軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第9話 試練の洞窟(中編4)

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元の平らな台座に戻った闘技場に、バルドたちは走り上がった。

ザリアはへたり込んでいる。

荒い息をついていたが、しばらくして落ち着くと。

「やっぱりねえ」

と言った。

何がやっぱりなのじゃ、とバルドが訊くと、薬師ザリアはこう答えた。

「ゴドンにはポール=ボー。

カーズにはスカーラー。

そしてあたしにはソーシエラ。

それぞれお似合いの相手じゃないかい。

そうさ。

お似合いすぎる。

この闘技場の敵は、こちらに見合った敵になるようになっているみたいだねえ」

見合った敵じゃと、とバルドは訊いた。

「そうさ。

この闘技場に出る敵は、あらかじめ決まってない。

上って来た相手を見極めて、それにふさわしい敵が用意されるのさ。

それにしても三人続いて神様が相手に選ばれるとはねえ。

それも、そろいもそろって大神級の神様ときた。

あたしらの評価は抜群に高い、ってことなんだろうね」

このザリアの言葉を聞いて、ゴドンが反応した。

「おいおい、ザリアよ。

それでは、なにか。

わしたちではなく、もっと弱っちい挑戦者であれば、もっと弱い敵が出たというのか」

「そうだね。

たぶんそうだと思う。

ということは、人数が多いほど通らなきゃならない闘技場の数も多い、ってことだろうねえ」

「なにっ?

では三人で来ていたら、もう試練とやらには合格しておったのか?」

「ははっ。

そういうことになるねえ。

ただし三人で来ていたら、あの通路のいやらしい敵は倒せなかったろうね」

「おお!

それもそうじゃ。

やはり最強の武人を集めてきてよかったわけじゃな。

はっはっはっはっ」

そうだ、だからこそやはりおかしい、とバルドは思った。

闘技場の敵は、難敵だが強い心を持てば倒せる敵だ。

正々堂々としており、気持ちのよい敵だ。

わくわくする戦いだといってもよい。

だが通路の敵はそうではない。

いやらしくて陰湿な敵だ。

このちぐはぐさは、何を意味しているのか。

長い休憩のあと、ザリアは腰を上げた。

自分の手当はしていない。

血は止まっているが、顔の傷も残ったままだ。

考えてみれば、ザリアの不思議な力のもとは、体内に取り込んだ精霊である。

精霊の力にも限りがあるのではないか。

もうその力は残り少ないのではないか。

とすれば、ここからはいよいよ気を引き締めていかねばならない。

13

次の通路の色は紫で、出てきた敵はくちばしのあるコウモリのような敵だった。

カーズとイエミテが恐るべき目の良さと攻撃速度をみせ、ことごとく打ち落としたのだが、ゴドンとエングダルが何度か攻撃を受けてしまった。

すると二人は倒れてけいれんを始めた。

この頑健な二人がである。

毒だ。

しかも非常に強力な毒である。

ザリアは精霊の力をふるって二人を癒やした。

だが誰の目にももうザリアがひどく消耗していることは明らかだった。

次の闘技場に挑んだのはイエミテである。

イエミテが闘技場に登ると、台座の上には小さな木々のおいしげる、まるでおもちゃのようにこじんまりとした森が現れた。

敵が見えない。

ちらりと動くものがあったので目線をやれば、なんとしたことだろう。

手のひらほどの大きさの、小さな小さな獣がいる。

猿に似た顔には奇怪な文様が彫り込まれ、右手には槍を、左手には棍棒を持っている。

闘技場に上ったイエミテはといえば、やはり小さく縮んでしまった。

手のひらほどの大きさであるが、どうも比べてみると敵よりも少し小さいようだ。

待てよ、とバルドは思った。

右手に槍、左手に棍棒、顔に文様といえば。

森の神ウバヌ=ドドではないか!

だがウバヌ=ドドは、人の姿をした神ではないのか?

この猿のような姿は、どうしたことか。

いや。

猿ではない。

ジャミーンだ!

