作品タイトル不明
ゴブリンダンジョン 上下左 ㊨
とあるサークル臨時。
その開始前の休憩室。参加者たちが、時間までの交流におしゃべりをしていた。
コメットは準備を終え、休憩室に入ると、知り合いの女性冒険者二人組を見つけた。
話しかけようと、近づく。
すると、別の女性冒険者二人組が寄って来て、先に声をかけてしまう。
そしてコメットに背を向けたまま、四人はそのまま離れていく。
まるで話しかけるのを、露骨に避けるように。
「……」
掛けようとしていた声が出ないまま、その場に立ち尽くす。
(……また? ウチ、なんかした?)
ここ何度か参加したサークル臨時では、いつもこうだ。
だが、特に何もしていない。
むしろほとんど、接点がないのだ。
だからコメットとしては、女性冒険者と仲良くしたい。交流を深めたい。
だが話し相手になってくれるのは、いつも男性冒険者ばかり。
思い人のいるコメットにとっては、あまり嬉しくない流れだった。
ここしばらく、コメットを取り巻く環境は激変した。
アマギという冒険者が気になっている。
好きだと自覚し、一緒に行動したいと思っている。
その気持ちは変わらない。
だが、その彼と参加した二度のサークル臨時のあと、人が集まってきた。
決して良いところを見せたわけじゃない。
むしろ人前で大泣きするという、みっともないところを晒した。
なのに、気づけば知り合いは増えていた。
今では、そこそこの規模のグループになっている。
思い人と行動できる狩り方を教えてくれた先輩冒険者が常連だったという、
アマギと一緒に最初に参加したサークル臨時に、その仲間たちと参加するようになった。
「コメットちゃん、今日はコンゴーとギンジは?」
先輩冒険者のその言葉に、離れていった女性冒険者のうち二人が振り返る。
その目つきは剣呑で、決して良いものではない。
それはコメットにも分かっていた。
この先輩冒険者は、その二人の前では「君」付けで呼んでいたのだ。
それがいない場所では、まるで格下に向けるような口調になる。
「……今日も、来ぃへんみたいやね」
「またー? あいつら最近、ちょっとたるんでるじゃないの?」
「迷惑するのこっちなんだけど。
コメットちゃんさー、ちゃんと連絡しといてよね」
そう言って、先輩冒険者たちは離れていく。
サークル臨時の主催チームとの打ち合わせに向かうのだろう。
彼らが離れたあとも、コメットには視線が刺さり続ける。
参加者たちの、値踏みするような目だ。
コンゴーとギンジ。
アマギに無視されたあとに、仲良くなった冒険者たちだ。
そして、その仲の良い女性冒険者二人。
その四人を主軸に据えて、このサークル臨時に参加すると、
コメットたちのグループの勢いは急上昇した。
サークル臨時の主力として、先行できる――そんな話が出るくらいに。
だが、そんな明るい未来が見えたのは、ほんの一瞬のことだった。
コンゴーとギンジは来なくなる。
その仲間の女性冒険者二人も、別の女性冒険者たちを誘って距離を取った。
先行組に入る話は、当然のように消えた。
ゆっくりと、人は離れていく。
その頃からだ。
先輩冒険者に、ギンジともっと密に連絡を取るよう言われたのは。
コメットが好きなのは、ギンジではない。
アマギという冒険者だ。
こうして拡大したグループを維持したいのも、
アマギと仲直りしたいからだ。
増えた仲間。
コメットがサブリーダーとしてグループを守る。
そして、アマギにはそのトップに座ってほしい。
先輩冒険者たちと相談して描いた、コメットの――明るい冒険者生活だった。
だが、アマギからの返信はろくに来ない。
ギンジに「来てほしい」と送っても、
『今はやる事があるから、ごめんね。ちょっとだけ待っていて欲しい』
と返ってくるだけだ。
先輩冒険者たちは、
『出る杭は打たれるもの』
『ここを耐えないと上にはいけない』
などと言う。
だが、その言葉が何かを変えてくれるわけでもない。
周囲の視線は冷たいまま、コメットへと突き刺さってくる。
隣にいてほしい人はいない。
なのに、常に別の誰かが話しかけてくる。
甘い台詞を混ぜた言葉で。
(何でこうなったんやろ?)
(うちはただ……アマギはんと一緒に居たい。それだけなのに)
コメットは、すべてを放り出して逃げ出したい――
そう思うほどに、追い詰められていた。
ろくに返事は来ない。
それでも、その返事に期待して、縋りつきたかった。
脳内で、都合よく――アマギを白馬に乗せて。