軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

41

それからも毎日のように魔法式を試していた。

ようやく上手く組み合い、望んでいた効果を得ることができたのは、もう夏季休暇が終わる頃だった。まだ成功というには早いが、一段落前進したのは間違いない。

少しだけ余裕が出てきて、ふと思う。

せっかくマリーエやミィーナが来てくれたのに、魔法の開発や土地のデータばかりで、休暇らしきことは何もしていない。

そう思ったアメリアは、みんなでピクニックに行くことを提案する。ふたりは喜んで賛同してくれた。

持っていくお弁当は料理人に頼んだが、三人で何か作れないかと考え、クッキーを作ってみることにした。

さすがに王族に手作りはどうかと悩んだが、ミィーナが「お兄様に先に食べさせれば大丈夫」と言うので、やってみることにした。

カイドは家でもそんな扱いなのかと、ちょっとだけ気の毒に思う。

けれど彼女が兄を慕っているのは明らかで、面倒見の良い優しい兄なのだろう。

料理人に教わりながら頑張ってみたものの、普段から料理などしたことのない伯爵家の令嬢が三人である。

何時間もかけて取り組んだのに、崩れたり焦げたりして、何とか無事に完成したのは僅かな数だった。

それを明日のピクニックのために取っておいて、三人は崩れたクッキーで試食会をすることにした。

「ちょっと形は悪いけれど、さくさくでおいしいわ」

一番先に手に取ったミィーナが笑顔で言う。

さっそくアメリアもマリーエも、割れてしまったクッキーを手に取る。

「うん、おいしいね」

「でも、もう少し器用だと思っていたわ」

溜息をつくマリーエに、アメリアも同意して頷く。

何でも器用にこなしてきただけに、クッキーくらい簡単に作れると思ったのだ。

「でも、次はもっと上手に作れるわ。だからまた挑戦してみましょう?」

前向きなミィーナの言葉に、アメリアもマリーエも笑顔で頷いた。

冬になればまた休暇がある。

畑は春まで休耕するので、サルジュとユリウスが訪れるのは難しいかもしれないが、この三人ならいつでも集まれる。また一緒に料理をしようと約束した。

翌日は快晴で、七人は少し離れた見晴らしの良い場所に徒歩で移動した。

皆で歩いていくのも楽しいかと思ってそう決めたのはアメリアだ。

けれどそうしていると目につくのか、サルジュが興味のある植物を見つける度に立ち止まるのでなかなか進まない。

ようやく目的地に辿り着いた頃には、もう昼近くになってしまっていた。

「急いで準備をしましょう」

レニア伯爵家がつけた護衛の者に手伝ってもらって、昼食の準備をする。

ここ最近、天気が急変しやすい。晴れている間に昼食にしたかった。

地面にシートを敷き、バスケットを並べる。中は片手でも食べやすい料理ばかりだ。

皆で並んでシートに座り、食事を取り分ける。料理人はかなり気合を入れて作ってくれたらしく、簡単なものばかりなのにとてもおいしかった。

「これ、三人で作ってみたのですが」

最後に昨日作ったクッキーを差し出す。

「まずお兄様がどうぞ」

ミィーナが兄のカイドにそう言うと、三組のカップルから距離を置くように座っていた彼は驚いた顔をしていた。

「俺に?」

「うん。一応毒見?」

「……ああ、なるほど」

カイドは苦笑してクッキーを一枚手に取ったが、おいしいと言ってくれたのでほっとする。ユリウスも従弟も褒めてくれたが、サルジュは特に気に入ってくれたようだ。王都でも作れるのかと聞かれたので、もう一度しっかりとレシピを聞いておこうと決意する。

運の良いことに、雨が降る前に屋敷に戻ることができた。

そろそろ王都に戻らなくてはならない。

でも最新のデータを手に入れることができたし、水魔法も完成する兆しが見えてきた。サルジュとミィーナのお蔭で土地は魔力に満たされていて、今から収穫が楽しみである。

充実した休暇を終えて、アメリア達は王都に帰還した。

夏季休暇が終わり、学園が再開された。

また王城から研究所に通う日々が始まる。

アメリアには、試したいと思っていたことがあった。休暇中にずっと考えていたそれをサルジュに話す。

「防虫効果のある魔法水みたいなものを作れたらと思っているのですが」

「魔法水?」

興味深そうに問い返すサルジュにアメリアは自分の考えを伝える。

「完成すれば、水魔法を使えない人の役にも立つのではないかと思いました。人の手は掛りますが、防虫効果のある魔法水を作って、それを畑に撒けば同じような効果が得られるものを、と」

隣の領主のように風魔法しか使えないと、新品種の小麦を植えることができない。虫害は何度も見回りをしなくてはならず、手間が掛かりすぎる。

けれど、植えた後に一度魔法水を散布するだけなら、新品種の小麦を選んだ方が収穫量も多くなる。それに魔法水を作るだけならば、魔法式は三つでいい。水魔法を使える者なら誰でも作れるので、もし販売するとしても安価になるだろう。

アメリアの考えを聞いたサルジュは、感心したように頷いた。

「そうだな。私は水魔法のことしか考えていなかった。アメリアの言うように、水魔法を使えない者も大勢いる。効果のあるものをきちんと作れるかどうか試してみよう」

結果的には、この魔法水が新しい水魔法よりも高い評価を得てしまった。

魔法を使えるのは貴族だけだ。だが、この国には平民の方がずっと多い。良心的な値段で魔法水が売られるようになれば、誰でも新しい水魔法と同じ効果をもたらすことができる。

しかもサルジュは、この魔法水の開発者はアメリアひとりであると発表した。たしかに案を出したのはアメリアだが、サルジュの助けなしにはどうにもできなかった。

そう言ったのに、彼は聞き入れてくれない。

「いや、これはたしかにアメリアの功績だ。私では思いつくことはなかった。アメリアが認められて嬉しいよ」

言葉通り、本当に嬉しそうにサルジュは笑っていた。

何度も実験を繰り返し、安全性が確認されたところで、魔法水は正式な商品として認められた。

既に多くの農地を持つ領主から問い合わせが殺到しているようだ。

アメリアとしては、開発者として名を残せれば充分なので、魔法水の権利はすべて国に献上している。代わりに報酬を、という話もあったようだが、謹んで辞退した。

サルジュとアメリアが求めているのは、ふたりの婚約の許可だ。

それは魔法水が認められたとき、国王陛下から直々に許すという言葉を賜っている。ならばいずれ王族の妻になる者として、国に貢献するのは当然のことだ。

今は収穫の時期となり忙しいが、新年になれば今度はサルジュとアメリアの婚約披露パーティが開かれる。

そこで正式に、アメリアはサルジュの婚約者となる予定だ。

そんな日に思いを馳せながら、今日もアメリアはサルジュとともに、従弟から送られてきたデータを確認する。

今年も冷害に見舞われたが、収穫量は去年よりも少しずつ増えている。来年は魔法水を購入した領地で新品種の小麦を植えるようになれば、国全体の収穫量も上がるだろう。

この国に貢献できてよかったと思う。

そしてサルジュの傍にいる資格を得られたことが、何よりも嬉しかった。