軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六十一話

さて、そろそろ休憩も終わりですから早めに会議室に戻りましょう。

フィリップたちに今後のことを頼みます、と挨拶をして、私は会議室へと向かいました。

足取りが軽い――神隠し事件の話など緊迫感のあるお話をした後でしたが、皆様のおかげでリラックス出来たからでしょうか。

「フィリアさん、ちょうど良かった。悪魔対策の予算を資料にまとめたので、挨拶も兼ねて会議室に行こうと思っていたのですよ」

「ライハルト殿下! お疲れさまです……!」

廊下で私を呼び止めたのはパルナコルタ王国の第一王子であるライハルト殿下でした。

どうやら殿下は予算案の資料を私に渡すついでに各国の聖女に挨拶しようと思っていたようです。

聖女世界会議(セイントサミット) を成功させようと最も尽力していたのはライハルト殿下でした。

人員の手配から各国の聖女やその護衛の宿泊地の準備など率先してリーダーシップを発揮しながら、指揮をとられていましたから……。

おそらく、先代聖女のエリザベスさんも生きていたら、喜んで協力していたに違いない、だからライハルト殿下は婚約者だった彼女の意志を継いでいるのだろう、とオスヴァルト殿下は先日私に話されていました。

エリザベスさんはライハルト殿下の心の中でまだ生きているのでしょう。

「会議の方はどうですか? 有意義な情報交換は出来ていますでしょうか?」

「もちろんです。国によって力を入れている部分も違いますから、今後の参考になります」

「それは良かったですね。フィリアさんにとって有意義ならば、すなわちそれはパルナコルタ王国そのものの繁栄に繋がりますから。私たちにとっても喜ばしいことです」

ライハルト殿下は聖女としての私を高く評価してくださっています。

私にとって有意義ならば、それはパルナコルタの繁栄。大袈裟だと思うのですが、そこまで期待していただけて光栄です。

そういえば、以前にライハルト殿下は私にプロポーズされましたが……あれから色々とあってそれどころではなくなったので、待たせっぱなしなんですよね。

早く返事をしなくては、と思っているのですが――。

「そういえば、 聖女世界会議(セイントサミット) の日取りはライハルト殿下が決めたのだと聞きました。暦の上では特に縁起が良い日ではありませんが、何か特別な日なのですか?」

「あはは、さすがはフィリアさんだ。普通はそんなところまで気にしませんよ。なるほど、確かに聖女が集まるハレの日ですから、暦上で大吉日を選ぶべきでしたね。失念していました」

そうでしたか。今日という日を何か意図があって選んだのだと思ったのは私の考えすぎだったみたいです。

ライハルト殿下なら暦上で吉日か否か気にされると思ったのですが……。

深読みをしてしまったみたいで、少々恥ずかしいです。

「失礼しました。変なことを聞いてしまって。昔から細かいことを気にするので、神経質だとよく言われてしまうのです。直さなくてはと思っているのですが……」

「いえ、フィリアさんの推測は当たっていますよ。この日を 聖女世界会議(セイントサミット) の開催日に選んだのは私情が絡んでいます。他ならぬ私の」

「えっ? 私情ですか? ライハルト殿下が……!?」

素直に驚きました。私の知る、ライハルト殿下という人物は私情を挟むということとは程遠い人間だと思っていたからです。

何事も合理的に判断して、国の安寧を願う殿下の姿勢は聖女としての信念にも通じるところがあり、共感していましたから。

「今日はエリザベスと結婚する予定の日だったのですよ。会議の後で皆様が立ち寄る予定の、大聖堂で――」

「――っ!? そ、そうでしたか。申し訳ありません。私ったら無神経にライハルト殿下の心の中に入り込むような真似をしてしまい」

何と余計なことを言ってしまったのでしょう。

まさか今日がライハルト殿下の亡くなった元婚約者であるエリザベスさんとの結婚式の日だったなんて。

「気にしないで下さい。私らしくないことをしたと思っていますから。この日を他の行事の日として埋めてしまえば、何か私の心の中が変わると思ったのですが……」

少しだけ寂しそうな顔をして、ライハルト殿下は心の内側を変えたいから、このイベントを今日にしたと告白されました。

そんなことで私には大切な方との約束を忘れられるとは思えませんが、殿下にとってエリザベスさんを失ったことはそれだけショックが大きかったことなのでしょう。

「ライハルト殿下、変わったりしませんよ。エリザベスさんを失った悲しみは、他の行事なんかで埋まるはずがありません。……殿下の心の中にエリザベスさんがいるのですから」

「……そうですね。私の心にはリズが……、いえエリザベスがまだいるみたいです。……しかし不思議です。彼女への想いが色褪せないことに、何故か私はホッとしてしまいました」

胸に手をおいて、静かに微笑みながらそう答えるライハルト殿下。

想い出を忘れてしまうかもしれないと考えることはある意味では恐怖かもしれません。

もちろん、悲しみを乗り越えることも大事かもしれませんが……。過去を大切にすることも同じくらい大事だと私は思います。

「以前にフィリアさんに結婚を申し込んだ件ですが……」

「は、はい。すみません。覚えてはいたのですが、なかなか返事が――」

「いえいえ、今は有事ですから急かすつもりはありません。落ち着いた頃にゆっくりと考えていただければ」

ライハルト殿下は以前にプロポーズされたことについて、言及されましたが結論を急いでいるという訳ではなさそうです。

そうですよね。今は魔界の接近と同等くらいの危機が迫っているかもしれませんから、結婚どころではありませんよね……。

「私が気になったのは、フィリアさんにも心の中に誰かがいるのでは……、というお話です」

「こ、心の中に誰かが、ですか?」

――オスヴァルト殿下?

ライハルト殿下の問いかけを聞いた瞬間に何故かオスヴァルト殿下の顔を思い浮かべた私。

な、なんでしょう。とても、恥ずかしいのですが――。

「……ええーっと、そのう、なんと言いましょうか、心の中に出てきたというか、そのう」

「誰かがいるのですね? なるほど、振られる覚悟はしておかなくてはならないみたいです」

「ら、ライハルト殿下?」

「それでは、フィリアさん。弟をくれぐれもよろしくお願いします」

興味深そうに私の表情をご覧になりながら、再び微笑むと、会議室のドアを開けて私をエスコートしてくれました。

お、弟をよろしくって、わ、私、何か口にしましたっけ――。