作品タイトル不明
6巻発売記念SSその1
「魔法について講義……ですか? オスヴァルト様」
朝食のとき、オスヴァルト様がそんなことを口にしたので、私は思わずオウム返ししてしまいました。
「今度、アレクトロン王国の国王……エヴァン陛下がパルナコルタに来られるだろ? 陛下は優れた魔術師だし、魔法についての知識も明るい。俺も少しぐらい知識をつけようと思ってな」
なるほど、そういうことでしたか。
アレクトロン王国との交流パーティーはオスヴァルト様が主催します。
きっと、エヴァン陛下との会話を広げるために勉強しようと考えたのでしょう。
「承知いたしました。魔法についてお教えいたします。しかし、魔法とひと口に言っても範囲が広いです。どんなジャンルのお話が聞きたいですか?」
「うーん、そうだな。エヴァン陛下の母君は元聖女だと聞く。俺も聖女の夫であるし、聖職者の魔法について詳しく聞かせてくれ。教会で修行しなくては修得できない魔法も多いのは知っている」
聖職者の魔法。
私やミアのようや聖女や、ヨルン司教や大司教であったヘンリーさんが身に着けている魔法のことを仰っているのでしょう。
「聖職者の魔法ですね。……まずはヒールなどの癒やしの魔法がそれに当てはまります」
「怪我の治療や体力の消耗を回復させる魔法だな」
「はい。ヒールは特に基本的な魔法なので、修得はさほど難しくありません。魔力を持つ薬師などは教会でしばらく修行されて覚える方もいるほどです。ご存じかと思いますが……ヒールなど癒しの魔法に特化した修行のみを受けた治癒術師などもおりますし」
薬師だった私の父もヒールが使えたとヒルダお母様から聞きました。
きっと父も教会で修行を積んだ期間があったのでしょう。
「ふーむ。なるほど……確かに治癒魔法は便利だからな。薬師や医師が使えると、より有効に活用できるのは明白だ」
「ええ。あとは結界などの邪なる力を遮断する魔法ですね」
オスヴァルト様が納得したような顔をされたので、私は話を進める。
「結界は聖女しか使えないんだろ?」
「そうですね。結界は祈りを捧げて天界の神々の力を借りなくてはならないので、聖女にしか使えません。ただ、 光の盾(ホーリーシールド) のように小規模かつ小範囲に展開する防壁に関しては修行さえ積めば習得可能です」
結界を発動させたり、光の柱を作ったりするためには神々の力を借りなくてはなりません。
聖女の力が特別視されるのは、この一点のみです。
「 光の盾(ホーリーシールド) って結界とどう違うんだ?」
「違いですか……。ええーっと、魔物や悪魔の魔力を遮断して弾くという点では似ていますが、背後が無防備になります。利点としては発動が結界よりも速いことですね」
祈る時間が不要な分、咄嗟に発動できることが 光の盾(ホーリーシールド) の利点でしょう。
今でこそ咄嗟に防御が必要なことはほとんどなくなりましたが、お務め中は魔物にいきなり襲われることなどザラにありましたので……。
「それと、こちらはあまり使う機会がないのですが、 光の盾(ホーリーシールド) とよく似た魔法で光の壁というものもあります」
「光の壁? 確かによく似たニュアンスだな」
「こちらは文字どおり壁を作り出す魔法です。鋼鉄以上の硬度の壁であらゆる物理的な衝撃を防ぎます」
「へぇ…… 光の盾(ホーリーシールド) よりも盾っぽいな」
オスヴァルト様の仰るとおり、こちらは大きな盾というイメージが強いですね。
「人同士が争っていた時代には、よく使われていたみたいです。できれば使いたくない魔法ですね」
「人同士が争っていた時代、か。そうだな……そんな時代にしてはならないな。アレクトロン王国とも友好な関係を維持していかねば……」
私の言葉を聞いて、オスヴァルト様は力強くうなずきました。
アレクトロン王国との交流パーティーの主催者としての責任の重さを感じているでしょう。
「オスヴァルト様なら大丈夫です。きっとアレクトロン王国の国王陛下もよろこんでくださりますよ」
「フィリア……ありがとう」
「それでは、講義を続けましょう。次は――」
まるで陽光のようなその微笑み。
接しているだけで心が温かくなる。
オスヴァルト様には人を惹きつける力があります。
今度のパーティーも必ずや成功する。私はそれを確信していました。