軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

サークル臨時③

サークル臨時は四階層を越え、五階層へと進んでいった。

雨木たちが一歩引いてからは、目立った問題もなく進行している。

押し付けられない位置を意識しながら立ち回り、レッサーコボルトを倒して経験値を稼ぐ。

淡々とした作業だが、流れ自体は悪くなく進んだ。

しばらくして、一行は大きな扉のある部屋の前にたどり着いた。

コボルトダンジョンは平原型で、基本的に視界が広い。

だが五階層の最奥には、例外的に扉のある区画が存在している。

「……ここか」

大きく開いた扉の前で、雨木は自然と足を止めた。

その奥には、ボス部屋特有の広い空間が覗いている。

(なるほど、これがボス部屋か。

で、奥にあるのがポータル。見た目は出入口のものと変わらないな)

二階層から五階層への移動は階段だった。

だが五階層から六階層へは、このボス部屋内に設置されたポータルを使う。

ボス部屋が存在する階層、次階層への移動手段は、どのダンジョンでも共通していると言われている。

それを実際に目にできたのは、雨木にとって得難い経験だった。

「ボスはいないみたいだな」

「だな。いたら待機だったし、さっさと進めていいんじゃね」

隣でカナタが言う。

ボスが部屋に存在する場合、扉は閉ざされている。

誰かが開けると一分間だけ解放され、その間に中へ入った者だけが挑戦権を得る。

それが、これまでに判明しているダンジョンの仕組みだ。

今回のサークル臨時に、ボス討伐は含まれていない。

もしボスが残っていれば、主催チームが討伐を行い、その間、参加者は扉の前で待機することになる。

そう考えると、既に討伐済みで素通りできるのはありがたかった。

(まあ、主催チームが先に片付けてるんだろうな)

五階層ボスの討伐は別枠だ。参加費三十万円の設定で募集される。

今回のサークル臨時は、そこを最初から切り離した内容になっている。

ただし、扉が開いている一分の間に中へ入ってしまえば、参加する権利自体は得られる。

仮に主催チームが「入るな!」と言ったとしても、入ろうとする者は出てくるだろうと、雨木は考える。

(俺なら無理に参加はしない。ルールは守るべきだ。

だからこそ主催側に回ったら、横入りを許す気にはならないな。

だったら先に討伐しておくか、いない時間帯を選んで進行する。

……なるほど、何となく見えてきたぞ。サークル臨時のやり方が)

このボス部屋のポータルを使えば、先の階層へ進める。

今回は六階層のポータルに転移する。

移動先のポータルからは、ダンジョン外へ戻ることが可能となる。

ボス部屋は五階層刻みで存在している。

次は十階層に在る。

だがサークル臨時は九階層までが予定範囲だ。

九階層からは六階層に戻り、そこから帰還する流れになる。

効率だけを考えれば、十階層のボス部屋を抜けて戻る方が早い。

(はは~ん。名目上は経験値稼ぎだが……

今の主催チームは八人。この面子で五階層なら問題ない。

だが十階層は、倒せるかどうか怪しい。 って仮説が出来ちゃう訳だ)

