作品タイトル不明
135話 撤退
先ほどまでと違って、コカトリスがやられた様子はない。
石化させることができたのだろうか。
……待って、たぶんマギアゴーレムからの攻撃で1匹死んだな。スキルを唱える声がしないのに、コカトリスのグギャって声したし。
「ふむ。ダンジョンマスターの姿が見えないな」
「えっ」
隆起した地面から顔を出して向こう側を見る。
確かにさっきまで声が聞こえていた筈のあいつの姿が見えない。
うわ、ゴーレムが土の塊飛ばしてきた。
頭を下げて避ける。
「逃げたんでしょうか」
「どうだろうな。実際に消える所は見てない。特にそれと言った声も聞こえなかった」
「ねー、もうそっち見ていいわけ?」
そういえば見ないようにって言ったのに奈那さん普通にこっち側見てんな。コカトリスは後ろから見る分には問題ないし、万が一石化しても薬出して解けば良いんだけど。
「コカトリス、そのまま前進して」
元が石だからか、それとも魔法耐性があるからか、マギアゴーレムにはコカトリスの石化が効いていないようだった。残る2匹もこれでゴーレムにやられる筈だ。
「もうちょい待って。……あー、おっけー。見ていいよ」
数秒待つとコカトリスはすぐに死んだ。ゴーレムと相性が悪すぎたな。
「で、結局どうなった訳?これ以上隠れるの無理あるだろ」
隆起した地面はもはや1mほどしかない。
マギアゴーレムは魔法攻撃を続けてしてきている。
「“氷壁”。攻撃は問題なく防げるな。しばらくは凌そうだ」
「すみません、石化させたら捕まえられると思ったんですけど……まさか消えるとは」
「いや、私もまさかここまで来て消える事は予想してなかった。緊急回避的な手段を持っていたのだろうか。“氷壁”。だとすると相当面倒だな。それにこちらと会話をする気は無さそうだった。今のままだと要求を伝えることすらできなさそうだ」
「これ、もう一回向こうから接触されるの待つの?」
「どうだろうな。こうして姿を1度消した以上、また接触があるのかは微妙だ」
「モンスターを配置するだけなら別にどこからでもできますからね。俺らを遠距離から排除しようとされたらこちらはもうどうする事もできません」
「今までの探索が無意味になったって事じゃん。もう小嵜見つけるの諦めた方がいいんじゃないの」
別に小嵜はそんなに必死になって探していないというか……どちらかと言うと富良野のダンジョンマスターを探すのに注力してたというか……
俺は別にさっさと諦めてもいいけど他のメンツがな。
「とりあえずあのゴーレム達をなんとかしてから決めましょう。攻撃は防げても近くまで来られたら終わりですし」
「そうだな、先ほど真くんが使った隆起をもう一度使う事はできるだろうか?ゴーレムがいる地面を隆起させれば押し潰せると思うんだが」
……ナチュラルに真って呼ばれるとすぐに反応できないな。
「魔力は回復させたのでできます。ただ、範囲を指定できるほどコントロールはできなくて。さっきと同じ位置になっちゃうんですけど」
「それで問題ない。ゴーレムの位置をコントロールしよう。朝陽くん、手伝ってくれ」
「何すればいい?」
「当初の予定通り草魔法スキルで足止めだ。地面がもう少し下がったらゴーレム達はこちらに向かってくるだろう。1番手前のゴーレムが5mほど進んだら、合図するから先頭2体にスキルを使ってくれ」
「りょーかい」
奈那さんが引き続きゴーレムからの攻撃を防ぐ。
ゴーレムの攻撃の威力は俺の体感だと中級魔法スキルくらいだろうか。さっきまでの雷魔法の時より余裕そうである。
地面の隆起が30cm程になった頃に、ゴーレムはこちらに進んできた。
「“ 氷牙穿弾(ひょうがせんだん) ”。なるほど。少し後ろに下がった程度であまりダメージを与えられてる様子はないな。少し傷はついているか」
奈那さんはゴーレムの核を狙っていたが、腕で防がれていた。自分の弱点を守るだけの知能はあるらしい。ノーマルゴーレムだとあまりしない行動である。
その後も奈那さんは様々な魔法スキルを撃ったが、やはり核は守られ、有効なダメージは与えられていない。
ポイントでは圧倒的に蓮見の出したドラゴンの方が高いのに、それより攻撃が通っていないのはなんでなんだろうな。
ポイントが高ければ高いほど強いって訳じゃ無いんだろうか。
