軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

25.幸せをよぶもの

「アンブローズ、何を見てるんだ?」

迷子の小僧を発見した。今頃ユリが探し回っているだろうに。

「ありしゃん。ありしゃんみちる」

今は2歳?もうすぐ3歳か。アンブローズは外見はユリシーズ2号だが、中身はジャスミン夫人に似ているらしい。

地面を見つめたまま動かないと思ったら、アリの行列に心を奪われているようだ。

「楽しいか?」

「ありしゃん、しゅごいの。まいごない」

まいごない……なんの呪文だ?

「えい!」

「……それは可哀想じゃないか?」

アンブローズは小石で進路を塞いでしまった。

「ん~ん、まいごない」

「ん?おお、本当だ。小石を避けて列に戻った」

「ありしゃんね~、しゅごいの。あめちゃんうめりゅの。クッキーかみかみちったいするの、よいしょよいしょしるの、ありしゃんね、めめずうめりゅの」

……駄目だ。さっぱり分からない。

とりあえず蟻は凄いらしい。

「アリさんが凄いのは分かったが、ユリシーズが探していたぞ」

「ん~ん、ありしゃんみちる」

「いや、だがな…」

どうする?アンブローズはなかなかの難敵だ。積み木に夢中なのを抱きかかえたらギャン泣きされたのは記憶に新しい。

「こら、アンブローズ。お約束を守らないのは誰だ?」

おお、父親登場だ!

「先輩すみません。見つけて下さってありがとうございます」

「それがなぁ。蟻に夢中で動いてくれないんだ」

「ありしゃんしゅごいの、まいごない」

「そうだな。迷子になってるのはアンブローズだけだ」

「まいごない…ああ、迷子にならないってことか!」

流石だな。よく呪文が理解できるものだ。

「まいごない」

「ジャスミンのそばを離れない約束は?」

「……ん~とね、ちょうちょ!きりぇの、ひりゃひりゃ~ってきりぇの。あむ、いっしょした」

「いや、一緒に行ったら駄目だろう。お前はジャスミンと一緒!」

「きりぇのよ?とうしゃまのおめめいっちょよ!ぷりぇじぇとしる、かあしゃまどうぞしるのよ」

「虫さんは猫さんと違って人間が好きじゃないから駄目だ。お外で自由にしてないと死んでしまうんだよ」

「……ユリシーズ。よくその呪文が理解出来るな?」

親って凄い。はっきり言って蟻さんより凄いと思うわ。

「毎日聞いてますから。私の瞳と同じ色の蝶がいたから、ジャスミンにプレゼントしたくて追いかけたそうです」

蝶?蟻じゃなくて?

「子供の好奇心は怖いな。このサイズが迷子になると探すのが大変だ」

「だから王宮にはあまり連れて来たくないんです」

「妃殿下がアイリス嬢を溺愛しているからなぁ」

アイリス嬢はユリシーズの第一子だ。顔立ちはジャスミン夫人によく似た、中身はユリシーズ似の男前な少女に妃殿下はメロメロだ。

「妃殿下が剣を与えるから大変なことに……」

まだ4歳ながら、騎士に憧れる……違うな。騎士に な(・) る(・) こ(・) と(・) を夢見る美少女だ。

「子供用の宝剣だろ?刃は潰してあるし」

「毎日素振りしていますよ」

「……筋肉が付き過ぎると成長の妨げになるって伝えておけ」

「なるほど。それでいきます」

ユリシーズは現在オーウェル家傍系のレディング子爵を継いでいる。領地の無い宮廷貴族だ。さすがに子爵家から王家に嫁ぐことはないと思うが……

「ユリシーズ様、アンブローズは?」

おや、夫人も到着だ。そろそろ俺は戻っていいかな。

「アリの行列に夢中だ」

「あ、私も昔やってました。お父様に叱られた覚えがあります。見てるといろんな発見があって面白いんですよね」

うん。やっぱり夫人似のようだ。

「じゃあ、俺は戻ります」

「すみません、探して下さってありがとうございました」

「いえいえ。いつも差し入れをありがとうございます」

そう。ユリシーズが近衛騎士団を辞めてからも、時折差し入れを下さるのだ。

「こちらこそ、未だにユリシーズ様と最近ではアイリスまでお邪魔していますから」

体が鈍ると言って、時々訓練に参加している脳筋と、そんな父親に憧れるアイリス嬢は月に一度の公開訓練日の子供向けの体験教室に訪れるようになった。今では騎士団のマスコットだ。

「二人のおかげで騎士団への差し入れが増えて感謝していますよ」

小さな淑女がちょこまかと頑張る様は見ているとつい頬が緩んでしまう。

「いつか本当に騎士になりそうだわ」

「根性はありますからね」

「ユリシーズ様にそっくりで困ったわ」

「アンブローズは君にそっくりだけどね」

「どちらも可愛いですよ」

「可愛くて困る。嫁に行くくらいなら騎士でいい」

「そうね。ちょっとぽんやりなアンブローズを護る騎士でいいんじゃないかしら」

相変わらず仲良しな夫婦だ。二人が結婚して何年だ?

あの頃は多くの女性が涙に暮れたが、笑顔のユリシーズが尊いと違う意味でも泣いていた。

今では時折現れるユリシーズジュニアのファンも増えてきたとか。

「また来月アイリスと参加するのでよろしくお願いします」

「おお、楽しみに待ってるよ」

「差し入れも多目に持っていきますね」

「団員に伝えておきます!」

あの家族に会うと、なんだか幸せな気持ちになるんだよな。

「ヘクターさま!」

「おや、アイリス嬢。妃殿下と一緒だったのでは?」

「お父様たちを呼びにきたの!ヘクターさまは行っちゃうの?」

「アンブローズが見つかりましたからね」

「ざんねん。また稽古してください!」

「はい。お待ちしてます」

「やた!」

可愛いなぁ。純粋に騎士に憧れてくれるのは本当に嬉しいものだ。

「では、ごきげんよう!」

背中に羽でも生えているかのように、軽やかに駆けていく。

きっとユリシーズに飛びつき、アンブローズとアリを眺め、夫人に今日の出来事をお喋りするのだろう。

なんて幸せで温かい……

「彼女の為に騎士団を辞めてしまったのは本当に驚いたが……」

今では側近としてバリバリと働き、もうすぐ即位される殿下をこれからも支えていくのだろう。

夫人とはおしどり夫婦と言われるほどの仲の良さだ。

彼らの幸せに触れると、つい、自分もその温かさが欲しくなってしまう。

春のひだまりように幸せな家族だから。

「羨ましいぞぉっ!あ~あ、そろそろ俺も結婚しようかな~」

未来の家族を夢見ながら、仕事に戻る為に足を早めた。

【end】