軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第50話 灰狼の短い遠征

春を前にして、北境の東の砦から知らせが来た。雪解けで崩れた道を修復するため、エルヴィンが短い遠征に出ることになった。戦ではない。だが、山道を越え、寒い砦で数日を過ごす。以前の彼なら、戻るころには胃を壊していたに違いない。

リディアは厨房で遠征用の食袋を並べた。干し粥、薄く切って乾かした根菜、塩を別包みにした肉、香りの弱い薬草茶。どれも、兵たちが食養院で試したものだ。

エルヴィンは扉のそばで腕を組んでいた。

「荷が多い」

「必要な分です」

「昔は干し肉と酒で足りた」

「昔の公爵様の胃は、それで足りませんでした」

彼は言い返せず、少しだけ眉を下げた。リディアは食袋の一つを持ち上げた。

「これは公爵様専用ではありません。隊全体の手順です。寒い砦で熱い汁を急に飲むと、かえって気分が悪くなる人がいます。最初は麦湯を薄く。それから粥です」

「わかっている」

「本当に?」

「本当に」

彼女が疑うように見ると、エルヴィンは内ポケットから小さな手順札を出した。硬い紙に、リディアの字で『冷えた体を戻す順』と書いてある。

「持っていく」

その一言に、リディアは笑いそうになった。遠征隊が出発した後、厨房は少し広く感じた。

彼女は留守の間に食養院の講習を進め、王都へ送る『北境食養記』の校正をし、雪解け水で湿った薬草棚を点検した。忙しさは十分にある。

それでも夕方、いつもの席にエルヴィンがいないと、火の音が大きく聞こえた。四日後、砦から伝令が来た。

『道の修復は予定より早く進む。食袋は有効。公爵は三食を食べ、眠っている』

最後の一文を読んだとき、リディアは思わず笑った。眠っている。

それは短い報告だが、以前の彼を知る者には十分な吉報だった。遠征隊が戻ったのは、六日目の昼である。

エルヴィンは疲れていたが、顔色は整っています。馬から降りた彼は、出迎えの言葉より先に小さな布袋を差し出した。

「東の砦で使っていた乾燥茸だ。香りは強くない。汁にできると思う」

「お帰りなさい、より先に材料ですか」

「君が喜ぶと思った」

リディアは受け取り、袋の口を少し開けた。確かに、土の香りはあるが重くない。粥に少量入れれば、春先の薄い献立に深みが出るだろう。

「ありがとうございます。お帰りなさい」

「ああ。ただいま」

その夜、彼は兵たちと同じ粥を食べた。特別な銀皿ではなく、砦で使った木椀に近い深い椀だった。エルヴィンはゆっくり匙を運び、途中で水を飲み、食べ終えると手順札をリディアに返した。

「役に立った」

「何よりです」

「君がいなくても、隊が動いた」

リディアはその言葉にうなずいた。

「それが一番、よかったです」

彼を守りたいと思う。けれど、守るとは自分の手で皿を差し出し続けることだけではない。遠くの砦で、別の誰かが同じ火加減を思い出せるようにしておくことも、守ることなのだ。

エルヴィンは少し考え、言った。

「次は、俺も食養院で話そう。遠征で何が役に立ったか」

「公爵様が講師ですか」

「胃を壊した経験なら、豊富にある」

リディアは声を立てて笑った。彼が自分の弱さを、兵たちのための経験として語れるようになった。

それもまた、北境の春の知らせだった。