軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3-35(本編完結)

結婚式が無事に終わってから、しばらくしたある日。

アメリアは、サルジュと一緒にアレクシスに呼び出されていた。

最近のアレクシスはいつも忙しそうで、朝食こそ一緒に食べるが、夕食は不在のことが多かった。

それも四人の父である国王陛下が、そろそろ退位したいと口にしたことがきっかけだ。

四人の息子が全員、魔法学園を卒業して成人したとはいえ、まだ第二王子のエストは結婚していないし、年も引退には程遠い。

けれど若くして国王になり、様々な問題と向き合ってきた国王陛下は、頼もしい息子たちに後を任せ、穏やかな時間を過ごすことを望んでいた。

たしかに王太子のアレクシスは頼もしく、待望の長男も生まれている。

三人の弟たちも全員王家に残り、兄を支えると決めていた。

国同士の関係も良好である。

譲位するには、良い時期であることもたしかだった。

アレクシスはそんな父の願いを叶えるべく、即位に向けて動き出していた。

そんな忙しいアレクシスからの呼び出しに、アメリアは少し緊張していた。

アレクシスが即位すれば、サルジュは王弟となる。

ライナスが生まれたことによって王位継承権からは遠ざかり、以前よりもずっと自由な日々を過ごしているサルジュだったが、王弟となれば、また忙しくなるのかもしれない。

アメリアもその妻として、王家のために尽力する覚悟はあった。

けれどアレクシスが告げたのは、予想とはまったく違うことだった。

「これから忙しくなるだろうから、今のうちに一か月くらい、休暇を取ればいい」

アレクシスはその休暇が、兄弟たちからの結婚祝いだと告げたのだ。

「ふたりとも、学園の長期休暇のときでさえ、視察や研究を続けていただろう? さすがに護衛は必要だか、どこで過ごしてもかまわないぞ」

国外でも良いというアレクシスに、アメリアは戸惑ってサルジュを見上げる。

たしかに長期休暇の際も、視察や研究などをして過ごしていたが、ふたりとも、半分は趣味のようなものだ。

(でも……)

どのみち、いつものように珍しい植物の観察や魔法の実験になってしまうかもしれないが、サルジュとふたりきりで過ごす休暇は、かなり魅力的だった。

行き先はベルツ帝国か、それとも農業が盛んだったジャナキ王国か。

そんなアメリアの予想に反して、サルジュは静かに言った。

「それなら、アメリアのレニア領に」

「え?」

まさかそんな答えが返ってくるとは思わず、つい声を上げてしまう。

だが、驚いたのはアレクシスも同じだった。

「たしかにレニア領は素晴らしい場所だが、長期休暇ではなくとも行ける場所だぞ?」

公務や研究所の視察でもなく、一か月も何もしなくとも良い休暇があるのだから、普段は行けない場所が良いのではないか。

そう言われても、サルジュの考えは変わらなかった。

「あの場所で、ゆっくりとした時間を過ごしてみたいと、ずっと思っていました」

その言葉に、サルジュの部屋にあった風景画を思い出す。

サルジュはアメリアが思うよりもずっと、あの場所を愛してくれているのかもしれない。

そう思えば、躊躇う理由はなかった。

「アメリアにとっては里帰りになるが、かまわないか?」

「はい、もちろんです」

サルジュはアメリアに行きたい場所があれば、そちらを優先すると言ってくれたが、サルジュと一緒に過ごせるのならば、どこでも良かった。

むしろ最後の学園生活の長期休暇では一度も帰っていないので、嬉しいくらいだ。

そう答えて、急いで両親に手紙を出す。

それに今の時期は、ちょうど色々な種や苗を植え終わっている。これから夏にかけて、その成長を見ることができるだろう。

両親から慌てた様子で、それでも歓迎するという手紙を受け取った翌日。

アメリアはサルジュとふたりで、レニア領に向けて出発した。

馬車でゆっくりと進む旅も、随分とひさしぶりかもしれない。

サルジュは馬車の外を眺めたり、珍しい花を見つけては馬車を止めて見に行ったりと、この旅を楽しんでいるようだ。

護衛としてカイドとリリアーネも同行しているが、ふたりは別の馬車で並走しているので、この馬車の中にはサルジュとアメリアだけだ。

今までは緊急時を除いて、図書室以外でふたりきりになることはなかった。

こんなときに、結婚して夫婦になったのだと実感する。

しばらくするとレニア領に入り、サルジュはいつもの場所で馬車を止めた。

少し離れたところにカイドとリリアーネの馬車も止まり、こちらを見守ってくれている様子だ。

アメリアもサルジュに続いて馬車を降り、ひさしぶりの故郷の農地を眺める。

「もし私が王族ではなかったら、アメリアと一緒にこの地を継ぐ。そんな未来もあったかもしれないね」

ひとりごとのように呟かれた言葉に、アメリアは顔を上げた。

「サルジュ様……」

彼は、そんな未来を夢見たことがあるのだろうか。

このビーダイド王国全体ではなく、このレニア領のことだけを考え、発展させていく。

想像しようとしたが、そんなサルジュの姿は、あまりうまく浮かばなかった。

彼は、地方の田舎だけに収まるような人ではないのだろう。

それに、やはりアレクシスとエスト、そしてユリウスがいて、ソフィア、マリーエ、そしてクロエがいる。

従弟のソルや、ミィーナ。そして、カイドとリリアーネ。

みんなが傍にいてくれる今の方が、ずっと良い。

「わたしは今の方がしあわせです」

そう言うと、サルジュはアメリアを見つめたあとに、優しく微笑んだ。

「そうだね。そう思うよ。少し、歩こうか」

「はい」

アメリアはサルジュと並んで歩いた。

広い農地には、たくさんの農作物が植えられている。

サルジュはそんな景色を、慈しむような優しい瞳で見つめていた。

いつか、この景色も描くのだろうか。

サルジュの部屋に美しい風景画が飾られる様子を想像しながら、アメリアは先を歩くサルジュの手を取り、指を絡ませた。

土を踏み固めただけの質素な道の傍に、アーモンドの花が咲いている。

それはあの日と同じ花で、けれどアメリアの目には、まったく違う光景のように見えた。

(本編完結)