軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

42 (第一部完結)

収穫の時期を過ぎれば、新年まではあっという間だ。

今年のデータを書き記す合間に、アメリアは婚約披露パーティの準備に追われた。

ユリウスに続いて、ずっと候補さえいなかったサルジュの婚約発表に、新年も相まって国中から祝いの声が届いている。

しかもアメリアは魔法水を開発したことにより、魔法が使えない平民のことも考えてくださる貴族のお嬢様として人気があった。

そんなアメリアと、新品種の小麦や農業のための魔法開発をしている第四王子サルジュとの婚約だ。

婚約パーティの当日。

王都はとても賑わっていたと、会いに来たマリーエが教えてくれたのだ。今日のために、数日前から密入国者がいないのか徹底的に調べられ、ユリウスだけではなくサルジュも、何度も国境を訪れていた。再現魔法を使うためだとわかっていても、彼が王都を離れると不安になった。

けれどそのお蔭で、婚約披露パーティも無事に開催できそうだ。

アメリアは朝から準備に追われ、ようやく身支度を整えてひと息ついたところだった。

絹とレースを贅沢に使ったドレスは、サルジュの瞳である鮮やかなエメラルドグリーンではなく、真っ白なドレスだ。代わりに髪飾りと首飾りは、金の細工にエメラルドが使われている。

鏡に映る姿を何度も確認するアメリアに、朝から付き添ってくれていたソフィアとマリーエは優しい視線を向けていた。

「ねえ、アメリアさん。どうして婚約披露パーティのドレスが白になったのか知っている?」

そう問われ、ふるふると首を横に振る。

たしかに、どうして白なのか不思議に思ったが、それを聞くことはなかった。

「婚約披露パーティで相手に白のドレスを贈るのは、結婚式を待てないほど相手を愛しているという証拠なの」

「……っ」

思ってもみなかった言葉にアメリアは慌てて立ち上がり、ドレスが皴になるからと叱られて、再び椅子に座る。

「そ、そんなことだったなんて……」

これから婚約披露パーティで、アメリアは大勢の人達の前に、この白いドレスで出なくてはならない。

「サルジュ殿下って以外と情熱的ですね」

マリーエが言うと、ソフィアも頷く。

「そうね。私だってアレクシスと婚約したときは、普通に青いドレスだったわ」

愛されているのは嬉しい。アメリアだって、形にできるものならそうしたいほど、彼のことを愛している。

でもそれを改めて言われてしまうと恥ずかしすぎて、アメリアは両手で顔を覆った。

「……あなたのためよ」

そんなアメリアを見て優しく言ってくれたのは、ソフィアだ。

「この国の貴族も、良い人ばかりじゃないからね。あなたを地方貴族の娘だと思って、侮るような人もいる。もしくは、あなたを利用しようとする人もいるかもしれない。その白いドレスは、そんな人達からあなたを守るためよ」

仕事上のパートナーというだけではなく、最愛の女性である。サルジュはそれを示して、アメリアを守ろうとしているのだ。

それを聞かされたアメリアは、心を落ち着けるように深く息を吐く。

婚約者だったリースに裏切られ、酷い噂をばら撒かれて学園内で孤立してから、まだ一年も経過していない。だからこそ、こんなにも守られ大切にされることに、心が慣れないでいる。

「大丈夫。私達もついているわ。だって近い将来、義姉妹になるのよ?」

戸惑うアメリアの両手を、ソフィアとマリーエが握りしめてくれる。

その優しさが、ゆっくりと心を落ち着けてくれた。

サルジュのことを愛している。

生涯、彼の傍で支えたいと願っている。

さらに彼の家族とその婚約者は、皆アメリアを歓迎して優しくしてくれる。

何を怖がることがあるのかと、アメリアは笑みを浮かべた。

「……はい。ありがとうございます」

感謝を込めてそう言えば、ふたりとも優しく瞳を細める。

「たとえ白いドレスで婚約披露パーティを開いても、結婚式はわたくしの方が先ね」

マリーエがそう言ってからかうように笑う。

学園を卒業しなければ結婚することはできない。アメリアよりもマリーエの方がひとつ上だから、先なのは当然のことだ。

けれど、あと二年は婚約者のままだと思うと少し残念に思う。

婚約は約束ではあるが、確定ではない。アメリアとリースだって、十年も長い間、婚約者だった。ましてサルジュは王族だ。国の状況が変わってしまえば、解消される場合もある。そう思うと不安になる。

「早く結婚したい……」

思わずそう呟いてしまい、ふたりにくすくすと笑われて我に返る。

「さあ、そろそろ開始の時間ね」

そう言って、ふたりも自分の準備のために控え室を後にした。

残されたアメリアはドレスを気にしながらそっと立ち上がり、白いドレス姿の自分を見つめる。

結婚するなら、相手はリースだと思っていた。彼との未来以外を想像したこともなかった。

そんな彼に裏切られ、絶望して何度も泣いた。信じられる人なんて誰もいないと思っていた。

でも、今の自分はこんなにも幸せだ。

「アメリア」

迎えにきてくれたサルジュが、手を差し伸べている。

その手を握りながら、アメリアは微笑む。

サルジュにエスコートされて会場に入ると、たくさんの人達が迎えてくれた。中には友好的ではない視線もあった。でもこの白いドレスが、サルジュの愛がアメリアを守ってくれる。

ふたりの婚約を祝う国王陛下の堂々とした声が、会場内に響き渡る。

アレクシスやユリウスに似た精悍な顔立ちに、サルジュと同じ金色の髪。その隣にいる王妃陛下は、サルジュとそっくりだ。

ふたりとも、いくら功績があっても地方貴族の娘でしかないアメリアとの婚約を歓迎してくれた。

その恩に報いるためにも、これからもサルジュの助手として、婚約者として彼を支えていくつもりだ。

ファーストダンスの時間になり、音楽が奏でられる。

偶然なのか、新入生歓迎パーティのときと同じ曲だ。

彼にリードされて軽やかにダンスのステップを踏みながら、アメリアはあの日のことを思い出していた。

きっと何年経っても、結婚して夫婦になっても、彼と踊る度にあの新入生歓迎パーティの日のことを思い出して、彼に恋をするのだろう。