軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15話 ボスもリツのこと気になるみたい♡

〈黒き森〉本部中央管理室。

モニターが映し出している死屍累々の山に、つい先ほどこの部屋を出ていったアイダが加わった。

これで残った〈黒き森〉幹部はあとひとり。

一部始終をモニターで見ていたキサラギは、大きなため息をひとつ吐き、そして決断する。

「よし、逃げよう」

もう無理だ、とキサラギは直感した。

自分の力では逆立ちしたってあの魔法少女には敵わない、と。

キサラギは中央管理室を飛び出した。

向かう先は、自分のオフィス。

廊下を小走りで行きながらキサラギはポケットから空の小瓶を取り出す。

他人を変身させることはできるが、自分には使えない――先ほどアイダに対して確かにそう言ったし、〈黒き森〉の他のメンバーにもそのように伝えていたが。

真っ赤な嘘である。

本当は自分自身も自在に姿を変えられる。

むしろそちらが本来の能力であり、他人の姿を変えるのは彼女の能力の副産物に過ぎない。

なぜ嘘を言っていたのか。

それは彼女が誰のことも信頼していなかったからである。

〈黒き森〉に所属していたのは、彼らが組織として強く、そして羽振りが良さそうだったからに過ぎない。

もしも儲からなくなったら、あるいは危うくなればさっさと逃げ出す――その心積もりと準備はできていた。

まさかこんなに早くその時がくるとは思っていなかったが。

オフィスに入り、中から鍵を締め、そしてキサラギは革張りの椅子に腰を下ろす。

「あーあ、この姿気に入ってたのにぃ」

小瓶に「ふう」と息を吹き込むと、吐息に混じった白い粉がどんどんとそのなかに蓄積されていく。

小瓶がいっぱいになった時、グラマラスでゴージャスな美女の姿はどこにもなかった。

小太りの中年男性。

本当の姿を取り戻したキサラギが、汗ばんだ額を手の甲で拭う。

彼もまた、アイダのずっと前から、TS怪人おじさんだったのだ。

「無限プチプチなんて懐かしいものを」

簡単に荷物をまとめながら、キサラギは呟く。

あれさえなければ魔法少女を仕留められていたのにという苦々しい思いが半分、そしてもう半分は純粋な疑問。

「にしても、あの魔法少女はどうしてあんなものを知っていたのかしら」

言ってから、ハッとする。

そして頭に浮かんだバカバカしい考えを振り払うように笑った。

「……まさか、ね」

キサラギはまた荷造りに戻る。

用意していたボストンバッグに私物と、それから金目の物をちょいちょいと詰め込んで――

「それが君の本当の姿か」

ザラザラしたノイズの混じった機械音。

背後から投げかけられたその言葉に、キサラギはピタリとその手を止めた。

「悲しいな。君たち幹部と私の間に隠し事は無いと思っていたのに」

恐る恐る振り返ったキサラギの瞳に、そのプラスチック製の顔が映り込む。

「ボ……ボス……どうしてここに……」

ボス。キサラギがそう呼んだのは人形だった。

子供が遊ぶような、体長20センチほどの男の子の人形。

いつのまにか、キサラギのデスクにちょこんと座っていたのだ。

そんななんてことないオモチャを前にして、キサラギは明らかに狼狽えた。

「ち、違うんです。これから魔法少女を倒しに行こうと思って、その準備を――」

「そうなんだね。でももうその必要はないよ」

人形からそう声がした瞬間、部屋の隅――天井の一角がガコンと割れた。

「え?」

と、キサラギが目を見開くと同時。

天井から出てきた銃口が、彼の額を撃ち抜いた。

悲鳴を上げる暇もなく倒れたキサラギを見下ろす人形の声は、まるで大掃除を終えたあとのような清々しさすら滲んでいた。

「よし、これで事業清算が完了した。思いがけないタイミングではあったけど、ちょうど良かったよ」

4人の幹部を失ったとは思えない軽い口調で人形はそう呟く。

そしてさらにこう続けた。

「次は彼女を使ってビジネスをするのもいいかもしれないな」

***

怪人・アイダを無事撃破。

一部始終を見ていたリスナーたちも律の活躍に大いに沸いていた。

『うおおおおおおおおおおおおおおお!!勝った!!?』

『あの幼女怪人だったのかよwwwwwww』

『そういや人の姿を変える怪人がいるって噂があったな』

『メスガキ魔法少女、子供に厳しいなと思ったけど怪人だったのかwww』

『すげぇな…全然分かんなかった』

『よく見抜いたなぁ』

『さすがメスガキ魔法少女』

『成人男性が幼女とかwww』

『てか無限プチプチ懐かしwwwwwww』

『無限プチプチなんてよく知ってたなwww』

『無限プチプチってなに?』

などと律を称賛するコメントがいくつも流れるが、しかし当の本人は全然違うことを考えていた。

(いまのはさすがに怪人だよね? これでさらに30万円ゲット……この調子で頑張るぞ!)

と意気込み、ますます元気に走り回る。

4階フロアには誰もおらず。

5階フロアには誰もおらず。

6階フロアにも……7階フロアにも……8階フロアにも……9階フロアにも……………………

そして最上階にたどり着き、律は絶望した。

「てか怪人どころか人すら全然いないんだけど♡」

たったひとりで怪人を3人も倒し、爆走を続ける魔法少女。

しかもその快進撃は配信されており、スマホひとつで誰でもどこでも見ることができる――

当然、怪人でもない下っ端がそれを止めることなどできるはずもなく。

彼らは敗北を悟って逃げ出したのだ。

『〈黒き森〉もぬけの殻で草』

『本当にクソき森壊滅した!?』

『みんなメスガキに恐れをなして逃げ出したんだなwwwwww』

『メスガキSUGEEEEEEEEEEE!!!』

『そりゃ逃げるよなwwww勝てねぇもんwwwwwww』

『メスガキ強すぎwwwwwww』

『クソき森なんて相手になんねぇな!!!!』

もぬけの殻となった〈黒き森〉本部の様子に、リスナーたちは大いに盛り上がる。

しかしそれとは対照的に、律は焦っていた。

(ヤバいヤバい。このままじゃ60万円しか稼げない。会社がなくなった上に、これから先、いつまでこの体なのかも分からないのに60万円じゃ不安すぎる……!)

実際には律は怪人を3人倒しており、それだけで90万円。

さらには律が〈黒き森〉本部に突入してからもかなりの額の投げ銭を得ているので当面の生活費は確保できているのだが、配信画面もコメントも見られていない律には知る由もない。

「油断しちゃダメだプイ。まだ〈黒き森〉のボスを倒せていないプイ。どこかにいるかもしれないプイ」

(そ、そうか。ボス……! いるならきっと、この最上階のフロアのどこかにいるはず!)

ソファの下からカーペットの裏まであらゆる場所を隅々と探してやろうと律は気合いを入れたが――その必要はなかった。

ボスはカーペットの裏に隠れてなどいなかった。

「こんにちは、リツ。私が〈黒き森〉のボスだよ」

最上階にある一際大きな部屋。

会議室だろうか。巨大な円卓を囲うように椅子が4つ。そして、机の上には冗談みたいなミニチュアの椅子がひとつ――そこにそれはいた。

プラスチック製の男の子のお人形。

それは挨拶もそこそこに、律にこう語りかけてきた。

「突然だけど君、怪人になって〈黒き森〉に入らない?」