軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十三話

強めなテーマを掲げ、化粧を施してもらう。

さらに、髪を巻き、整えてもらうと――

「わぁ……すごい……」

鏡に映った自分を見て、信じられない思いで言葉を呟く。

いやだって、かわいいんだが……。鏡に美人さんが映っているんだが……。

「素材を生かしつつ、それぞれのパーツが魅力的になるようにいたしました。とくに今回のポイントは目。目でございます。チークやルージュは自然な血色に。その分、アイシャドウのグラデーションを何層にも入れ、パールの輝きも足すことで、自然とそこへ視線が集まるようにしております。さらにアイラインは髪色に合わせてダークブラウンを吊り上げるように入れつつ、目尻やアンダーラインはピンクブラウンを足し、きつ過ぎず女性らしいニュアンスを取り入れました」

「……なるほど」

わからん。

でも、なんかすごいことをしてくれたのは伝わってくる。実際に鏡に映る自分が素晴らしいので……。さすがプロ。これがプロの仕事。

鏡越しに尊敬のまなざしで見上げる。すると、鏡に、扉を開けて、ドレスを持って駆け込んでくる、女性三人が映って――

「ま、間に合いましたぁ!」

「お待たせいたしました」

「さあ、ドレスを着ましょう! 腕が鳴ります」

――私はあっという間にドレスを着用していた。

「うぅっ……私たちの夢がようやく……っ」

「よかった……本当に……働いていてよかった……」

「日頃の鍛錬はこのためだった……」

女性たちが感動に身を震わせている。一番背の低い女性は涙さえ流している。

そして、髪をきっちり結った女性が、労うように声を上げた。

「いくらドレスを作ろうとも、着てくれる女性も、披露する夜会もないのなら、と諦めて早十余年……。それならば、たくさんの人の目に入るよう、博物館へ展示されるドレスを目指したここ五年。私たちの努力は無駄ではありませんでした」

「「「はいっ!」」」

いい返事だな。

「アンティークの素晴らしい布地がオークションに出品されると聞いて、ぜひとも購入したいと十枚に渡り、いかにその布地が素晴らしいかを書いた嘆願書。ザイラード様はそれに『いいんじゃないか』と一言だけの返答でした。心折れずにオークションで競り勝って、本当に良かった……」

うん。

「隣国に素晴らしい金糸と銀糸があると聞き、ぜひとも取り寄せたいと、希少なサンプルを添付し、必死に予算を得ようとした嘆願書。ザイラード様は『予算はあるなら使えばいい』と一言だけの返答でした。煩雑な貿易の手間に負けずに輸入して、本当に良かった……」

うん。

「王妃様が素晴らしいマッサージの手技をお持ちの新しい侍女を雇用したとお聞きし、ぜひとも師事したいと、一時、王妃様付きとなることのメリットを綴った嘆願書。ザイラード様は『やりたいならやっていい』と一言だけの返答でした。環境の変化に負けずに修行して、本当に良かった……」

うん。

「質のいいすばらしい宝石が出たと聞き、ぜひとも購入したいと一度に使える予算の上限を特例で引き上げについて相談した嘆願書。『わかった』と一言だけの返答と、後日、特例を認める事務的な書面が届きました。他の離宮の侍女の不審な顔に負けずに購入し、本当に良かった……」

うん。

「みなさんの強い思いが込められたドレスなんですね……。それを私なんかが着てしまい、申し訳ありません……」

たぶん最高級のシルクだと思われる白く輝く布地。光の当たり具合によって表情を変える。金糸と銀糸の繊細な刺繍が施され、刺繍がない場所を探すほうが難しそうだ……。

そこには胸元やスカートの部分には小粒だが輝きの強い宝石が縫い付けられ、きらきらと輝いていた。

美しいAラインのシルエットは急ごしらえとは思えないぐらい、私の体型にフィットしている。

肩や胸元、袖の部分にはレースが使われ、肌と馴染んでいてとてもきれいだ。

首元には大粒のエメラルドのネックレス。これが予算の上限を引き上げて購入されたヤツかな……。さすが、博物館の展示を目指していただけはあるドレスとそれに似合う宝飾品……。

私が着ていいのか。単純に。

すごいことになってしまっている現状に引きながら謝ると、女性たちはすぐさま首を横に振った。

「そんな! 私たちは殴り込みという機会に恵まれて幸せです!」

「はい。それに目的が殴り込みというのも素晴らしい」

「聖女様の殴り込み。腕が鳴りました」

「ええ。聖女様の殴り込みのお支度ができるなんて、身に余る光栄です」

「……そうですか」

ちょいちょい女性たちから出てくる『殴り込み』の単語が似合わなすぎてあれだが、落胆というわけではないなら、よかった。……よかったのか?

