軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

8.あなたと一緒に(3)

リディアがイマン薬店に到着したのは、午後二時を少し過ぎた頃だった。一番客入りのある時間なので迷惑になるかと心配し、ドアについた小窓越しにそっと中を覗く。

(あれ? お客さんがいない?)

普段なら常にニ、三人はいるのに、珍しいこともあるものだ。

リディアは今のうちに挨拶を済ませようと、ドアを開けた。

「こんにちは!」

元気よく、店内に向かって声をかける。しかし、返事はない。

「いないのかな……。イマンさーん!」

リディアは店内を見回す。普段と何ら変わりないよう巣なのに、客はおろかイマンの姿も見当たらない。

「どうしたんだろう。どっか出かけているのかな?」

リディアは一緒にいるレイに話しかける。一方のレイは、険しい表情で店内を見回していた。

「リディア。ここは出よう。嫌な予感がする。魔力の残跡を感じる」

「え? どういうこと?」

すぐにはレイの言う意味が分からず、リディアは聞き返す。

そのとき、ヴィーンと鈍い音がしてカウンターに一枚の紙が現れる。

「これ、何?」

リディアは恐る恐るその紙を手に取る。そして、そこに書いてある内容を見て息を呑んだ。

「何、これ……」

手が震えて、紙がするりと指先から滑り落ちる。

「なんで? なんで、イマンさんが?」

混乱して、リディアは自分の頭を抱える。

【リディア・グリーンはレイと名乗る男を連れて直ちに魔法庁へ出頭すること。さもなければ、イマン薬店店主は犯人隠避の罪で裁かれることになるだろう】

紙に書かれた内容は、至ってシンプルだ。

リディアにレイを連れて魔法庁に出頭することを求めており、それに従わない場合は代わりにイマンが裁かれると言っているのだ。だけど──。

「意味が分からないわ! だって、イマンさんはなんの関係も──」

そこまで言って、リディアは理解する。

きっと、イマン以外にも何人も、リディアが親しくしていた人達が捕らえられているのだ。その誰かにリディアが接触した際に、魔法の置手紙を読むように仕向けて。

「……許せない。レイに冤罪をかけるだけで飽き足らず、何も関係のない人たちを巻き込むなんて」

リディアは怒りに震える。

「……俺、王宮に行ってイマンさんを助けてくるよ」

「レイが? でも、危険だわ」

「危険でも行くよ。リディアが悲しんでいるのを見るほうがよっぽど嫌だ」

「レイ……」

リディアは言葉に詰まる。

本音では、行ってほしくない。けれど、今はそれしかイマンを助ける方法がないことはリディアにもわかっていた。

リディアはきゅっと唇を引き結ぶ。

「私も行く」

「え?」

「私も、レイと一緒に王宮に行くわ。だって、手紙の指示は私がレイを連れて行くことだもの」

「危険だよ。前のご主人様は……とても残忍なんだ。リディアのことも、平気で傷つける」

「でも、それってつまり、レイのことも傷つけるってことよね? なおさら、一緒に行くわ」

残忍だと聞いて、むしろ決意が固まった。

そんな危険人物のところに、絶対にレイだけを送り込んだりしない。

「だって、レイのことは私が守るって決めたんだもの」

強い決心を胸に、レイを見上げる。レイは困ったように眉尻を下げる。

「……わかった。だけどひとつ、条件がある」

「条件? 何?」

「リディアが俺と、フォシニの契約を結ぶこと」

リディアは目を見開く。

「……どうして?」

「もし裏で今回の件の糸を引いているのが前のご主人さまだったとしたら……正直言ってあいつは強い。リディアのことは全力で守るけど、いざというときにリディア自身も魔法を使えたら、身を護る術になる」

「…………」

すぐには「はい」と言えなかった。

フォシニなんて制度、大嫌いだ。

幼いときに大切な友達であるジェイを失い、こんな制度がなければと、リディアは切に願った。あのときリディアは、生涯フォシニなんて持たないと誓ったのだ。

「リディアの気持ちはわかるんだけど、魔力供給自体は悪じゃない。先生だって、定期的に魔力供給を受けていたけど、フォシニと良好な関係を気づいていただろう?」

「それは……」

リディアは言葉に詰まる。

レイの言う通り、王宮魔術師であったシリルにもフォシニがいた。ただ、普通のフォシニと違うのは、シリルのフォシニは彼の友人だという点だ。

シリルはいつも双方合意の元で、必要最低限の量だけ魔力の供給を受けていた。リディアも何回かシリルのフォシニに会ったことがあるが、いつも二人で親しげに笑い合っていた姿が印象に残っている。

「お願いだから、俺の魔力を受け取って。リディアを守りたい」

「……うん、わかった」

「刻印の場所だけど、前と同じ場所にしてもらってもいいかな? リディアの刻印で上書きしてほしいから」

レイが服を捲り上げる。

かつて刻印があった場所は、今は綺麗に消えていた。

リディアはすうっと息を吐くと、そこに手を当てる。

フォシニの契約魔法は、魔法学で一番最初に習う。これができないと、魔力の供給を受けられず魔法を使えないからだ。

けれど、リディアは一度もその魔法を実際に使ったことがない。

(上手くできるかしら。怖い……)

もし自分が失敗してしまいレイに何かがあったら。そして、もし自分が魔力を奪いすぎてレイがジェイのようになってしまったら。

そう思うと、怖くてたまらなかった。