軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2.まずは初めまして(ジャスミン・次からはJ表記)

その日は麗らかな日和で、午睡でも楽しもうかと思っておりましたが、残念ながらお父様に呼ばれてしまいました。

「婚約が決まった」

「お父様のですか?」

「……私には妻がいる。お前を呼んで話しているのだから、ジャスミン、お前の婚約者に決まっているだろうっ!」

まあ、そうなの。決まっているのですね。

「面倒臭いわ」

「諦めなさい。貴族の義務だ」

「……ちゃんと私の要望は」

「任せなさい。その辺りに抜かりはないよ」

まだあと一年くらいは自由に出来ると思っていましたのに。

「仕方がありませんね。お相手は何処の 何方(どなた) です?」

「フッフッフッ、聞いて驚きなさい。なんとオーウェル侯爵家の三男ユリシーズ様だ!」

まあ、すっごく得意気だわ。褒めて欲しいのかしら。

「どちら様ですか?」

「なっ⁉ 知らないのかい? 女性に人気が高い近衛騎士団の白百合の騎士様だぞ!」

「それ、まさか自称ではないですよね?」

「……さすがに他称だろう」

しまったわ。お父様が沈んでしまいました。

「 揶揄(からか) ってごめんなさい、お父様。白百合というからにはお美しい方なのかしら?」

「そうだよ。男性に美人というのも可笑しいが、私から見ても綺麗な顔立ちだと思うぞ」

「お父様、たとえ男性であっても浮気は駄目よ?」

「……君との会話は疲労感が……ユリシーズ殿が耐えられるといいが……」

お父様は大変失礼だと思いますわ。

「でも、決定なのでしょう?」

「嫌かい?」

「さぁ。お会いしたこともない方ですし」

「来週顔合わせをすることになっているんだ。行ってくれるかな」

「仕方がありませんね。大好きなお父様のために行って参りますわ」

「ジャスミン!」

「嫌われたらごめんなさい?」

「……ああ、うん。出来るだけお口を控え目に。淑女な君で 臨(のぞ) んでおくれ」

ごめんなさい、お父様。即攻で反論してしまいました。

オーウェル侯爵令息は大変お美しくていらっしゃいました。これは確かに白百合の騎士様で合っているわ。眼福でございます。

でも、あまりにも当然のことを仰るので。

「オーウェル侯爵令息様」

「長いからユリシーズでいい」

「では、私のこともジャスミンとお呼びください」

「……わかった」

え、そんなにご不満? ご自分から言い出したくせに苦虫を噛み潰したかのようなお顔で答えています。

「ユリシーズ様。今、私が何を考えているか分かりますか?」

「……は?」

……私には分かります。絶対にコイツは馬鹿かって思ってる! これだから馬鹿な女はって思っていますね⁉

内心ムカつきながらも質問の答えを待ちます。

「いや、初対面の君の考えなど分かるはずがないだろう」

私は分かりましたけどね。

「そういうことです。初めてお会いしただけでは外見と爵位くらいしか分かりません。

でも、ご令嬢達はそれ以上のことを知りたいから貴方にアタックを掛けてくるのでしょう?

……まあ、少し……いえ、かなりやり過ぎだとは思いますけど」

でも、媚薬なんて本当にあるのね。物語の中だけの物だと思っていました。

「聞いてもいいですか?」

「……何だ」

「媚薬って本当にいやらしい気持ちになるのですか?」

「ブッ!」

「やだ、大丈夫ですか? ハンカチどうぞ」

ゴホゴホとむせてしまったユリシーズ様にハンカチを差し出すと、意外にも礼を言って受け取って下さいました。

「……すまなかった。ハンカチは弁償するから」

「いえ、お気になさらず。それで媚薬ですが」

「まだ聞くのか!」

「え、駄目でした?」

コテンと首を傾げて聞いてみた。

お母様いわく、お父様はその仕草に弱いらしい。だけど、残念ながらユリシーズ様には効かなかったようです。

「……女性はよくそうやって首を傾げているが何故なんだ。頭が重いのか?」

新しい返しが来ましたわ。

「違います。これはあざといポーズですの。男性を悩殺する仕草の一つで、お母様の得意技ですわ」

「……夫人の?」

「お父様はコレでイチコロだそうです」

「……イチコロ……言い方……、まあいい。私は悩殺されないので普通に話してくれ」

「承知いたしました」

ふふっ、生真面目な方なのね。馬鹿にするなと怒るでもなく、ただ無駄だから止めるようにと教えてくださるなんて。

「あと、媚薬か。あれは 所謂(いわゆる) 興奮剤だ。私は何も楽しくなかったし、気分も悪かった」

「……教えてくださるのですか」

「なっ! 揶揄ったのかっ⁉」

「いえ。失礼な質問だと思いましたのに、ちゃんと説明してくださるから」

「………君は放っておくと、気になるからと、いつかは自分で試してしまいそうだ」

「まあ! この短時間でよくお分かりになりましたね。よく無鉄砲だとお父様に叱られるのです」

でも、気になることを気になるまま放って置きたくないので仕方がありません。

「次、何か怪しいものを試したくなったらまずは私に聞いてからにしてください」

「何故ですの?」

「……貴女は私の婚約者でしょうが」

「まあ、解消を求められると思っていました」

「初対面では分からないと言ったのは貴女だ。確かに一理あると思った。だから理解できるか試す必要があるだろう」

「……脳筋……」

「ん?」

……でも、悪い人ではないわ。顔が良くて真面目。でも、少し不器用で脳筋。そして、私の話を聞いてくれる人だ。

「では、婚約者としてよろしくお願いいたします」

「ああ」

「とりあえず、ユリシーズ様のお顔は気に入りましたわ」

「……君の香水臭くない所はありがたい」

こうして私達は、婚約者らしくなく握手をして、初顔合わせはお開きとなったのでした。