軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3-1

窓から差し込む陽の光が眩しくて、思わず目を細めた。

見上げた空は青く、雲ひとつない。

天気は快晴だが、今年の夏もあまり気温が上がらず、例年と同じく冷夏になるだろうと予想されていた。

ここはビーダイド王国の、魔法学園の敷地内に建てられている王立魔法研究所である。そこで昨年の農作物のデータをまとめていたアメリアは、そっとため息をつく。

(今年も、寒い夏になりそうね)

幼い頃は、北方に位置するアメリアの故郷でさえ、夏はとても暑かった。

それが、年々気温が下がっていき、今となっては夏の盛りの時期でさえ、晴れ渡った日は数えるほどしかなかった。

アメリアは地方貴族で、実家のレニア伯爵家は多くの農地を有している。だから夏とは思えないほど涼しい日が続くと、毎年のこととはいえ、どうしても気持ちが沈んでしまう。

それでもこの三年間で、冷害の対策はしてきた。

(悩んでも仕方がないわ)

アメリアは、憂鬱を振り払うように勢いよく立ち上がる。

その成果も少しずつ表れてきていて、今や主食の穀物の収穫量は、冷害が深刻になる前に戻りつつある。

とくに、ビーダイド王国の第四王子であり、アメリアの婚約者でもあるサルジュが品種改良した穀物と、彼と一緒に考えた水魔法を使った魔法水の効力が大きかった。

他にも、成長促進魔法を付与した肥料や、雨を降らせる魔導具など、ふたりで開発したものはたくさんある。

(ふたりで、というか……。わたしはただ、思いついたことを話しているだけ。それを形にしてくださっているのは、サルジュ様だわ)

アメリアは相愛の恋人である彼を思い浮かべて、柔らかな笑みを浮かべた。

サルジュは、ビーダイド王国の直系の王族にのみ引き継がれる光魔法の他に、土魔法を使うことができる。

さらに植物学の知識も豊富で、彼は品種改良を繰り返して、冷害に強い穀物を作り出した。

この大陸では主に主食とされているグリーという穀物は、春に植えて秋に収穫する。けれど、冷夏が続くと収穫量がかなり落ちてしまう。

冷夏でも育つ品種改良をしたグリーは、今年はほとんどの農地に植えられているだろう。

ただ虫害に弱いという弱点があったが、それも虫害を防ぐ魔法を付与した『魔法水』を使うことによって解決できる問題だ。

彼がいれば、この国だけではなく、この大陸の食糧事情は改善するに違いない。

そう信じている。

一歳年上の彼は先に学園を卒業してしまったが、アメリアも今年で王立魔法学園を卒業する。

今はサルジュとは別行動になることも増えてしまい、少し寂しいが、来年になればまた一緒に行動する時間も増えるだろう。

(それどころか……)

アメリアは、自分の手を見つめる。

そこには、サルジュに贈られた婚約指輪がある。

この指輪は魔導具でもあり、アメリアに危機が迫ったときは、サルジュにも伝わるようになっているらしい。

実際、去年公務として訪れたジャナキ王国からの帰り道で、アメリアが攫われそうになったとき、異変を察したサルジュが助けてくれたこともある。

(来年の春、学園を卒業したらすぐに、結婚することになっているから)

指輪を見つめていると、思わず笑みを浮かべてしまう。

だがサルジュと結婚すれば、アメリアは王子妃となる。

そのための勉強もしなければならず、この夏までは、サルジュと離れたことを寂しく思っている時間もないほど忙しい日々を過ごしていた。

学園が終わるとすぐに王城に戻り、王太子妃であるソフィアに、王族の一員となるための勉強を教えてもらっていたのだ。

だが今は、一時的に中断している。

そのため、少しだけ時間に余裕がある。そのせいで、ついひとりで物思いに耽ってしまのかもしれない。

「アメリア、どうしたの?」

空を見上げてため息をついたアメリアに声を掛けてくれたのは、王立魔法研究所の副所長であり、サルジュの兄ユリウスの婚約者であるマリーエだ。

銀色の巻き毛に、きつめの顔立ち。

小柄なアメリアと違って、すらりと背の高い、なかなか迫力のある美人だが、厳しそうな見た目に反して、とても正義感が強くて優しい女性だ。

二年前、婚約者だったリースの策略で孤立していたアメリアに、最初に手を差し伸べてくれたのは、このマリーエだった。

サルジュと婚約しているアメリアにとっては、いずれ義姉になる人であり、彼女の方が一歳年上だが、大切な親友でもある。

サルジュと同い年の彼女はもう学園を卒業しているが、研究所の副所長に就任している。

だから忙しいユリウスの代理として、この研究所にいることが多かった。

そんなマリーエは、卒業してからもアメリアのことを何かと気に掛けてくれて、こうして声を掛けてくれる。

だからアメリアも、マリーエには正直に、思っていることを話すことができた。

「今年の夏も、あまり気温が上がらなそうだと思ったら、少し心配になってしまって」

そう告げると、マリーエも頷いた。

「……そうね。ユリウス様も気にしていたわ。サルジュ殿下が品種改良した穀物と、あなたの魔法水があれば当分の間は大丈夫だけど、これからも毎年気温が下がってしまったら、いつか対応できなくなるかもしれない、と」

深刻そうに言ったマリーエだったが、アメリアが顔を上げると、視線を合わせて優しく笑う。

「それでも、あなたとサルジュ殿下なら、何とかしてしまいそう。わたくしは、そう信じているわ」

「……うん」

たしかに、マリーエの言う通りだった。

今までの研究で成果を出しているにも関わらず、サルジュはもっと先のことを考えて、さらなる研究を続けている。

もしこれから先、ずっと冷害が続いたとしても、サルジュならばきっと、それを解決する術を作り出すだろう。

だからアメリアはそんな彼を、一番近くで支えるだけだ。

「そうね。不安になる暇なんてなかったわ」

だから、笑顔でそう言葉を返す。

それに、忙しいのも自分だけではない。

この秋に婚約者であるユリウスと結婚するマリーエは、アメリアよりもさらに忙しいはずだ。それなのに、こうしてアメリアを気遣ってくれる。

(みんな、優しい人たちだわ)

元婚約者だったリースには、たしかに酷い目に遭わせられた。

けれど、その後は周囲の人たちにとても恵まれていると、アメリアは思う。

だから、アメリアも自分にできることを精一杯やって、恩返しをしたかった。