作品タイトル不明
22話 リツの配信で喧嘩やめて♡
「こんにちは。ざこのお兄さん、お姉さん♡ 魔法少女リツです♡」
変身ブローチを掲げ、魔法少女に変身したリツはホテルの部屋の中で配信を始めた。
確かにプイプイの言う通りだと律は思った。
だいぶ魔力を消耗しているらしく、変身するだけで頭痛が格段に酷くなった。
とてもじゃないが戦える状態じゃない。
「この前のざことの戦いでリツとっても疲れちゃったから、今日はのんびり雑談配信やるよ♡ ありがたく思ってね♡」
(ああ……相変わらず偉そうな口調だなぁ……新規の人も多そうだし、今度こそ怒られるんじゃ……)
と、律は内心で思うが。
結論からいうと、そんなことに怒る人間は誰もいなかった。
律の偉業は、口調が偉そうといった程度のことで霞むようなレベルではない。
『配信ありがとうございます!!!(全裸土下座)』
『リツちゃん!!!!』
『配信待ってたよおおおおおおおおお!!!!』
『〈黒き森〉壊滅お疲れ様でした!!!!』
『リツちゃん今日もカワイイ!』
配信開始早々、凄まじい勢いでコメントが流れていく。
同接はみるみる増えてあっという間に2万を突破していた。
事前告知なし、平日の雑談配信としては驚異的な数字。
律の公式トイッター(プイプイ管理)のフォロワー数もうなぎ上りであるし、魔法少女たちの配信を行う公式チャンネルの登録者数も律の登場を境に爆増。
〈黒き森〉を壊滅させて数日が経ったが、まだまだ律の人気が収まる気配はない。
『質問を募って!』
どんどん増えていく同接と流れ続けるコメント欄、そして魔力消耗の疲れによりボーッとしかけていた律がハッと我に返る。
プイプイのカンペに従い、律は口を開いた。
「じゃあざこのお兄さんお姉さんたちの愚問に答えていくね♡ 前回はキョウドウ? に邪魔されちゃったから改めて♡」
『キョウゴクだよwwwwwww』
『名前忘れられてて草』
『ざぁこ♡の名前なんてリツさんが覚えてるわけないだろいい加減にしろ』
『この配信キョウゴクに見せてぇwww』
『やめてやれよまた奥歯砕いちゃうだろwwwww』
というキョウゴクいじりに混じって、律への質問が寄せられる。
前回は〈黒き森〉に関するものが多かったが、今回は律への個人的な質問の比率が増えていた。
『リツちゃん何歳なのー?』
『綺麗な髪の毛!ケアの秘訣教えてください♡』
『部屋変わってる?引っ越したのかな?』
『@ぬまぶくろ リツちゃんの好きな男の子のタイプが知りたいです』
(歳なんか言えるわけないし、髪のケアなんかしてないし、好きな男の子のタイプなんてないし……ああ、これならいいか)
たくさんの質問の中から、律は手っ取り早く答えられそうなものをチョイスする。
「元の部屋は壊れちゃったので、いま新しい家を探してるとこだよ♡ いい部屋見つかると良いなぁ♡」
『そうだよな…家なくなっちゃったんだもんな』
『子供なのに大変だよ』
『リツちゃんも〈黒き森〉の被害者家族って噂は本当?』
『↑やめてやれよ。そういうのは本人の発表があるまでこっちからは触れるな』
『¥50000
大変だったね…いい部屋見つかりますように』
(うう……みんななんて優しいんだ……)
温かいコメントや投げ銭に思わず目頭が熱くなるが。
『@ぬまぶくろ ホテルに泊まってることくらい聞かずとも分かるだろ低脳w 配信時間は決まってるんだから余計な時間使わせるなゴミw』
(……なんだこの人?)
気になったもののコメントの流れは速く、あっという間にほかのユーザーのコメントに埋もれてしまった。
『ひとりで暮らしてるの?ちゃんとおいしいもの食べてる?』
『次に狙いを定めてる怪人集団を教えて!』
『ほかに仲いい魔法少女とかいるー?』
『@ぬまぶくろ リツちゃんって彼氏いないよね?いないに決まってるけど念のため確認』
「ご飯食べてるよ♡ 近くにおいしいコロッケ売ってるとこ見つけたからそればっかり食べてる♡ あとはたけのこの里も食べたよ♡」
『【速報】リツ、たけのこ派だった』
『よろしいならば戦争だ……嘘です。たけのこもいいよね』
『きのこ派日和ってて草』
『ちゃんと野菜も食べないと大きくなれないぞ』
『リツちゃんに野菜たっぷりのおみそ汁を作ってあげたい…』
と、ユーザーからのほんわかしたコメントが流れるが。
『@ぬまぶくろ なに食ったかとかどうでも良すぎw』
『@ぬまぶくろ マジで低脳は黙ってろよw』
『@ぬまぶくろ どうせ馬鹿な学生か低賃金の社畜なんだろうなw』
“ぬまぶくろ”というユーザーの攻撃的なコメント連投に、ほかのユーザーも気づき始めた。
『そんな風に言わなくても』
『なんなんだよ』
『邪魔すんな!』
(あわわ……なんか険悪な雰囲気!)
どうにかしなければという意図を汲んでか、律の口が自動的に開く。
が、もちろんその口から出るのは穏便に騒動を収めようとする言葉などではなく。
『リツの配信で喧嘩やめて♡ 低脳はアナタもでしょ、“ぬまぶくろ”さん♡』
口から飛び出た言葉に、律は内心で冷や汗をかく。
(いやいや、こんな名指しで煽ったらさすがに怒っちゃうんじゃ……)
が、結果は律の予想とは真逆のものとなった。
『@ぬまぶくろ リツちゃんに名前呼ばれた!』
『@ぬまぶくろ お前らは誰も名前呼ばれてないのに!俺は呼ばれた!俺だけ!』
『@ぬまぶくろ これって脈アリってことだよね?そうでしょリツちゃん』
(え? なに言ってんだこの人……)
律はアラサー男性なのだから脈アリなわけない――ということは置いておいたとしても、ユーザーネーム以外なにも知らないリスナーのことを好きになんてなるわけがない。
世の中には時折とんでもなく変な人間がいるが、しかしぬまぶくろのそれは常軌を逸していた。
『@ぬまぶくろ リツちゃんが新宿の西縦インに泊まってることも、スーパーの割引のお惣菜買って食べてたことも、体を洗うとき左手から洗うことも全部全部知ってるんだよ。そうじゃなくて、僕が知らないリツちゃんを知りたいんだ』
『は?』
『さっきからずっとなに言ってんだお前?』
『キッショ』
『え、適当言ってるだけだよね?』
『リツちゃん大丈夫?』
『……もしかしてマジなの?』
『その部屋、盗撮されてるんじゃ』
ぬまぶくろのコメントに、リスナーたちの間にもにわかに緊張が走る。
そして律は――
(えええ!? 盗撮!? 俺、男なんだけどな……)
と、ほかの人とは少し違う視点で困惑するのだった。