鏡に映る私は、素敵なドレスを纏い、化粧を施した美人さんである。私とは思えないが、これが私なんだな……。

「本当にきれいにしていただいてありがとうございます」

プロの技に脱帽。そして一礼。

すると、コンコンと軽快にノックの音が響いた。

「ザイラードだ。準備ができたと聞いた」

「はい」

たぶんこれで準備完了だろう。

四人の女性たちは私をもう一度見つめ、うっとりとした表情になると、扉まで下がっていった。

それを確認し、ザイラードさんへと声をかける。

「どうぞ」

私の声と同時に、きっちりと髪を結った女性が扉を開ける。

そこからザイラードさんが入ってきて――

「う……わぁ……」

――思わず、声が漏れた。

現れたザイラードさんは、燕尾服と騎士服を混ぜたような、素敵なデザインの正装を纏っていた。白いジャケットには私と同じように金糸と銀糸の刺繍がされている。肩から掛けたマントも白色でちらりと見えるエメラルドグリーンの裏地もとてもオシャレだ。

いつも騎士団で見ている服もすごくかっこよかったが、今の服は正装感が増していて、非常にきらきらしている。

さらに、正装を着こなすザイラードさんのイケメンぶりがすごい。

金色の髪は右側だけ上げられ、左側は下ろしてある。その対比がセクシーさを増し、見ているだけでドキドキしてしまう。

これはイケメン。これは王子様。

いつものザイラードさんはわざとイケメンぶりを抑えていたんじゃないかと感じさせる……。まぶしい。いつもより十割まぶしい。十割り増しのイケメンとは、つまりおかわりイケメン……。

そんな素敵なザイラードさんが、私を見てうれしそうにほほ笑む。

ううっ……心臓が、痛い。

「とてもきれいだ」

「あ、あ、ありがとうございます」

ぐぅって喉が鳴った。

でも耐えた。なぜなら、私は今、プロの手によって作られた存在だからだ。いわば、私は作品である。扉のそばに控える女性たちの作品なのだから、謙遜しては失礼というもの。あと、「あ、あ」しか言えなくなるのもよくない。

ので、一度、深呼吸をして、こちらに近づいてきたザイラードさんを見上げる。そして、できるだけ自然に笑って返した。

「ドレスもとても素晴らしいし、化粧もしてもらって……。みなさんの力です」

「ああ、そうだな」

ザイラードさんは頷いて、女性たちへと視線を向けた。

「急なことだったのにすまなかった」

「いえ。こんなに幸せなことはありませんでした。これまでの私たちの嘆願書が無駄ではなかったことが、ようやくわかっていただけたかと」

女性たちの代表としてなのか、髪を結った女性がザイラードさんの言葉に返す。

これはさっき、彼女たちが話していた、ザイラードさんへと送った嘆願書のことだろう。ザイラードさんの返事、一言だったみたいだしな……。

「悪かった。女性と夜会に出ることに興味を持てなかったし、俺がそうしたいと思える相手もいなかったからな」

「それは十余年ずっとわかっております。ですので、今日は本当に喜ばしいことです」

「ああ。みなのおかげだ。……ありがとう」

ザイラードさんの言葉に、女性たち全員が頭を下げる。

主従の関係は私にはわからないけれど、きっとこれでよかったのだろう。うんうん、と頷くと、ザイラードさんは私に向き直った。

「ところで、さっきのセリフだが」

「セリフ……。ザイラードさんのですか?」

「ああ。俺があなたにきれいだ、と言ったことだ」

「はい。えっと、ドレスとお化粧ですよね?」

それについてはザイラードさんが女性たちにお礼を言って、めでたしめでたしという感じで終わったと思ったが。

はて? と首を傾げると、ザイラードさんはそっと私の頬に手を当てた。

「とてもきれいだ」

「あ……あ、あの……」

がんばれ。負けるな。やれるぞ私。

「俺がきれいだと言ったのは、あなたに、だ」

「あ、う……」

「ドレスでも化粧でもなく」

「っ、……」

きらきらと輝く金色の髪に、魅惑的に細まるエメラルドグリーンの瞳。触れられた頬の手は大きく優しくて……。

「――あなたはとても美しい」

そして、まっすぐな言葉。

ダメです。やれません。閾値オーバーです。

「あ、あ……」

不可避。これは不可避。「あ、あ」しか言えない。

「あ、あ」しか返せなくなった私に、ザイラードさんは優しく笑った。

「では、行くか」

頬の手が移動し、そのまま私の手を取る。

私は熱くなる頬とうるさい心臓がバレないよう、ぎゅうっとその手に力を入れた。