ジャミーンの姿をした森の神なのだ。

このときまでバルドは、神々は人間のような顔と姿形をしていると思っていた。

そのように多くの神話も伝えている。

だが神話の中には、神々が獣のような、あるいは亜人のような姿をしている、と伝えるものもある。

亜人の姿をしてたのでなければつじつまが合わない伝説もある。

これはいったい、どういうことなのか。

バルドは、竜人の島で族長ポポルバルポポから聞いたことを思い出した。

〈お前たちは知っているか〉

〈人間の言葉というのは、もともと人間の言葉ではない〉

〈それは、初めの人間が作り出したものなのだ〉

〈この地のさまざまな種族の言葉を初めの人間は研究し、それが過去には一つの言葉であったという仮説にたどりついた〉

〈そしてさまざまな種族の言葉から共通の要素を抜き出していって、新たな言葉を作り、人間がそれを話すようにしたのだ〉

名を呼ぶ、というのは言葉をもって呼ぶ。

自分たちが呼ぶ神々の御名も、言葉そのものである。

それがもともと〈もとからの人々〉のものであったとすれば、神々もまた〈もとからの人々〉のものであったのではないか。

人間がその言葉をわがものとしたとき、神々をもわがものとした。

そういうことなのではあるまいか。

だから〈もとからの人々〉と相対するとき、神々はもとの姿を取り戻すのではないだろうか。

バルドはそんなことを考えた。

イエミテは、敵の胸元に矢を射ち込んだ。

それは敵の胸元に突き刺さったものの、まったく痛手を与えていない。

敵はおそろしく素早く動き、槍と棍棒で攻撃してきた。

対するイエミテも、素早さでは負けていない。

攻撃をすべてかわしていく。

だが敵の手数は多すぎて、イエミテにはつけいる隙がない。

やがてイエミテは、森の中に姿を隠してしまった。

森の神は、あちらこちらとイエミテを探す。

探しても捜しても見つからず、敵がじれてきたとき。

森の神の後ろ側の茂みからイエミテは飛び出した。

その手には弓が構えられ、すでに矢がつがえられている。

イエミテは木の枝を利用して跳躍し、森の神の首の真後ろに矢を押し当て、放った。

矢は森の神の喉首から突き出た。

鐘が三度鳴り、イエミテの勝利を告げた。

次の通路は桃色だった。

出て来た敵は、空中をくねくねと泳ぐ、魚のようでもあり蛇のようでもある敵だった。

これは困った敵で、剣で切ってもバトルハンマーで打っても、するりとすり抜けてしまう。

そのくせ敵のぎざぎざで鋭い歯は、こちらの肉をかみ切っていく。

しかも鎧を通り抜けて肉をかむのである。

カーズとイエミテはかわしてしまうので被害もないが、ゴドンとバルド、それにザリアは、さんざんに痛めつけられた。

決め手になったのはエングダルの表皮の硬さである。

さすがの空飛ぶ魚もエングダルの鎧のような皮膚は容易にかみ切ることができなかった。

そしてかみついている瞬間は攻撃が通ったのである。

そこで他の者は遠ざかり、エングダルがおとりになった。

エングダルにかみついた飛行魚をカーズが切り捨てたのである。

分かってみれば何ということもない敵だった。

だが、分かるまでの被害は深刻である。

バルドは止めたのだが、ザリアはバルドとゴドンに癒しの技を使った。

そのあとザリアは立てなくなった。

しばらく休もうとバルドは言ったが、ザリアは先を急いだほうがいいと言って譲らなかった。

結局ザリアをエングダルがおぶって進んだ。

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次に闘技場に上ったのはエングダルである。

エングダルがステップを登ると、光がはじけ、轟音が鳴り響き、敵手が現れた。

雄偉な体格を持った神である。

右手には巨大な曲刀を、左手には分厚い丸盾を持っている。

両の手はひどく長い。

その顔も、裸の体に刻まれた文様も、まさにゲルカストである。

ただしその足は岩でできており、その体からは、さらさらと砂がこぼれ落ちている。

大地の神ケッチャ=リである。

ケッチャ=リもまた、人の姿ではなく、ゲルカストの姿をしている。

やはり神々は、もともと〈もとからの人々〉のものなのだろうか、とバルドは考えた。

いや。

いや、いや。

そうではない。

言葉はあとから与えられたものだとしても、いにしえの人間がこの地に降り立って、神々と出会う、という出来事があったはずだ。

そのとき呼び名が生まれただろう。

もちろん、もとから〈もとからの人々〉のあいだに語り継がれた神も、言葉の中には含まれていただろう。

その神々を、人間はみずからの神々であるように語り変えたかもしれない。

そうした二種類の神々がおわすのではあるまいか。

いや。

まてよ。

