作品タイトル不明
21 遺跡の持ち主
21 遺跡の持ち主
薬師ギルドから戻ると、冒険者ギルドのロビーには村長と村の人が待っていた。
「あれ?みんなも来たの?」
そのケイトの問いに答えず、いきなり村長が話し始めた。
「キャサリン様!」
「ケイトさん!」
「頼みがあります!」
村人も負けじと続く。
勢いに押されて、ケイトは一歩後ろに下がった。
「え、なにごとですか?」
すると村長が、深々と頭を下げた。
「遺跡を、貰ってくれ」
ケイトは固まった。
「はい?」
「だから、あの遺跡を、あんたのものにしてくれ」
「いやいやいや!」
ケイトは慌てて両手を振った。
「待ってください! 意味がわかりません!」
村長だけではなく、村人まで一緒になってケイトに迫っている。
周りを囲む冒険者も、素知らぬ振りながら、全力でこちらに圧を放っている。
「キャサリン様しかいねぇんだ」
「わしらじゃ守れん」
「貴族に取り上げられる」
「悪い商人に騙される」
「下手すりゃ村ごと潰される」
次々に飛び出す言葉に、ケイトは頭を抱えた。
「だからって、わたしに遺跡を押しつけるんですか!?」
「押しつけじゃねぇ! 託すんだ!」
「似たようなものでは!?」
ケイトが本気で困惑していると、横からギルドマスターが口を挟んだ。
「全部呑み込んだ上で、ケイトに頼んでる」
「マスターまで!?」
ギルドマスターは腕を組んだまま続ける。
「だから引き受けてやれ。守る手はある」
「守る手?」「そのままの意味だ。手段も人手もある」
「冒険者が控えている。調査はギルドの伝手で専門家を呼べる」
ギルドマスターはにやりと笑った。
冒険者の圧と笑顔が強くなる。
「話を聞いたやつが、喜んで来るのはわかるな」
「あぁ……それは来ますね」
遺跡調査の専門家など、こういう話に飛びつく。
ケイトにもそれはわかっている。
だが問題はそこではない。
「それに」とギルドマスターが続ける。
「こう言っちゃなんだが、お前、運よく王宮を掌握してるだろ」
ケイトは真顔になった。
「は?」
「掌握してるだろ」
もう一度言われた。
「だから、権力を使って守ってやれ」
ケイトは、すっと目を細めた。
「マスター」
「なんだ」
「わたしをなんだと思ってるんですか?」
「優秀な冒険者」とマスターがにやにやと答えると
「正直者」
「権力者」
と周囲の冒険者たちが吹き出した。
ジェイなど腹を抱えて笑っている。
「いや、だってそうだろ」
ギルドマスターは悪びれもしない。
「王宮の仕組みを知ってる。文官も知ってる。視察の流れも知ってる。どこを押さえれば面倒を防げるかも知ってる」
「知ってますけど!」
「だったら適任だ」
「適任って……」
ケイトは額を押さえた。
村長が、また頭を下げた。
「頼む」
その横で、村人たちまで頭を下げる。
「村を守ってくれ」
「キャサリン様にしか頼めねぇ」
「俺たちじゃ、あれを守れない」
静かな声だった。
だけど、重かった。
マイクが横目でギルドマスターを見る。
その目は完全に「お前、無茶を押しつけてるだろ」と言っている。
だがギルドマスターは平然としていた。
「ケイト」
「はい」
「お前があれを所有するとして、一番の問題点はなんだ?」
急に話を振られて、ケイトは少し考えた。
「面倒ですね。だから、わたしが売り払いますね」
「それはないな」
即答だった。
「お金持って逃げます」
「逃げないな。
だいたい金をなにに使うんだ?」
「……」
周囲から笑い声が漏れる。
ケイトは咳払いして続けた。
「では真面目に言います。王家がいちゃもんつけます」
「黙らせろ」
「簡単に言いますね!?」
「出来るだろ」
「いや、出来なくはないですけど!」
また笑いが起きた。
ケイトは深いため息を吐いた。
「次は管理ですね。遺跡の維持、人の出入り、調査記録、発掘品の保管」
「伝手はたくさんあるだろう」
ギルドマスターがさらっと言う。
「ほんとに……」
ケイトはじとっと睨んだ。
ギルドマスターは楽しそうに笑う。
「いやぁ、婚約破棄しておいて良かったな。勘当されておいて良かったな」
集会所が静まり返った。
ケイトは無言だった。
マイクが低い声で言う。
「笑って言うことじゃないだろ」
「結果的にだ」
「最低ですよ」
「褒め言葉か?」
「違います」
だが村人たちは、感動したような顔でギルドマスターを見ていた。
「さすがギルドマスター……」
「そこまで考えて……」
「キャサリン様を守ってくれるんだな」
「違うぞ」
ジェイがぼそっと言った。
「たぶん面白がってる」
「おい」
ギルドマスターが睨む。
ジェイは笑いながら肩をすくめた。
ケイトはしばらく黙っていた。
それから、大きく息を吐く。
「わかりました」
村人たちが息を呑む。
「手続き書類は、自分で作って、自分で通します」
その瞬間。
「やったー!」
最初に叫んだのはジェイだった。
「よっしゃ!」
「決まりだ!」
「キャサリン様ばんざい!」
集会所が一気に騒がしくなる。
ケイトはそんな様子を見ながら、小さく呟いた。
「なんで冒険者になったのに、結局書類仕事してるんでしょうね……」
マイクが吹き出した。
「諦めろ。才能があるんだ」
「嫌な才能です」
だが、ケイトの口元は少しだけ笑っていた。