作品タイトル不明
9話 やっぱりロリコンじゃん♡こわ♡
律はなんとか魔法のステッキを出すことができた。
ほとんど気合でひねり出したようなものだった。
ハート形のクリスタルがトップについた、金色に輝く魔法のステッキ。
律がイメージする“魔法少女の武器”そのままだった。
まともに訓練をしていないのに、よくやった方だと律は思う。
が、そこまでだった。
ステッキを出すことで精一杯。
ステッキを使って魔法を使う――そんな高度なことが律にできるはずもなかった。
なので、自ずとこのような使い方になる。
「おらっ♡」
ドッガアアアアアアァァァァン!!
律のステッキに横っ面を殴られ、キョウゴクは吹っ飛んだ。
建付けの悪い玄関ドアをぶち破り、廊下の錆びた柵をへし折り、そのまま2階から真っ逆さまに転落。全身をコンクリート製の地面に強打した。
『え!?』
『…は?』
『待て待てwwwwwww』
『なにが起きた!?wwwwwww』
『ステッキで殴ったように見えたけど…気のせいだよな?wwww』
『俺はなにを見ているんだ?本当に魔法少女の戦い方か?』
にわかにリスナーたちがざわつき始める。
ステッキは魔法攻撃をするためのもの――そんな常識を嘲笑するかのような一撃に、誰もが唖然としていた。
そしてそれはキョウゴクも例外ではない。
「な、なんなんだよその攻撃は……!」
隠れていたプイプイはスマホを素早く回収してキョウゴクにそのカメラを向ける。
2階から地面に叩きつけられたキョウゴクは、大の字の格好のまま空を仰いで呆然と呟いていた。
その視線の先――律はキョウゴクを見下すようにしながら嘲笑により歪む口元に手を当てる。
「え?♡ もしかしてこれでオシマイ?♡ その筋肉、ハリボテもいいとこじゃん♡」
瞬間、キョウゴクの目が血走る。
そして地の底から響くような低い声で言った。
「もう許さねぇ。謝っても泣いても許さねぇ。犯して殺して引き裂いて……豚の餌にしてやる」
「犯すとか♡ やっぱりリツのことやらしい目で見てたんだぁ♡ ロリコンじゃん♡ こわ♡ おまわりさん呼ばなきゃ♡」
律が煽った瞬間、キョウゴクの口の中からバキッと音が鳴る。
怒りに任せて食いしばった奥歯が砕ける音だった。
キョウゴクの姿がフッと消える。
いや、消えたのではない。テレポートだ。律の背後に。
そしてキョウゴクは拳を振り抜く。
「おらッ!! 死ねやああああああああああああッッ!!」
「えいっ♡」
ゴッッッッ!!
振り向きざま、律の全力フルスイングステッキがキョウゴクの顔面にめり込んだ。
拳が空を切りながら受け身も取らず倒れ込む。
白目を剥いて泡を噴くキョウゴクを見下ろして律はクスクスと笑った。
「脳筋おじさん♡ 死角にテレポートしてくるってバレバレ♡ そこに意識を集中してれば回避もカウンターも余裕♡ そんなことも分かんないとか、脳みそよわよわ♡」
そしてリツは口元から八重歯を覗かせる。
「ハイ、リツの勝ち♡ ざぁーこ♡」
瞬間、配信画面に凄まじい数のコメントが流れていく。
『は!?』
『マジかよwwwwwww』
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!?』
『倒した!!!????』
『ステッキをバットみたいにwwwwwww』
『〈黒き森〉幹部をこんなに簡単に倒しちゃうのかよwwwwww最高ですwwwwwww』
『メスガキTUEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!』
『魔法(物理)』
『ステッキって殴るだけでこんなに強いんかwwwwwww』
『いや、こんなことできるのこの子だけだろwwww』
『ぅゎょぅι゛ょっょぃ』
歓喜するリスナー。
しかしそれは決して大袈裟な反応なんかではない。
今までは怪人・キョウゴクの能力のせいで〈黒き森〉への批判すら公然とはできなかった。
今回、こうして律がキョウゴクを倒したことで人々は言論の自由を取り戻したのである。
その報せは15万人もの目撃者によって大いに拡散され、たくさんの人間が知るところとなった。
『拡散だ!みんなに知らせろ!』
『トイッタートレンドランキングがまたメスガキに占拠されてるwwwwwww』
『いいぞもっとやれwwwwwwwwww』
『祭りだ!!!!!!』
『早速ネットニュースになってんぞwww早すぎwww』
……が、律本人は喜ぶどころではなかった。
めちゃめちゃになったアパートと、恐怖で気絶したお隣の大学生を視界に収め、律は内心で震え上がる。
(どどどどどうしよう。もうここには住めないだろうし、引っ越し代が……っていうか、もしかして俺が修繕費とか弁償しなくちゃいけない? それどころか損害賠償とか発生する? 怪人をひとり倒したから30万円はもらえるとしても……全然足りないよ!)
が、そんなジリ貧の律に救いの手が差し伸べられた。
リスナーたちの投げ銭である。
『¥10000
すげーもん見れた!!ありがとう!!』
『¥5000
キョウゴクが倒れたってことは言論の自由復活ということ!』
『¥20000
歴史的快挙に記念スパチャ』
『¥30000
イエーイ!〈黒き森〉くん見てるぅ!?』
次々と降り注ぐ投げ銭。
社畜時代、寝る間も惜しみ罵声を浴びせられながら精神をすり減らして働いて稼いでいた金が、感謝の言葉と共に降り注いでくる。
律は今までに感じたことがないような感動を覚えていた。
しかし感動に浸る時間を、キョウゴクは与えてくれない。
「……調子に、乗るなよ」
もう起き上がる力も出ないのに、キョウゴクはなおも律に悪態をつく。
パンパンに腫れて誰だか分からなくなった顔でこう脅した。
「俺を倒しても無駄だ。お前は〈黒き森〉を完全に敵に回した。これから先、お前に心安まる時間はないぞ。俺の部下たちがどこまでも探し出して、追いかけて、お前を襲う」
(ええっ!? それは嫌だな……いや、でもまぁ今までも似たようなものだったか……)
社畜時代も上司からの電話一本で休日だろうと深夜だろうと会社に走る生活を送っていたので慣れっこといえば慣れっこなのだが。
とはいえ、今回のように毎回部屋をめちゃくちゃにされたのであれば近隣の人たちにも迷惑をかけることになる。
さて、どうしたものかと考えたとき。
不意にあるリスナーのコメントが目に入った。
『¥50000
このまま〈黒き森〉壊滅させちゃえ!』
これだ、と律は思った。
***
――それから数時間後。
都内某所。
黒き森本部事務所会議室にて。
「配信見たか?」
「キョウゴクがやられたらしいな」
「あの脳筋、また勝手なことを……」
「静かになっていいわ」
「しかしこのままじゃ〈黒き森〉の威信に関わる。早急に例の魔法少女の始末を――」
〈黒き森〉幹部たちがなにやら話し合っている中、突如として会議室の扉が開いた。
大事な会議を邪魔されたことに何人かの幹部が露骨な不快感を顔に浮かべるが――理由を聞くなり、彼らはその表情を強張らせることとなる。
「大変です! 金髪ツインテールの魔法少女が乗り込んできました!」