね!」

「ミアさんには負けませんの!」

私やオスヴァルト殿下、それにグレイスさんやエミリーさんたちも悪魔の討伐に加わって、そんなに時間はかからなかったわ。

この辺の悪魔たちを全部やっつけるのに……。

最悪は避けられたんだと思う。

でも、フィリア姉さんがどこかに連れ去られて、どこに行ったのかも手がかりがない状況っていうのは。私たちに絶望を与えるのに十分だった。

「フィリアの居所ですが、退魔師の方ならご存知でしょうね」

「ええ、あの感じは心当たりがありそうでした。まったく、ヒントくらい残して行きなさいよ……!」

あのエルザって人の口ぶり、アスモデウスって悪魔の根城を知っているって感じだったわ。

退魔師は悪魔退治の専門家だから……、きっと連中のことにも詳しいはず。

だからこそ、あの人たちが行ってしまった今、この状況はノーヒントも良いところなのである。

「そうではありません。あの方も退魔師なのでしょう? 何か知っていそうではありませんか?」

「いててて……。あれ? エルザ先輩がいない!? フィリアさんも……!? まさか、アスモデウスのところに!?」

あっ、退魔師がいた。

ええーっと、あの人、なんて名前だったっけ? さっきまで覚えていたんだけどなー。

「ヌラウス様! フィリアさん、連れ去られてしまいましたわ! どこにいるのかご存知なのでしょう!?」

「クラウスです! いや、知っていると言えば知っていますが……」

「ほ、本当か!? おいっ! 教えてくれ! フィリア殿は何処にいるんだ!?」

「フィリア様〜〜! まさか、誘拐されてしまわれるなんてリーナはメイド失格です〜〜!」

「フィリア様の居所を教えないと、殺す……!」

「ヒマリ、脅かすのは良くないですぞ。ですが、我々も主の身を案じるあまり、いつまでも紳士的ではいられませぬ」

「フィリア様ーーーっ! このフィリップ一生の不覚でございますーーーっ!」

あのクラウスさんって人、影薄いなぁ。

いや、フィリア姉さんの周りの人が濃いのかなぁ。

みんなから質問攻めにあって、すごく困った顔をしているクラウスさん。

そろそろ喋らせてあげて。みんなが一斉に質問するから答えられないんだよ。

「ええーっとですね。アスモデウスの本体は地上と魔界の間である狭間の世界にいるのです。こちらでユリウス氏の体に憑依したのは本体は四百年前にフィアナ様に封印されていて地上に来ることが出来ないからでして、魔界の接近と共に魂だけをこちらに移動するのが精一杯だったからです」

地上と魔界の狭間の世界?

何よ、それ。魔界ってものがそもそもイメージ出来ないのに、その狭間の世界って意味が分からないわ。

大陸のどこか、とか。海を超えた他の大陸……、とかなら何とかイメージ出来るし、そこに行く方法を考えようってなるけど。

「アスモデウスはフィリアさんを手に入れて本体の元に向かったはずです。フィリアさんの魂を使って初代大聖女フィアナ様を復活させるために。そして、彼女の力を利用して自身も完全復活しようと目論んでいるのでしょう」

なるほど。

自分を封印した相手を生き返らせて、封印を解かせようって算段なのね。

愛がどうとか、言っていたけど、結局自分のためじゃない。

「で、クラウス殿は狭間の世界に行く方法を知っているんだよな!?」

「ええ、もちろん。退魔師が使い魔を引き連れているのは、悪魔が狭間の世界への空間移動能力を持っているからです。僕の使い魔であるサタナキアも、狭間の世界へのゲートを開くことが出来ます」

あー、良かった。

クラウスさんがフィリア姉さんの居所を知っている上に、行き方まで知っているんじゃない。

これなら姉さんを救い出す見通しがつくわ。

「それなら話が早い! 俺がフィリア殿を助ける! 俺をアスモデウスの元に連れて行ってくれ!」

「殿下、ここは私にお任せあれ!フィリア殿はこの騎士団長フィリップが必ずや連れて帰りますゆえ!」

「主君を助けるのは家臣として当然のこと。私も行きましょう」

「フィリア様はこの国にいなくてはならない方ですから〜。私もお助けします〜」

「ということです。我々を連れて行ってもらいますぞ」

私も行きたいところだけど、そんな得体の知れない場所に行ったらせっかくの大破邪魔法陣が消えてしまいそうだし。

みんなを信じて待つしかないか……。

「ええーっ!? 狭間の世界は悪魔たちの本拠地でとても危険な場所なんですよ! エルザさんとマモンを信じて待つべきです!」

いやいや、そんなの待っていられないわよ。

私だって行けるものなら行きたいもん。何があっても。

エルザさんとマモンとかいう悪魔は強いんだろうけど、それでも最善は尽くしたいと思うのが人情でしょう。

それに――。

「一刻も早くフィリア殿の安否が確認出来ないと、俺は不安なんだよ! ここで待っているなんてあり得ない!」

『今の声はオスヴァルト殿下ですか? フィリアです。聞こえますか?』

「わ、わ、私のネックレスからフィリア様の声が〜〜」

「「「――っ!?」」」

えっ!? リーナさんのネックレスから突然フィリア姉さんの声が!?

私たちは思いもよらない展開にびっくりして声が出なかった――。