軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六十七話(ミア視点)

激しい痛みと共に気を失ったらしい私が気づいたとき、フィリア姉さんはアスモデウスとかいう悪魔が取り憑いたユリウスの腕の中に居た。なぜかユリウスの右腕は無くなっていたけど……。

あのバカ王子、姉さんに何をしたのよ。フィリア姉さんが気絶しているなんて、そんなの信じられない。

聖女として完璧で、魔物はもちろん悪魔にだって負けないって信じていたから姉さんが倒れている光景は受け入れられなかった……。

「お義母様……! フィリア姉さんは何であんなことに……!?」

「ミア、目覚めたのですね。この状況は――」

「あたしがヘマをしたからよ。まさか護衛対象に守られるなんてね。一生の不覚だわ」

ヒルダお義母様が事情を説明しようとすると、ダルバート王国から派遣されてきたというフィリア姉さんの護衛のエルザさんが自分のせいだと口にした。

自嘲するその口元とワナワナと震わせているその拳。彼女が屈辱を堪えていることがよく分かる。

「とにかくフィリア姉さんを助けないと……」

「不用意に攻撃してはなりません。フィリアは脇腹を負傷しています。これ以上傷付くことがあれば、死に至る可能性すらあるのです」

私が魔力を高めてユリウスの皮をかぶったアスモデウスを攻撃しようとすると、お義母様はそれを手で制する。

いやだって、このままあいつを帰らせるわけにはいかないじゃない。

だって、あいつの目的はフィリア姉さんで、それも達成してしまっているんだから。

「でも、だからって。指を咥えて見ていられない!」

「なんだ、ミア。死んでいなかったのか。まぁいいや、僕はもう帰る。邪魔しないでくれ……!」

フィリア姉さんを助けるために手のひらをあいつの腕に向けてシルバー・ジャッジメントを放とうとしたが、その瞬間に黒い矢が無数に飛んできて、砂埃が舞い上がり私の視界から姉さんの姿が消える。

今度は私が姉さんを守るって決めたのに、このままじゃフィリア姉さんがあんな奴に――。

「じゃあ、ご機嫌よう――」

「フィリア殿ーーーー!! うおおおおおおおおっ!!」

「――っ!? なっ!?」

そのときだ。遙か後ろから姉さんを呼ぶ叫び声がして、物凄い勢いで槍がユリウスのもう片方の腕を貫いたのは。

ユリウスの左腕はフィリア姉さんと共に空中から落下する。

「よっと! すごいな、フィリア殿の作ってくれた槍は。きちんと悪魔とやらの腕を貫いたぞ」

馬に乗って駆けてきたオスヴァルト殿下が落ちてくるフィリア姉さんをしっかりと抱き止めた。

嘘……!? 信じられない。私の魔法でびくともしなかったあいつの体を貫くなんて。

フィリア姉さん、悪魔退治に特化した武器を作ったって言っていたけど、こんなに凄かったの……?

オスヴァルト殿下のあの眼鏡も姉さんが作った低級悪魔を視覚できるモノだっけ。

とにかく良かった。オスヴァルト殿下のおかげで姉さんは助かったわ。

やっぱり、姉さんのことを任せられる頼りになる男性って殿下しかいないかもしれない。

これでユリウスの両手はなくなった。

それでも、魔法が使えるのは厄介だけど、みんなの力を集めればあんな奴……。

「いつまでも僕が再生能力を失ったままにしていると思うなよ――」

「――っ!? う、腕が生えただと!? そういえば、フィリア殿がそんなことを言っていたな。首を撥ねられても平気とか」

両手を即座に再生させたユリウス。やっぱり悪魔が憑依して人間とは全然違う体になっているのね。

フィリア姉さんを奪い返されることがないようにしなきゃ――。って、腕がなんで伸びるのよ。

「嘘だろっ!? 何で腕が伸びるんだよ……!」

オスヴァルト殿下も青い顔をしながら馬を走らせてユリウスの腕から逃げようとしたんだけど。

「返してもらうぞ。パルナコルタの王子よ!」

「ぐはっ!?」

ユリウスはオスヴァルト殿下を殴り落馬させて、フィリア姉さんを手放した瞬間を見逃さなかった。

姉さんを掴んだユリウスは地面に激突して倒れてしまったオスヴァルト殿下を尻目にこの場から消えてしまう。

「マモン! いつまで寝ているのよ! 早くあの男を追うわよ!」

「アスモデウスの旦那! 逃がさないぜ!」

マモンという悪魔が空中に円を指で描くと、真っ黒い穴が空いて……その中にエルザさんとマモンが入って行った。

ちょっと、どこに行ったのよ。私もそこに連れていきなさい。

いいえ、ちょっと待って。フィリア姉さんがこの国から居なくなったってことは――。

「「「「ウオオオオオオンッ!!」」」」

所々で魔物の咆哮が聞こえる。

やっぱり、フィリア姉さんの大破邪結界が完全に効果がなくなってしまった。

せっかく姉さんがこの大陸を……、私を助けるために作ってくれた最強の破邪魔法が、全部無駄になってしまうなんて。

悪魔たちに加えて、魔物が次々とこの場に現れる。

私は思い出していた。魔物たちの群を前にして死を覚悟した、あの日のことを。

「最悪のシナリオだよ。私たちがもっと強ければ……」

きっと大陸中でパニックが起こっているに違いないわ。

一刻も早くフィリア姉さんを救出しなきゃならないのに。

くっ、どうすればいいっていうのよ――。