作品タイトル不明
153話 事業内容
結局解散したのは日付を超えないギリギリの時間になってしまった。
俺が知りたかったのは手続き面とか資金調達についてとか、人をどうやって集めるかくらいだったんだけどな。
奈那さんに興味を持たれて詳しく話しているうちに細かいところまで決め出したら時間があっという間に過ぎていった。
話の流れで初めて知ったんだけど、会社名がわかるとそこの代表の名前や住所がわかっちゃうんだってね。住所は一部を伏せることも出来なくはないらしいけど、結局市町村までは出る。
それはなんか嫌だなぁと思っていたら、代表取締役は奈那さんがやってくれることになった。
ただそうすると今後揉める可能性があるから、予め細かく決めておこうと言われ、資本金や株、権利について、役員報酬、業務分担、解任時についてなどなど、想定以上に事が決まった。
これ以上はまずは人手を集めてからとなり、解散となった訳だ。
俺はそれまでに会社名でも考えておけと言われている。
逆に言うとそれ以外のこと、資金集めも人材集めもオフィス探しも登記申請も奈那さんが全部やる。俺は手段として起業が手っ取り早いかなと思っていただけで、自分の会社を作りたかった訳じゃないから、奈那さん代わりにやってくれるならそれでいいんだけど……寧音あたりに相談しなくて大丈夫なのかな。人の代わりに会社作るって結構なことだと思うんだけど。
まぁ俺が心配することじゃないか。
一応家に帰った後、地球産のAIに相談しながら奈那さんから言われたことを振り返った。
別に奈那さんを信じていなかった訳じゃないが、念の為だ。確認したところ、奈那さんが言ってきた内容は本当に俺に有利な契約らしい。特に黄金株って仕組みが強いんだってさ。あとは株式譲渡制限とか、新株優先引受権とかも。株には詳しくなかったから、勉強になった。
奈那さんに全任せっていうのもちょっとどうかと思うので、これからも引き続き勉強していこうと思う。
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あっという間に2週間が過ぎた。
俺のダンジョンの前に黒い車が止まってたことは少し話題になったが、魔核を使った発電所が稼働を開始したニュースで完全に流れた。
発電所稼働のおかげで魔核の需要は高まり、買取価格は上昇。探索者の間では活気が高まっている。
この流れでもっと探索者が増えてくれると嬉しい。
さて、今日は特殊素材研究所に来ている。
「私1人でも良かったんだがな」
「そりゃ奈那さんなら失敗はしないでしょうけど、これはあくまでも俺がやりたいことなので」
「そうか。では交渉は任せるとしよう」
「新入社員を相手にするくらい温かい目で見守ってくれると嬉しいです」
「教育は私の仕事じゃなかったからな。できるかどうか……」
「なんでそんな自信なさそうなんですか」
奈那さんはなんでもわかっちゃうから、わからない側の人間に教えるのは苦手なのかな。
意外な弱点だ。
特研内にはすんなりと入れた。
今の俺はマスクとサングラス姿なので、受付の人には最初不審な目で見られたが、事前にアポを取っていたおかげか、俺が町田ダンジョンのマスターだと知るとやけに納得した様子で対応された。
受付を済ませた後は、社長室に案内された。
「初めまして。代表取締役の 矢黒(やぐろ) です」
そう言いながら名刺を渡された。
「弥竹奈那だ。申し訳ないがまだ会社を設立したばかりでな。名刺の用意がない」
「お気になさらず。それで……」
「町田のダンジョンマスターです。町田とお呼びください」
「やはり!本当に来てくださるとは思いませんでした。本日はよろしくお願いします」
動画でよく見ていた通りの軽快な人柄のようだ。
個人的にはあんまり良い印象を持っていないが、そうは言っていられないので態度に出さないように気をつけよう。
とりあえずソファに座るよう促されたので、向き合う形で座る。
「さっそく始めてもいいでしょうか」
「もちろんです。ダンジョン研究家として名高い弥竹さんとダンジョンマスターである町田さんが作った会社からの依頼ですからね。内容を楽しみにしていました」
「ではまず初めに、こちらの書類をご確認ください。秘密保持契約書になります。これからの話を受ける受けないに関わらず、今回の相談内容すべて外部には絶対に漏らさないでほしいんです」
むしろ広まった方が宣伝になっていいんじゃねって思ってたんだけど、奈那さんから製品が発売されるまでに情報が漏れたら他企業に先を越されて権利を奪われる可能性があるから秘密保持契約は絶対に必要だと言われた。
真似されて先を越されるような物じゃないと思うが、俺は会社の運営について素人である。絶対に経験者の助言に従う方がいいので、今回用意した。
もしここで嫌がられたら残念ながら帰る予定だったけど、矢黒は当然でしょうねと言いながらあっさりと契約書にサインした。
そういうもんなんだ。
「ありがとうございます。それでは本題に入りますね」
俺はマジックバッグから3つのアイテムを取り出し、目の前のローテーブルに置く。
「こちらは?」
「全てダンジョン産アイテムです。魔力識別タグ、 追尾式(ついびしき) 魔波伝送(まはでんそう) 映像記録機(えいぞうきろくき) 、そして 魔波受信変換装置(まはじゅしんへんかんそうち) になります。簡単に説明すると、個人の魔力を勝手に読み込んで模様が変化するタグ、特殊な電波を発しているカメラ、その特殊な電波を受信して地球で使えるデータにしてくれる装置です」