「アマギ、なんか楽しそうだな。何かあったか?」

考え込んでいたところで、カナタの声が飛んできた。

雨木は一瞬、我に返る。

「いや……まあ、無くもないか。

ダンジョンの中でポータルを使うって、ちょっとワクワクしないか?」

「そうか? 俺は何度通っても慣れねぇけどな。変な感じする」

「その辺は感覚の違いか。俺は割と好きだな」

どうやら顔に出ていたらしい。

誤魔化せたことに、雨木は内心で安堵する。

世界各地にダンジョンは存在するが、基本的な構造は共通している。

出現する魔物の傾向も、大きくは変わらない。

「なあカナタ。単一種族ダンジョンだ。六階層からは槍持ちが出てくるんだよな?」

単一種族ダンジョンでは、二階層までは素手の魔物しか現れない。

三階層から棍棒を持った個体が混じり始めるが、五階層まではその構成に変化はない。

「おう。六で槍。八が斧、九が弓。十階は全部だ」

六階層に入ると、槍を持った個体が現れ、素手の魔物は姿を消す。

八階層では斧持ちが追加され、棍棒持ちはいなくなる。

九階層では弓を持つ個体が現れ、槍持ちが消える。

そして十階層では、それまでに出てきたすべて混ざって出現するらしい。

「了解。気を付けよう」

雨木の言葉に、カナタが軽く拳を合わせる。

二人はそのまま、ポータルへと足を向けた。

☆★ ☆★

八階層。

先頭集団が通過した平原で、レッサーコボルトの群れが現れた。

四匹。石斧持ちが二匹、竹槍持ちが二匹だ。

先頭集団はそれに気づいたが、手は出さない。

位置が悪いと判断したのか、そのまま進んでいった。

「チッ……」

雨木は小さく舌を打つ。

嫌な位置だ。

その直後だった。

後ろの集団が一斉に動く。

合図でもあったかのように散開し、レッサーコボルトを前へ押し出す。

進路の先にいたのは、雨木とカナタだった。

「……来るぞ」

カナタも舌打ち混じりに言う。

正面に立たされる。

自然に、当たり前のように。

距離は近い。

今から下がれば、追いつかれる可能性がある距離だ。

後ろから狙われる可能性がある。それを分かって、逃げる二人ではない。

「くそがっ」

カナタの声が低くなる。

雨木も同じ気分だった。

どんなに気を付けても、経験が足りない。

数字の上の経験値ではない。

現場での経験、立ち回りの差だ。

二人は下がり気味のポジショニングを意識している。

だが周囲の連中の方が圧倒的に上手く、どうしても押し付けられる。

これも初めてではない。

もう何度も、同じことを繰り返してきた。

「斧は俺が! 槍を頼む!」

叫ぶと同時に、雨木はバールを全力で投げた。

竹槍を持つレッサーコボルトの肩口に突き刺さる。

その瞬間、カナタが片手剣を構え、残る槍持ちの正面へ回る。

雨木は即座にトンファーを両手に持ち替え、石斧持ちを牽制した。

視界の端で、バールを受けたレッサーコボルトが、押し付け組に飲み込まれていく。

間を置かず、そいつらは次の獲物を探すように動いた。

雨木とカナタが相手取っているレッサーコボルトへ、じわりと距離を詰めてくる。

戦闘は瞬く間に終わった。

雨木は、何とも言えない表情でカナタと目を合わせた。

そんな押し付けを繰り返しながら、一行は九階層へと進んでいった。

雨木とカナタは言葉が少なくなりつつも、互いに声を掛け合い、協力して進む。

そんな折、集団の反対側――雨木たちから少し離れた位置で、戦闘が起きた。

五匹の武装したレッサーコボルトが現れ、押し付け組がさっと散る様子が目に入る。

「どうする? 間に合わないと思うけど、一応行くか?」

「ほっといていいだろ。どうせすぐ近くの奴が囲む。行くだけ無駄だ」

そこへ向かうには、人の群れを掻き分ける必要がある。

そうしてでも経験値を稼ぎに行く参加者はいた。

だが、既に白けていた雨木とカナタは、そこまでする気にはなれなかった。

「だな。俺は逆を警戒してる。何かあったら教えてくれ」

雨木はそう答え、視線を外す。

こうした状況は、これまでにも何度かあった。

総勢五十名を超える集団だ。自然と広く分布する。

反対側で戦闘が起きた直後、今度は逆側に敵が出現する。

そうした場面での対応に、初対面の二人と、押し付け組とでは雲泥の差があることを学んだ。

「チッ、アマギ! マズい、あっちに増援だ!」

だが、その雨木の視線は、カナタの声ですぐに引き戻される。

振り向いた先に映ったのは、単独の冒険者が突き飛ばされた場面だった。

女性だった。

押し出され、前のめりによろけながら、レッサーコボルトの前へ進んでいく。

軽装で、手には剣。だが、一人だ。

その前に新たに立ちはだかろうとするレッサーコボルト。

数は三匹。

横から回り込む気配は、周囲にない。

一瞬、女性の動きが止まった。

「……あれ、まずくないか」

雨木が言うより早く、カナタが動いた。

「行くぞ」

短い一言。

それで十分だった。

二人は進路を変え、傍観している参加者たちの群れへ踏み込んだ。