もしかすると、三種類だ。

三つめの神は、人間がもとの世界から連れてきた神だ。

そうした神もあったにちがいない。

そうだ。

この世界には三種類の神がおわすのだ。

そうとして、大地の神ケッチャ=リは、どうなのだろう。

人間の神なのか。

ゲルカストの神なのか。

答えはすぐに出た。

人間にとっては人間の神であり、ゲルカストにとってはゲルカストの神なのだ。

それでよいではないかと。

エングダルは〈クィタン〉と呼ばれる反りのある片刃の刀を構えた。

大地神は、左手の盾を突き出した。

エングダルが攻撃すれば大地神はそれを丸盾で受け止め、右手の曲刀で斬りつけてくるだろう。

エングダルの強みは、ゲルカストとしても大柄のその体である。

その強靱な外皮は、少々の刃物などはじき返してしまう。

また巨大な体重から繰り出される斬撃は、川熊の魔獣すら切り裂いてしまうだろう。

しかしこの場合は勝手が違う。

なにしろ大地神はエングダルよりさらに大柄である。

そして見たところ、若々しいゲルカストに匹敵する、いやそれ以上のたくましく頑丈な体つきをしている。

エングダルは、この難敵相手にどう戦うのだろうか。

突き出される盾を、エングダルは無視した。

大地神はエングダルににじり寄り、丸盾でエングダルの胸を打った。

エングダルはわずかに体を揺らしただけで踏みとどまった。

そのとき大地神の右手が素早く振られた。

斜め上からの斬りつけである。

そしてクィタンで防御しようにも、大地神が突きつけた丸盾が邪魔になって、エングダルは武器を振るうことができない。

とみえたのだが、エングダルは器用に肩を回し、丸盾を迂回してクィタンで曲刀をはじいた。

大地神の顔にわずかに驚きが浮かんだ。

そして、にやりと笑った。

いきなり大地神の猛攻が始まった。

左手の盾でエングダルの動きを邪魔しながら、縦横無尽に曲刀で攻め立ててきたのだ。

上から、下から、横からの、変幻自在な攻撃である。

驚いたことにエングダルは、これをすべて打ち落としてみせた。

まことに器用に盾をかわしながらである。

バルドは目をみはってこの攻防を見守った。

なんという、うまさ。

そして体の柔らかさ。

一見無骨にみえるエングダルは、とてつもない巧妙な技術の持ち主だった。

巨大で無骨なクィタンを見事に操り、大地神の攻撃をそらし、はじき、受け止める。

息をもつかせない攻防が続く。

エングダルは、攻撃には転じず、クィタンをもって防御に撤している。

攻め立てる大地神のほうが、あまりにも続く攻防にしびれを切らしてきた。

そして大地神は大きく剣を引き、必殺の一撃をエングダルにあびせようとした。

そのときエングダルは、初めて攻勢に出た。

それまでは右手一本で操っていたクィタンに左手を添え、猛然と大地神に打ち掛かったのである。

大地神は右手で攻撃を仕掛けつつ、エングダルの攻撃線上に丸盾を構えた。

大地神のとっておきの一撃は、エングダルの左肩を捉えた。

エングダルの両手による斬撃は、丸盾に食い止められた。

とみえたが、クィタンは丸盾を切り裂いて大地神の顔を捉えた。

クィタンは、大地神の左頬から入り、顔の三分の二ほどを切り裂いて止まった。

大地神の一撃は、エングダルの左肩を半ば切り裂いて止まった。

顔にクィタンを食い込ませたまま、大地神はにやりと笑った。

そして倒れて消滅した。

鐘が三度鳴り、エングダルの勝利を告げた。

エングダルの左肩からは血が噴き出している。

ほとんど半分ほど斬り落とされていて、だらりと垂れ下がったままである。

ザリアが駆け寄って、手当をした。

血は止まったが、傷は完全には治らなかった。

治療の途中でザリアは力尽きて気を失った。

一同はザリアが意識を取り戻すまで待って、次の通路に進んだのである。

次の通路は茶色に光っていた。

ここでは何も出なかった。

不思議に思いながら次の闘技場の部屋に入った瞬間襲われた。

しかも今度の敵はひどく面倒な相手だった。

羽の生えたムカデのような敵で、高い所を飛び回りながら、毒の粉をまき散らすのだ。

全員すぐに通路に待避して、空を飛ぶ敵はイエミテが矢ですべて撃ち落とした。

だがそのため、イエミテはひどく毒の粉を吸い込んでしまった。

ザリアの治療によりイエミテは一命をとりとめたが、ザリアがばたりと倒れてしまった。

一行は六番目の闘技場の前で二度目の食事を取り、ザリアの看病をした。

といっても気付けの薬草と水を飲ませたほかは、ただ安静にして様子をみるだけだ。

体を休めているうちに、バルドは思った。

例えばパルザムの建国の伝説。

建国王は、猿と蛇と蜥蜴を従えて神の試練を受け、その褒賞として得た武具で国の基を打ち立てたという。

あるいはメルカノ神殿の創設の伝説。