ゴーレムはのしのしと鈍い足音を立てながら進み続け、だいぶ俺達と距離が近づいてきた。
「朝陽くん、今だ」
「“ 茨叢の檻(いばらむらのおり) ”」
地面から茨が次々と生えてきてゴーレムの足に絡みつく。それでもゴーレムが動こうとするが、茨が全て千切れるよりも速く次の茨が絡みついていくので、何も出来ないでいる。
なかなか怖い魔法スキルである。
おかげで前2体と後ろ2体の間隔が狭まり、4体とも範囲内に入った。
「“隆起”」
先ほどと同じく地面が上がり続け、ゴーレムの厚みを無視して天井まで行き、止まった。
地面か天井がゴーレムの形に凹んでない限りこれで倒せている筈だ。
「倒せた?」
「まだわからない。人類と違ってモンスター倒しても経験値入ってこないからな」
「しばらくは警戒しよう。ただ、ゴーレムを倒せていたら、今後どうするのかを今のうちに決めておきたい。探索を続けるか、ここの魔法陣を調べるか、撤退するか、どれがいい?」
「このままこの魔法陣を調べる意味なくない?探索を続けても無意味だと思うし、ダンジョンからもう出ようよ」
「探索を続けるとしたら導きの棒が反応していた22階層ですかね。その前に寧音達や小田切さんに情報共有しておきたいので、俺もダンジョンからは1回出たいです」
「わかった。ではこの後は一度ダンジョンを出ようか。ま、ゴーレムを倒せていたらの話だがな」
「そうですね。とりあえず結果がわかるまで数分待ちましょう」
ということで、富良野ダンジョンマスターについての考察……外見が若かったから、大学生くらいなんじゃないかと予想したり、話し合う気が無さそうなのに何故わざわざ姿を現したか考えたりしつつ、隆起した地面が下がり始めるのを待った。
そして数分後、地面が下がり始め、視界に入る高さになってもゴーレムがいないことを確認した。
あ、魔核がある。本当に無事に倒せたようだ。
「妙だな」
「何がですか?」
「さっきまで地面と天井の隙間は1cmも無かった。それゆえにゴーレムは倒せたのだろう。しかし何故、魔核は傷ひとつない、綺麗な球体の状態にあるんだ?球体を保てる空間は無かった筈で、だとすると粉々に砕け散ってないと変だろう?」
「それもそうですね」
「マジでどうでもいいんだけど」
蓮見がものすごくうんざりとした顔をしている。俺としては興味のある話題だけど、本当にどうでもいいんだろうな。
「前に特研の東畳さんが捕まえたゴブリンにX線検査とCT検査をしても魔核のようなものは写らなかったって言ってましたよ。俺もそれを聞いて少し実験してみましたが、モンスターの体内に魔核は見つけられませんでした。つまり、魔核はモンスターの体内には無く、モンスターが倒された後にどこからか現れるって考えた方がいいんじゃないですかね」
「なるほど。今回は空間が空いてから魔核が現れたのではないか、という事か。その理論だとスライムやレイス系の半透明の身体を持つモンスターに見えていた魔核は本当は魔核ではないという事か?」
「どうでしょうね。さっきのはあくまでも予想ですし。外でモンスターを倒しても魔核は残ります。どこからか現れるって理論だとダンジョンの中や外関係なく現れることにもなるので」
「いや、今の話を聞いて納得したよ。スケルトンにはどう考えても魔核のあるスペースなどないだろう?ずっと見えないようになっているだけと思っていたが、倒された後に魔核が現れる仕組みならスッキリする」
「ねぇ、それ帰りながらでもできるよね?」
「まぁ」
「できるな。すまない、戻りながら話そうか。魔核とは一体なんなのか」
こんな帰る道中で話し合ったところで魔核が何かなんてわかる筈もなく、結論が出ないままダンジョンの外に出た。
スマホを確認すると時刻は14時前。瑛士からは牡蠣とか、ザンギとか、ソフトクリームの写真が送られてきていた。
あいつちゃんと聞き込みしてんのかな。見つかる訳無いと思ってるけど意味のあることではあるからしっかりやって欲しい。
「小田切さんが似顔絵を作成したいから直接会いたいそうだ。今から待ち合わせても問題ないだろうか」
「いいですよ」
「俺旅館に戻っていい?」
「では旅館に来てもらおう。1時間以内には来れるだろう」
蓮見のはたぶん旅館でゆっくり休みたいという意味だったのだろうが、スルーされていた。
まぁ、目を離す訳にはいかないから仕方がない。
俺もスルーしとこ。