作品タイトル不明
7.対決(2)
「なぜそんなことを? 出身は関係ありません。私は加護を施した本人です」
「いい加減にしてください。その加護は失敗したのですよ」
その言葉に、カーティスは唇を引き結ぶ。
第二王子は生後すぐに亡くなった。
当時、加護が不完全だったからだと陰で囁かれていたことは知っている。
「とにかく、この件に関しては私が預かります。あなたはもう下がってください」
「しかし……」
「しつこいですよ」
ダリウスの目が、鋭さを帯びる。
「下がれ」
「長官!」
「この件は私が預かる」
「ですが――」
「下がれと言っている」
いつにない低い声は、それ以上は許さないと明確な拒絶を示していた。
カーティスは拳を握り締める。
「……承知いたしました」
頭を下げ、執務室を出る。
扉が閉まった瞬間、カーティスは唇を噛む。
きっと、握り潰される。
そう直感した。
カーティスの立場では、魔法庁長官のダリウスの行動を止めることは難しい。万が一指名手配でもされようものならば、レイは何もしていないのに犯罪者扱いされてしまうことになるだろう。
(どうすれば……)
考え込んでいたそのとき、同僚の王宮魔導士が自身のフォシニを連れて歩いているのが目に入った。
◇ ◇ ◇
カーティスがダリウスを尋ねた翌日のこと。
リディアは落ち着かない朝を迎えていた。
朝ご飯の卵をフライパンで焼きながらも、思い出すのは昨晩の出来事だ。
触れ合った感触を思い出し、無意識に唇に触れる。
深く強引なキスを思い出し、顔が熱くなるのを感じた。
(うわー! 私ったら何を想像して──)
羞恥のあまり、手で顔を仰ぐ。
キスなんて皮膚粘膜の一部が触れあっただけ! と割り切るには、リディアの男性経験は乏しすぎる。
(平静! 平静! 平静!!)
必死に自分に言い聞かせていると、なんだか焦げ臭い。ハッとして手元を見ると、玉子焼きが焦げ始めていた。
「ああっ!」
リディアは慌てて卵焼きを皿に移す。若干焦げているが、リディア的判定では食べられる範囲内なのでホッと胸をなでおろした。
その後、スープをよそってパンを並べ、リビングの奥にある扉のほうを振り返る。
(レイは……)
レイの部屋の扉をそっと開けて中を覗くと、彼はまだベッドの上で横たわっていた。
(寝てる?)
レイはいつも朝寝坊で、リディアが起こしに行ってようやく起きる。今日に限っては、それがありがたかった。一体どんな顔をしてレイと顔を合わせればいいのか、わからなかったのだ。
「綺麗な顔」
高い鼻梁に、深い堀。長いまつ毛はいつの間にか髪の毛と同じ銀色に変わっている。
そのとき、急に手が伸びてきて腕を強く引かれた。バランスを崩したリディアはレイのベッドに倒れ込む。すぐさま腹部に腕を回され、ぐいっと体を引き寄せられた。
「リディア、おはよう」
「レ、レイ? 起きてたの?」
「リディアが来た気配で今起きた」
レイは後ろからリディアをぎゅーっと抱きしめると、首筋に顔をうずめる。吐息が敏感なところに当たり、リディアは身を捩る。
「レイ。離して」
「やだ。離さない」
レイはリディアのお腹に回す腕に力を籠める。背中にレイの胸の温かさを感じてリディアの心臓は跳ねた。
「リディア、俺の顔が好きなの?」
「へ?」
「綺麗な顔って言ってた」
まさか聞かれていたとは思っていなかったので、リディアは動揺する。
「そ、それは……」
「俺はリディアの顔、好きだよ」
レイはリディアの首筋に額をこすりつける。
「リディアの顔も、声も、喋り方も、性格も、全部好きだよ。だから、ずっと一緒にいようね」
「レイ……」
それはきっと、奴隷商に売られていたレイを買ったのがたまたまリディアだったから。
もし違う人がレイを買っていたら、レイはその人を好きになったのよ。
それに、その『好き』は子供が親を慕う『好き』のようなものであって、恋人を慈しむ『好き』とは違うのよ。
そう言いたい気持ちになったが、リディアは口をつぐむ。
レイの気持ちは、レイのものなのだから、リディアが否定してはいけない気がしたのだ。
(もう少ししたら、他の女の子にも興味を持つはずよね)
きっと、リディアより若くて、綺麗で、無能魔女だなんて言われないような子を好きになるだろう。
そう思ったら、ずきっと胸の奥が痛んだ。