作品タイトル不明
137話 事情聴取
旅館に戻り、小田切さんを待つ間、旅館の1階にある食堂で遅めの昼食を食べる事にした。一応ダンジョン内で携帯食は食べていたが、あれじゃ腹は膨れても食べた気にならないからな。
俺は宿泊者ではないが、料金を支払えば問題なく旅館の食堂を使っていいらしい。昼間は宿泊者の利用が少ないから普段から11時〜15時の間は解放してるのだとか。
富良野産のバターをたっぷり使ったバターチキンカレーがイチオシメニューだったけど、カレーは昨日食べたので十勝牛のローストビーフ丼にした。お肉が柔らかくて美味しかった。
なお、ここは事前注文の前払い制だったので自分で払っている。蓮見は普通に奈那さんに支払ってもらっていた。まぁアイツ収入ないしな。年齢的にまだ高校生だし。
30分ほどで食べ終わり、いつもの部屋に移動する。
小田切さんは1時間くらいかかると言っていたが、部屋に移動してから割とすぐに来た。
「ご連絡ありがとうございます。では、早速本題に入ります。富良野のダンジョンマスターと思われる人物と接触されたとのことですが、その際の状況について、詳しくお聞かせいただけますか」
「こちらがダンジョンで出現させ待機させていたモンスターが殺されていてな。代わりに道順が書かれた指示書が残されていた。指示通り進んだ先にはスキルの危機察知が反応した魔法陣があり、どう対処しようかと話し合っていた時に向こうから襲撃された。朝陽くん、紙を出してくれ」
「あー、あれ。ちょっと待って……はいこれ」
蓮見が空間魔法で仕舞っていたくしゃくしゃの紙を渡す。
「これは……すべて手書きで書かれていますね。指示どおりに行動した結果、ダンジョンマスターから接触があったのであれば、この筆跡は本人のものと見てよさそうですね。こちらはすべて証拠としてお預かりします」
「かまわない。返却も不要だ」
「ありがとうございます。それで、襲撃された際、相手と何か会話はありましたか」
「私達がダンジョン内で好き勝手してる事に怒っているようだった。会話を試みたが、碌に聞いてはくれなかったな。お望みとあればその時の会話を一言一句言えるがどうする?」
「ぜひお願いします」
俺と蓮見はただ奈那さんと小田切さんのやりとりを聞いているだけだった。
普通なら3人で見たことや聞いたことを話すんだろうが、なにしろ奈那さんが恐ろしいくらいに全部覚えているから口を出す隙がない。
やること無さすぎて俺も部屋に戻りたくなって来たな。
「状況は把握しました。ここまで詳しくお話しいただき、ありがとうございます。犯人の顔については覚えていることはありますか。可能であれば、似顔絵を作成したいと考えています」
「特に目立った特徴があったわけではないが……少し描いてみよう」
そう言って奈那さんは紙と鉛筆で似顔絵を描き出した。
ササッと描いたにしてはずいぶんと精巧な絵である。しかも普通に似ている。
この人絵も描けるのかよ。逆に一体何なら出来ないんだ?
「なるほど……確かに、際立った特徴がある顔とは言いづらいですね。お二人から見て、実際に遭遇した人物と比べて、この似顔絵はいかがでしょうか」
「あんま覚えてないけどそんなんだった気がする」
「俺も詳細に覚えている訳ではないですが、こんな感じの顔だったなと思います」
良かった俺の出番あったわ。
あんま役に立ってるとは言えないけど。
「わかりました。お二人から見ても相違ないと感じるのであれば、再現性は高いと見て良さそうですね。参考にさせていただきます。それで……奈那さんが見たモノを教えていただきたいのですが」
「個体名は野々山奏多。種族はダンジョンマスターで、称号は中級ダンジョン。レベルは56。魔力値は…」
待って、レベル56?
何人か誘拐してダンジョンに1年以上ずっと居させてた蓮見と同等かそれ以上のレベル帯だ。
前から思っていたけど、これで確信出来た。
転移罠で帰ってこなかった探索者達や誘拐した人達は相当長い期間ダンジョンに滞在させた後、 殺してる(経験値にしている) な。
次のレベルになるまでの必要な経験値はどんどん増えていくのだが、それには規則性があって、37レベルから次のレベルに必要な経験値が100万、38レベルから次が200万、その次が300万で、46レベルまで来たら桁が繰り上がってレベルアップに必要な経験値は1000万になる。
めっちゃ簡単に言うと50レベルに到達するのには普通なら時間がとてもかかる。
俺はこの前ようやく50レベルに到達した。ドラゴンも余裕で配置出来るくらいになった。ちまちまポイント使って伸ばしていた36階層の一本道の距離はもう誰も到達できないんじゃないかなってくらいの距離になっている。
まぁ、それは置いておいて、誘拐した人をダンジョンに長期間監禁していたのなら、それ用の部屋と、その部屋へと行くルートがどこかにあると思うんだよな。
部屋が見つからないのは当然として、ルートは普通に考えたら魔法陣とか転移罠になる。不審な罠があったら奈那さんが気づくと思うんだけど……使う時だけ配置してそれ以外はわざわざ消しているのか?
「私が確認出来たステータスは以上だ。ただし、これは正確なステータスとは言えない」
「見た情報が偽りの可能性があると?」
「ステータスを改竄できるスキルがあるんだ。何かしら改竄されていた場合はステータスを最後まで見ると“このステータスには改竄された箇所があります”と表記されるんだ。その表記を今回は見ていないが、スキルがまだあって表示されなかっただけの可能性がある」
「なるほど……分かりました。ステータスの情報は、あくまで参考程度に考えておきましょう。他に何か気になった点はありませんか?」
「いや、私からは無い。話した情報が全てだ」
「俺も特にありません」
「オレもない」
「分かりました。ではもし後で何か思い出したことがあれば、ご連絡をお願いします」
ということで、これで小田切さんからの事情聴取は終わった。
結局9割以上奈那さんが答えていたな。
そして思ってた以上に早く終わってしまった。
今の時刻は16時前。ホテルに戻るには早いし、かと言ってダンジョンの20階以降の深い階層行くには遅い時間帯である。
中途半端に時間が余ってしまった。
うーん……さっき少し気になったルートを探すか?
誘拐した人を運ぶのは見られたく無い筈だし、階段を降りるのも大変だ。だからもし、人を置いておく部屋に通ずる魔法陣・転移罠を設置するんだったら1階層しか考えられない。
「奈那さん、ダンジョンの1階層を詳しく調べてみません?」
「1階層か……なるほど。ダンジョンマスターが使っていそうな道を調べるんだな?」
「はい。今からだとどうせ深い階層まで探索できないし、ちょうど良いかと」
「わかった。行こうか」
「えぇ、また行くの?」
「あぁ。なにせまだ何も解決していないからな」
蓮見は終わりの見えないダンジョン探索が本当に嫌そうだ。
俺もさっさと終わらしたいと思ってるよ。
ただ、ステータスをスキルで誤魔化していないのなら、フルネームがわかった訳だし、警察が特定するのも時間の問題である。
警察と富良野ダンジョンのマスターが接触した時、いったいどうなるのか。
ダンジョンのマスタールームに逃げられる確率が高そうだけど、そうなったらいよいよ俺たちにはどうすることも出来なくなる。それで小嵜の弟には諦めてくれって堂々と言えるようになるから、あと少しの辛抱だ。
今日中……は無理でも明日には小嵜の捜索を終わらせたい。