軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十四話

そのままザイラードさんにエスコートされ、馬車へ乗り込む。

どうやら離宮から王宮までは馬車で移動するようだ。

馬車に乗ったのは、ザイラードさん、私。あと、お昼寝から覚めた、レジェドにシルフェ、狐(元女子高生)と、水色のペンギン。移動動物園の様相。

私は馬車のベンチシートに座っているんだが、右肩にレジェド、膝の上にシルフェ。私の左側に狐がいて、右側に水色のペンギンがいる。

正面にはザイラードさんが座っていて、馬車の中でもきらきらと輝いていた。

「トール、カオガアカイ。ナンデ?」

「トール、テガアツイヨ。ドウシテ?」

レジェドは私の顔をまじまじと見て。シルフェは私のてのひらにぽちっと鼻を当てて。いつもと違う私へ疑問を投げる。

なぜかな……。どうしてだろうね……。

「顔が赤いのはお化粧っていうのをしたから。手が熱いのは心が冷たいからだよ」

いいね。わかったね。それだけなんだよ。これが世界の真理なんだよ。

真剣な顔で答える。

すると、レジェドとシルフェは不思議そうに顔を傾げた。

私はそんな二人に気づかないふりをして、正面を向く。

きらきらしたザイラードさんがいて、うっとなったが、いつまでもこうしているわけにはいかない。慣れよう。そう慣れればいける。

「では、ザイラードさん、これからどういった流れですか?」

できるだけ自然に。意識して声を出してみれば、案外うまくいった。

そんな私の疑問に、ザイラードさんが答える。

「今から行くのは、王宮の夜会だ」

「夜会、ですね」

離宮の建物から外へ出て見えた空には、星が輝いていた。

ドレスアップした格好だし、行くのならば夜会。そうだろう。

が、夜会とは?

「そういうのに明るくないんですが、どういうことをする場所ですか?」

「今日は国内の貴族を呼び行う、定例の夜会だ。主催は国王陛下。お互いに挨拶をして親睦を深めたり、陛下から功績を上げた者に褒賞を与えることが目的で行われる。今日は隣国の王族を招待するような盛大なものではないから、あまり緊張する必要はない」

「なるほど……」

全然違うと思うが、聞いた感じ「いつメンによるいつもの場所でのいつものヤツ」と思っていいのだろうか……。『主催が陛下』という単語がちょっと私には大きすぎて呑み込めないけれど。

「第一王子はこの夜会であなたについての話を陛下に訴えるようだ。すでに話自体はしているが、この夜会でふたたび陛下に直訴することで、周りを味方に引き入れたいのだろう」

「私が魔女だという話ですよね」

「ああ。異世界から来た聖女が魔物に変えられてしまった。もう一人の異世界から来た魔女は討つべしと。その力で第二王子と差をつけようとしていると考えられる」

「どうしても負けたくないってことですかねぇ……」

「……そういうことだろうな」

第一王子は異世界から来た聖女を手元に置いた。そのおかげで、ほぼ消えかけていた王太子への道がわずかに見えたのだろう。

が、女子高生は日本の土地神様の遣いだったわけで、こちらで大きな力があるわけではない。

それに比べて、私は謎の力をたくさん使っており、それをザイラードさんが報告していた。その差に焦って、騎士団へとふたたび訪れてみれば、異世界の聖女は狐に変わってしまい、手元からいなくなってしまった。

王太子になるには聖女が必要。しかし、今更私を味方にするのは嫌だったんだろうなぁ……。私も嫌だしな……。

結果、私を魔女ということにして、それの対応をすることで、第一王子派を増やし、王太子への道を見続けたいということかな。

「あなたには聖女として出席し、陛下に挨拶をしてほしい。それだけで、第一王子の味方をする人間は消えるだろう」

「……はい」

The不安。

すると、水色のペンギンが口を開いて……。

「ナァ、ワイモ契約シタインヤケド」

「契約?」

突然の話に、え、と思わず声が出る。

あれか。名前を呼び合って、体が光るやつ。お互いの居場所が分かり(私には魔物の位置はわからないが)、力を渡したり、生命力を渡したりできるという……。

「うーん……」

「イヤ、今更、迷ウコトナイヤロ! ココマデ来テ、ワイダケ契約シテナイノガオカシイヤン! ナンカ服ヲ着替エテルカラ空気読ンダンヤデ?」

「空気を読むペンギン」

えらいじゃん。

「ソイツラガイインヤッタラ、ワイカテエエヤン。ソイツラニハナイ、インテリジェンスガアルデ?」

「インテリジェンスのあるペンギン」

すごいじゃん。

「ナンカ、不安ソウヤン? 契約シタラ、ワイノチカラモ渡セルシ、ナ?」

「あ……」

瞳孔の開いた金色の円。私をじっと見上げている。

全然、表情はわからない。わからないけれど……。

「優しい……うぅ……低反発クッション……」

私の不安を考えてくれたらしい水色のペンギンをそっと撫でる。頭、顎の下、お腹と指を進めると、お腹のところでずむむっと指が沈んでいった。

私をダメにするクッションじゃん……。

「……もはや、一匹も二匹も変わらないし。それならば三匹でも変わらないか」

契約により力を得た私は、手で空気を圧縮できて、口からブレス吐ける。もうなんでもいいか。うん。

「いいよ。契約しよう」

「ヨッシャ!」

重要事項説明書を読まない私の安易な承諾。水色のペンギンはうれしそうに目を細めた。

……たぶんね。たぶんうれしそう。瞳孔が開いた金色の円はいまいち感情が読みにくいから。

すると、ザイラードさんが「待ってほしい」と声をかけた。

「『契約』とは、騎士団の訓練場の脇で行った、あの儀式のことだろう?」

「儀式……というとあれですが、はい。名前を呼び合って、体がきらきらーってなるやつだと思います」

「それならば、それを王宮のみなの前でやるのはどうだろうか?」

「みんなの前で、ですか……」

「ああ。あの場面を見れば、あなたに力があることに納得してもらえるんじゃないか、と」

「なるほど」

魔物と契約をし、体が光る現象。レジェドとシルフェの契約をしたとき、目撃した騎士団の人は、興奮しているようだったなぁ。

たしかに、実際に私の体が光るのを見れば、「力がある」とわかり、つまり「聖女である」と思ってもらえるということか。

ふむふむと頷く。……でもよ?

