軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ちびっこ小話

【がんばれ、王子様!(アイリス編)】

「アイリス! 騎士団の訓練に来たの?」

ふだんはユリシーズ様か夫人と一緒にいるのに、珍しく一人きりでいるアイリスを発見した。

柔らかなミルクティーベージュの髪をポニーテールにし、母上特注の騎士服を身にまとったアイリスは不思議と女の子らしさが感じられる。

「アイク様、ごきげんよう。今日の練習は早めに終わったのでお庭を見せていただいていました。アナベルがとってもきれいですね!」

純白のアナベルに囲まれ、満面の笑みを見せるアイリスは今日もとっても可愛い。

「そうなんだ。僕も一緒にお散歩してもいいかな」

「もちろん! お花はきれいだけど一人だと少し寂しかったの。アイク様が一緒だと嬉しい!」

落ち着け、僕! アイリスの言葉に深い意味はない! でも嬉しい!

「では、アイリス嬢。僕にエスコートさせてください」

ドキドキしながら手を差し出す。すると、アイリスは一瞬キョトンとしてから、

「よろこんで」

そう言って僕の手に彼女の小さな手が重ねられた。

それから二人で話をしながら散策をしながら、ずっと聞きたいと思っていたことを勇気を出して尋ねてみた。

「アイリスはどんな人と結婚したい?」

「どうしたの、アイクさま」

「僕の今後の目標にしたいから教えてくれるかな」

まだ四歳のアイリスは結婚なんか考えたことはないかもしれない。でも、できれば理想像が知りたい!

「ん~? いいけど内緒ね? 私はね、お父様みたいな人がいいの」

ライバルはユリシーズ様か! あの美しい顔が脳裏に浮かぶ。思わず、エスコートをしている手のひらが汗ばんできた。

「……どのあたりが好きなのかな」

「お父様はね、すっごく強いの。剣術も体術も凄いのよ!」

「……そうだね」

知ってる。騎士団でもかなりの実力者だったって。

「あとね、頭もいいの。五ヶ国語も話せるのよ。凄いでしょう?」

「…………そうだね」

父上も言ってた。ユリシーズ様は脳筋なのに勉強もできるって。

「あと、すっごく優しいのよ。でも、私が悪いことをしたらちゃんと叱ってくれるの。お母様も時々デコピンされちゃうのよ?」

「痛いのに嬉しいの?」

「だって私を心配してくれて、ちゃんといい子になれるように教えてくれてるのよ。どうでもいい子なら叱らないでしょ? あれはね、愛なの」

「……愛」

「そう、お母様の受け売りだけど!」

あ、今日一番に可愛い笑顔だ。

「君達は素敵な家族だね」

「ふふっ、ありがと。あ、あとはお顔! お父様はとっても綺麗で、笑ってくれると幸せな気持ちになるの。要するに、全部大好きよ!」

「……うん。スゴイね、心が折れそうだ」

心技体を兼ね備えた男がライバル……。そして顔までいいなんて辛い……。

「どうしたの? 大丈夫? でも、アイク様も好きよ? だって優しいもん。騎士になりたい私を馬鹿にしないでくれてありがとう」

「アイリス…! 僕もっ、僕も君のことが好…」

「迎えに来たぞ、アイリス」

え、どうしてこのタイミングで現れるんだ⁉

……あ。ユリシーズ様の目が笑っていない。これは絶対に告白しようとしたのがバレてる!

「お父様! 一緒に帰れるの?」

「もちろん。悪い虫が付くと困るからな」

「? 虫さんくらい怖くないよ?」

ねえ、これでも僕王子なのだけど。今、思いっきり虫扱いされたよ?

「そうかアイリスは強いからな」

「そうよ、でも、もっとも───っと強くなるの! だから、また稽古を付けてくださいっ!」

「マナーのお勉強も頑張ったらな。では、アイザック殿下。これで失礼させていただきます」

「え」

つい、二人のやり取りを微笑ましく見ていたら突然別れの挨拶をされてしまった。

「アイク様、ごきげんよう!」

アイリスも笑顔で手を振っている。

さっきまで僕とつないでいたはずの手は、ユリシーズ様の大きな手のひらに包まれている。

……くやしいなぁ。

「アイリス、また遊びに来てね! ユリシーズ様っ! 僕は諦めませんからっ!」

「いつでもねじ伏せて差し上げますので、頑張ってください。楽しみにしていますよ」

カッコイイけど五歳児に本気を出さないで! 絶対に手加減してくれない気がする!

「父上、ユリシーズ様の弱点は何ですか?」

聞くだけ無駄だと思いながらも父上に尋ねる。

「ジャスミン夫人や子ども達だろうな」

だよね。それしかないよね。父上では弱点にならないんだね?

「……それ、突っついたら瞬殺されますよね」

「そうだな」

「……僕、いつか勝てるでしょうか」

「あー。……頑張ればいつか?」

そうだ。諦めたらここで終わりだもの。絶対にユリシーズ様に勝ってみせる!

「わかりました! がんばりますね!」

こうして、打倒ユリシーズ様が僕の目標になりました。