「まさか……お二人は……」
「想像している通りだと思います。俺達はダンジョン内でリアルタイム配信ができる仕組みを作ろうと思っています」
ダンジョンマスターになってから、ダンジョンについて調べるうちにダンジョン配信というジャンルの創作物がたくさんあるのを知った。
ようはダンジョンが当たり前にある世界で、ダンジョンの探索の様子を配信して、何かしらの出来事でバズって主人公が人気者になる、というような内容だ。
というか、ダンジョン物と配信は大体セットになっていた。
もちろん創作ではダンジョン配信が人気でも現実ではどうなるかわからない。
それでも俺のダンジョンで初めてカメラを出した時の世間の熱狂ぶりは凄かった。その時から、もし配信が出来たらもっと探索者は増えるだろうなぁと思っていた。
技術的に不可能そうだから、実現しようとはしてなかったんだけど、向こうの世界に行った時、色々相談したら、その場で解決策を考えてくれて、俺のアイテムショップに認識タグとカメラと受信機が追加された。
環境さえ整えれば、配信できる可能性が出来た訳である。
仕組みとしては、まず、このカメラは自動的に魔波を発信する機能を持っている。
魔波は魔力が存在する空間を媒体として伝わり、ダンジョン内であれば距離に関係なく届く。
ダンジョンの入口付近には、魔波を受信して人類のネットワークで扱えるデータに変換する装置を設置する。
この装置が映像データをサーバーへ送信し、サーバーを経由して配信サイト上に公開されることで、視聴者は配信を閲覧できるようになる。
どのカメラが誰の配信なのかを判断するために使うのが識別タグだ。カメラと配信サイトに認識タグを登録させ、受信したデータに含まれるタグデータを元に、自動的に該当アカウントへ紐付けられる。
これで、カメラをオンにすれば自動的に配信が始まるようになる。
また、カメラにはデータを投影する機能がついていて、配信サイトのデータを受信機に流して魔波に変換して貰えば、コメントを映せる。
そのコメントを投影させるのに魔力でカメラを操作しなきゃいけないから、現状だと俺とこの2週間で魔力操作を覚えた奈那さん以外には使えない機能にはなるが、一応サイトさえ作れればすぐにでも配信が可能だ。
ただ、追尾式魔波伝送映像記録機は1つあたり100万ポイントもかかる。魔力認識タグは1万ポイントで魔波受信変換装置は500万ポイントだ。
受信機はダンジョンの数だけあればいいのでこっちでなんとかなる。
認識タグは1万だからそのまま販売してもいいポイントだ。
カメラ1つに100万ポイントはちょっと簡単に販売できない。単純にポイントが足りなくて数が用意できないからだ。
だから、このカメラを再現して、投影機能を魔力操作じゃなくて物理ボタンでできるようにしてもらって、最後には量産化してもらうために今日は特研に来た。
「目的も仕組みも我が社に任せたいこともわかりました。配信は一部の者にはウケるでしょう。しかし冷静になって考えてみれば、あくまでも一過性のものになるのでは、と思ってしまいますね。ダンジョン産カメラは今はもう見向きもされてないでしょう?ダンジョン内の映像動画も今はそこまで伸びていません」
「配信の目的はエンタメだけじゃないんですよ。ダンジョン内の出来事は全て自己責任。探索者が他の探索者を襲ってはいけないというルールがあるとはいえ、先月逮捕された探索者達みたいに、やる人はやります。もしそうなった時、ダンジョン内の出来事だからと捜索も捜査もしてくれません。現行犯で捕まえた時以外は証拠がないですからね。しかし配信さえしていれば、全て映像として残る訳です。
個人的にはダンジョン配信はエンタメとして流行ると思っていますが、もしそうならなくてもドライブレコーダーのような役割として、今後探索者には必須アイテムになると思っています」
ダンジョン内の犯罪を防ぐために、今後必須になるレベルで配信は必要になってくると思う。
「配信の最中、モンスターに襲われて死亡してしまう放送事故が起こった場合は?」
「そこは一定以上の出血を確認できたら配信にモザイクをかけたり、強制的にオフにしたりなど、配信サイト側でフィルターをかけられるようにします」
サイトに登録させる時に緊急連絡先も一緒に登録させて、フィルターがかかるような出来事が起こったらその連絡先の人に連絡がいくようにしてもいいかもしれない。できるかわかんないけど。
その後も何個か質問され、最終的には今開発中のなによりも優先的に取り掛かってくれることになった。
奈那さんが作ってくれた権利関係とか利益について書かれた業務委託書を交わし、サンプルとしてカメラを3つ渡す。
製品は短くて半年、長くても1年以内には作り上げると言われた。おそらく俺の希望通りシーニィは特研に接触している筈なので、もし行き詰まってもシーニィからアドバイスがもらえる。
こちらはこちらで配信サイトの方を作らないといけないが、アドバイスを受けられるような相手はいない。完成までに1年くらいは時間は欲しい。
って、奈那さんが探してきて雇ったエンジニアが言っていた。
俺にできることはあんまりないので、あとは進捗を見守るだけだな。