軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

47 公爵令嬢の誤算

ステファニー・レスタンクールは苛立っていた。

元孤児のミシェル。

アレは真面目だけが取り柄の、いけ好かない女だった。

孤児の癖に、歴史ある名家レスタンクール公爵家の息女である自分にも、全く敬意を払わない。

それどころか、あの冷めた眼差しを向けられると、まるで自分が見下されている様な気分になった。

そのミシェルを追い出す事に成功し、筆頭聖女の地位に加えて、王太子の婚約者の座も手に入れたステファニーは、正にこの世の春を謳歌する……はずだったのだ。

だが、人々から羨望の眼差しが注がれたのは、ほんの一瞬であった。

『ミシェルが筆頭に選ばれたのは、魔力量が桁違いに多いから』

そう聞いてはいたけれど……

(所詮は孤児でしょう? 魔力量が多いなんて言ったって、きっと大した差は無いわよ。

わたくしなら、他の聖女達の力を使って、もっと上手くやれるはず)

そんな風に自分に都合良く考えていたステファニーの目論見は、見事に外れた。

ミシェルが一人で行っていたはずの聖女の任務を熟すには、馬鹿みたいに多くの魔力が必要だったのだ。

それこそ、十二人の聖女の力を足しても足りない程に。

そして案の定、結界は破損し、治癒魔法も負傷者の一部にしか行き渡らず、ステファニーは国王と教皇から強く叱責された。

それでも、しばらくの間は良かった。

王太子であるアルフォンスの寵愛を盾に、他の聖女達に仕事を押し付けて、華やかな社交の世界に身を投じる事が出来たから。

聖女の力が足りていない事は、あちこちで囁かれてはいたけれど、公爵令嬢であり王太子の婚約者でもあるステファニーを、表立って批判する勇者はいなかった。

夜会や茶会の席では、皆がチヤホヤしてくれて、ステファニーは幸せな時間を過ごす事が出来た。

しかし、それも、怪文書が出回る前までの事。

そのセンセーショナルな内容は、人々の興味を惹きつけ、回を重ねるごとに、ステファニーの周囲からはどんどん人が去って行った。

怪文書はとても人気があり、ステファニーはその実物を入手する事が出来なかったのだが、その内容は直ぐに新聞にも取り上げられた。

二回目と三回目の内容を読んだ時、ステファニーは震えた。

「どうして……、こんな事まで知っているの?」

一部の人間しか絶対に知り得ない出来事が、事細かに書かれている。

どうやって情報を集めているの?

誰が、情報を流しているの?

身近な者がステファニーを売ったのか、それとも何者かに監視でもされているのか……。

何処に行っても嫌な視線を感じる。

誰もが自分の悪口を言っている様な気さえした。

何か大きな力が動いている。

逆らってはいけない誰かの逆鱗に触れたのかもしれない。

※因みに、彼女のその予想は結構当たっている。意外と勘が鋭い。

疑心暗鬼になったステファニーは、人と接する事が怖くなった。

そして、真実に気づき始めたアルフォンスも、もう以前の様に、ステファニーに優しい眼差しを向けてはくれない。

「夜会や茶会に出る暇があったら、結界の魔道具に魔力を充填しろよ。

筆頭聖女が聞いて呆れる。遊び回っていないで、真面目に仕事をしてくれ」

彼が冷たく言い放った言葉は正論だし、その頃のステファニーの精神は疲弊していたので、言われなくても社交どころでは無かったのだが……。

手の平を返したかのような彼の態度の変化には、大いに傷付いた。

怪文書の内容が噂になっているせいで、レスタンクール公爵家も苦境に立たされていた。

以前は溺愛してくれていた父からも見放され、今では「大聖堂の外へ出るな」と命じられている。

「どうしてこんな事になってしまったの!?

筆頭聖女の肩書きも、王太子の婚約者の座も、高貴な身分のわたくしにこそ相応しいのにっっ!!

だからあの女を追い出して、間違いを正してあげただけなのにっ!」

大聖堂に併設された簡素な宿舎の部屋で、ステファニーは枕を殴り付けながら、溜まりに溜まった苛立ちを吐き出した。

だが、彼女を慰めてくれる者は、もう誰もいない。

結界の魔道具に魔力を充填する仕事は嫌いだ。

大量の魔力を何度も繰り返し抜き取られているせいで、常に疲労感に襲われている。

だが、周囲は『筆頭聖女なのだから』と、ステファニーに、他の聖女達よりも多くの魔力を提供せよと強要する。

魔力が枯渇しそうになると、気持ちが悪過ぎて食欲が湧かなかったり、眠れなかったりする日もあった。

いつの間にかご自慢の美貌も見る影もなくなり、ガリガリに痩せ衰えパサついた髪の自分が姿見に映し出された時、その姿はあの日の彼女と重なって見えた。

自分達の愚行のせいで、多くの人の運命を変えてしまった、あの夜会の時。

見窄らしいと言われ、断罪された彼女の姿と───。

(ああ、ミシェルもこんな風に苦しかったのだろうか?)

と、ステファニーは、漸くほんの少しだけ、自分が虐げてしまった相手を想った。