聖人は、熊と豹を友として迷宮を踏破し、得られた薬で人々を癒し、それがメルカノ神殿のもととなったという。

古い時代に英雄たちは亜人たちを友として、この迷宮に挑み踏破してきたのではないか。

つまりこの迷宮こそが、ジャン王の遺産なのではないか。

やがてザリアが目を覚ました。

バルドは闘技場に向かった。

いよいよバルドの出番である。

どんな敵が出てくるかは分からない。

だがバルドは大きな心配はしていなかった。

闘技場に出る敵は、こちらに合わせた敵だ。

決して油断してよい相手ではないが、まったく太刀打ちできないような敵は現れない。

バルドは年老いて衰えた騎士なのだから、そうむちゃな相手を出してくるはずはなかった。

だからいくぶん気楽な気持ちで挑戦することができる。

そしてバルドはステップの一段目に足をかけた。

轟音が鳴り響いて閃光がほとばしり、闘技場にバルドの敵手が現れた。

15

その相手の姿を見たとき、バルドは闘技場に上るのはやめて誰かに代わってもらおう、と考えた。

それほどの相手である。

雄偉な体格。

大地の印章を刻んだ白銀の鎧。

長大で重厚な直剣。

右の戦靴は黒く、左の戦靴は白い。

太陽の印章を刻み込んだ盾。

黒い悍馬にまたがっている。

戦神マダ=ヴェリ。

あまたある武神の頂点に立つ大神である。

バルドも大柄なほうだが、この戦神はさらに一回りも二回りも大きい。

しかも、静かにたたずむその姿からただよってくる武威。

これはバルドも経験したことのないほどのものである。

今までに出会ったどんな武人ともけたの違う相手だ。

いや、これはなかろう、とバルドはつぶやいた。

どう考えても相手がおかしい。

こちらと釣り合っていない。

これではまるで勝負にならないではないか。

そのうえあちらには馬があって、こちらはなし。

なんという不均衡。

なんという不公平。

「さすがおやじ殿」

珍しくもカーズが口を開いたかと思えば、脱力するような言葉をはいた。

このときバルドは、〈試練の洞窟〉の入り口にあった文言を思い出した。

〈なんじらのすべてが敵を退ければ、大いなる褒賞が与えられるであろう〉

なんじらのすべてが敵を退ければ、とあるのであって、なんじらがすべての敵を退ければ、とあるのではない。

つまりこの洞窟に足を踏み入れた者は、すべてそれぞれの敵を与えられる。

そのそれぞれの戦いで全員が勝利を得なければならない、という意味だろう。

バルドは引き下がることはできないのだ。

しかも負けるわけにはいかない。

バルドが負ければ、ここまでの皆の努力が無駄になる。

覚悟を決めて、バルドは闘技場に上がった。

ふと振り返って、いぶかしく思った。

ゴドンもカーズもエングダルもイエミテも。

実にうれしそうな顔をしている。

楽しそうな顔をしている。

はて、そんなにわしの不幸が心地よいわけでもあるまいに。

そのとき、ふと思った。

そういえば、この戦いは、わしが望んだことじゃったなあ。

わしが望み、みんなに来てくれと頼んで、ここに来てもらっておる。

そのわしが一番厳しい戦いを戦わなくてどうするのか。

そして武神のほうに向き直って思った。

なんというあふれかえる武威。

考えてみれば、これほどの敵手と戦える幸運は、めったな騎士が得られるものではない。

わしの命のすべてを賭けて挑み、砕け散るにふさわしい相手じゃ。

わしは何を心配しておるのか。

いったい何を焦っておるのか。

この敵を倒して次に進み、やるべきことがあると思うから焦る。

本当は次に進んだからといって、何が得られるか得られぬか、それは分からんというのに。

目的が果たせないかもしれぬと心配しておるのか。

馬鹿なことじゃ。

ここで倒れるなら、それまでのこと。

よき戦いを戦い、誇りある死を迎える。

それこそがわしが求めるいよいよの目的ではないか。

胸を張れ、バルド・ローエン!

しかと目を見開いて、目の前の敵を見つめよ。

ああ、そうか。

今、分かった。

なぜ皆があのように喜ばしい顔をしていたかが。

皆もそうだったのだ。

それぞれの闘技場に上り、好敵手に会えて歓喜した。

素晴らしい戦いを戦った。

命を沸き立たせ、全身全霊を込めて技をふるった。

勝ったからうれしいのではない。

その素晴らしき戦いの場に上がることを許されたことがうれしいのだ。

だからこそわしが至上の敵手に恵まれたことを、心から祝福してくれているのだ。

生きられぬというなら死ねばよい。

ただしその最後の瞬間に、わしは人生で最高の技を放つ。

今まで出会ったもの、学んだもの、すべてを込めて一撃を放つ。

その瞬間のために、わしは今日まで生きてきたのじゃ。

バルドは決然と一歩を踏み出した。