「このペンギンで大丈夫でしょうか……」

大丈夫? この水色のペンギンで。瞳孔の開いた金色の円の瞳のアデリーペンギンで……?

「失礼ヤナァ」

私の心の底からの心配に、水色のペンギンがやれやれと息を吐く。

すると、ザイラードさんは「大丈夫だろう」と頷いた。

「あなたが小型化した魔物たちはすべて人間に害がなさそうな姿かたちになっている。レジェンドドラゴン、シルバーフェンリル、アイスフェニックスなどの大型の凶暴だと考えられている魔物が、そのような姿になったと説明しても理解はしてもらえないかもしれない。が、すくなくとも、あなたが力を悪に使ったとは見えないはずだ」

「それはそうですね」

水色のアデリーペンギンに悪の匂いはしない。まったくしない。つまり。

・体が光ったし、なんか特別な力があるのは間違いなさそう

・魔物らしいものも、悪い力はなさそう

このことから『聖女であり、魔女ではない』の図式が証明される! と。

ほほぅと頷く。

「じゃあ契約は王宮で行うということにすれば、私の魔女疑惑は払拭されるんですね」

「ワイガ役ニ立テルッテコトヤナ。任シトキ」

「うん。そのときによろしくね」

不安がかなりなくなった。ドレスアップして挨拶すれば大丈夫! と言われても、やっぱり不安だったしな。

ザイラードさんの言葉が信じられないわけではなく、私は私を信用できない。挨拶するだけなのに失敗しそうだし。

すると、左から声がして……。

「私はどうしたらいいの?」

声を出したのは黒い狐。ふかふかのしっぽを首置きにし、イスの上にくるんと丸まっている。

「私が狐になったのは、この人が私を羨んで、人間から魔物に変えたってことになってるんでしょ?」

「ああ。みなは半信半疑だろうが、第一王子はそう喧伝している」

「じゃあ、私が全員の前で人間に化けて、それから狐に戻るのを繰り返せば、わかってもらえる?」

人間⇔狐。

これを繰り返すってすごいよね……。王宮にいる人たち、衝撃だろうな……。

「そうだな。それをするのもいいが……」

ザイラードさんは狐の言葉に頷きながらも、断言はしない。そして、私にふっと笑いかけた。

「そもそもこの姿を見れば、羨むことがありえないとわかるだろう」

「まあ……そうね」

狐も納得したらしい。

「陛下に話をすればいいのではないか。第一王子のことは気にせず、自分がどういうもので、どうして王宮にいたか。それを説明すればいいだろう」

「……わかったわ」

狐はそれだけ言うと、ぺたっと耳を横に伏せて目を閉じた。

その様子に、私は胸がすこしざわついて……。

また一人で抱え込んでない? 一人で説明しようって考え込んでいないかな?

「一緒にいるからね。私も一緒に説明できるからね」

そう言って、頭を撫でる。

撫で終われば、伏せていた耳は、また真上に戻った。よしよし。

「やることはだいたいわかりました」

・不思議な力があることの証明

・敵意がないことのアピール

・悪いことに力を使うことはないし、使ったこともないという証明

・第一王子の話は信憑性に欠けるというアピール

こんな感じだろう。

が、これをすると……。

「第一王子は、本当に王太子への道がなくなりますね……」

これまで狐を聖女として扱っていたことや、私への態度、聖女に関しての喧伝などをしてしまったことで、より自分の立場を危うくしてしまったことになる。

すると、ザイラードさんは、問題ないと頷いた。

「自分の行ったことに対しての責任を取るだけだ。あなたを貶めてもいいと判断した、本人の愚かさの問題だ」

その声はいつもと違い、鋭く厳しい。

……うん。ザイラードさん、結構怒ってるんだな、たぶん。

「そもそも存在しなかった王太子への道だ。あなたや狐が来たことで、一瞬の夢を見ただけのこと。本来ならば俺たちだけで処理をしなければならないことに、こうして巻き込んでしまってすまない」

「いえ、そんな、ザイラードさんが謝るようなことでは……」

たしかに私は今、王宮のごたごたに巻き込まれている。

が、きっと、それだけではなくて……。

「私、こうしてドレスを着せてもらって、化粧をしてもらって……。思ったんです」

異世界に転移して。魔物をペット化できて。私は騎士団でスローライフをしたいだけだけ。

国王陛下への挨拶とか緊張で胃がぎゅっとするし、みんなの前での力についての説明とか、考えただけでめんどくさいけれども。

「自分に関わることなんで、自分でもやらないと、ですね」

ザイラードさんに身元保証人になってもらって、いろいろとしてもらった。すべて任せているのはすごく楽だ。

でも……。

「自分の立場を自分で作ることも必要ですよね」

私自身のことだから。

「機会を作ってもらって、ありがとうございます」

――やるぞ!

「殴り込みです!」

「殴り込みだな」

二人で視線を交わして、笑い合った。