軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第20話 田中、接待を受ける

スカイツリー跡地での騒ぎから一週間の時が経った。

あの件は結構な騒ぎになって、連日テレビやネットニュースで取り上げられた。

迷宮解放教団のテロ行為と、突然現れた特異型ダンジョン。

ニュースでは特異型ダンジョンが出現することをかぎつけた迷宮解放教団が、ダンジョンを独占しようとテロ行為に及んだと報じられているが、事実はそうじゃない。

あのダンジョンは奴らが生み出したんだ。

しかしそのことが知られたら大変な騒ぎになる。政府はその事実をひとまず隠しており、今もまだバレていない。

海外でもこの事件は話題になっているみたいだ。

ダンジョンに出現したモンスター『ショゴス』は海外では有名みたいで、あれが出たことと倒されたことは大々的に報じられたみたいだ。

そしてこの二つの事件が話題になればなるほど……その中心にいた俺にも注目が集まる。

ショゴスを倒したことで外国人のファンが爆増して、俺のチャンネル登録者数はうなぎのぼりになった。

つい昨日その数は一千万人を超え、今も増え続けている。

ちなみに外国人には『SYACHIKEN』やら『ショゴススレイヤー』やら呼ばれている。足立の話によると海外でファンクラブが出来たり、俺がネットミームにもなっているという。

話が大きくなりすぎて正直ついていけない。

と、まあ最近はそんな感じだ。

ダンジョンにはあれ以来潜っていないので、部屋でゴロゴロすることが多い。

引きこもり気味な俺だが今日はある人に呼び出されて、浅草にあるとある料理店に来ていた。

古めかしい木造のそのお店は、かなり由緒正しいすき焼きのお店らしい。こんなお店に来たのは初めてかもしれないな。

「おう、来たか田中」

おばあちゃんな店員さんに案内されて座敷の個室に入ると、俺を呼び出した人物が出迎える。

高そうなスーツに張り裂けそうな胸筋。声も腕も首も太いその人物は、俺もよく知る人だ。

「お疲れ様です、堂島さん。今日は呼んでいただきありがとうございます」

「がっはっは! 堅苦しい挨拶はいいからはよ座れ! 梅ちゃん、とりあえず生を頼めるか? いつものやつでな」

堂島さんは「梅ちゃん」と呼んだ店員さんにお酒を頼む。

雰囲気から察するに常連みたいだな。

俺は座布団の上に座り、堂島さんと向かい合う。

今日は堂島さんに食事に誘われてここまで来たのだ。聞きたいこともあるし、飯を奢ってもらえるなら来ない理由はない。どうせ暇してるしな。

などと考えていると、もうビールが運ばれてくる。光に照らされ黄金色に輝いているその液体は見ているだけで喉が鳴ってしまう。

「それじゃあ田中の新しい門出を祝って乾杯するとしよう。乾杯ッ!」

俺はジョッキを割らないように細心の注意を払いながら、堂島さんとジョッキをぶつける。

そして一気にジョッキの中身を口の中に流し込み、乾いた喉を潤す。

ああ、美味しい……この瞬間の為に生きて……ん?

「ごく、ごく……ぷは。堂島さん、このビール、なんか普通のと違くないですか? 凄く美味しいし、なにより アルコールを感じます(・・・・・・・・・・) 」

俺たち覚醒者はアルコールへの耐性が高く、普通の酒で酔うのは難しい。

だけどこのビールからはアルコールを感じた。普通の酒ではありえないことだ。

「気づいたか。ここの特製ビールはダンジョンで取れる『 神水酒(ソーマ) 』が混ぜられている。そのおかげでワシらでも酔えるというわけじゃ。その分値段もするが、今日はお主の新しい門出を祝う日。酒も飯も気にせず頼め。ワシのポケットマネーだから遠慮せんでええぞ!」

「……ありがとうございます、堂島さん。ではこの最高級すきやきセットを八十人前お願いします」

店員さんにそう頼むと、堂島さんの動きが固まる。

ん? 頼みすぎたか? このメニュー、値段が書いてないからどれくらい頼んでいいか分からないんだよな。

「頼みすぎましたか?」

「い、いや、そんな事無いぞ! ワシも同じだけ貰うとしよう! じゃから遠慮せんでええぞ、どんどん食えい!」

若干空元気気味な気もするけど、ここは気づかないふりをして乗っかるとしよう。

堂島さんの面子を潰すわけにもいかないからな。

無事注文を終え、店員さんが個室から出ていくと、堂島さんは真面目な表情になって俺のことを見る。今日どんなことを話すのかは聞いていない。少しだけ緊張する。

「まずは田中、感謝するぞ。お主の働きがなければ、都市は壊滅的な被害を被っていたじゃろう。カルト組織に人造ダンジョン……そしてEXランクのモンスター『ショゴス』。これら全てに対応できる人物など、世界中を探してもそうはおらん。この国を代表して礼を言わせてもらう」

そう言って堂島さんは俺に深く頭を下げる。

それを見た俺は慌ててそれを止める。

「やめて下さいよ堂島さん。俺は当然のことをしたまでです。それにあれは堂島さんがすぐに許可を出してくれたからです。俺の方こそ助かりました」

「責任を取ることは上に立つものの責務、当然のことじゃ。まあそれができない者も最近は多いがのう」

ニュースで知ったけど、ダンジョンを破壊する許可を勝手に出したことで、堂島さんは国会で色々言われたようだ。

中に出たのがEXランクのモンスターだったからまだ追及は弱かったけど、これがもっと格の低いモンスターだったらまだネチネチ言われていただろう。

声だけは大きい議員の相手をするのは大変だっただろう。だけど堂島さんはそのことを俺にわざわざ言ったりはしてこない。相変わらず男気のある人だ。

「お待たせしました。すき焼きをお持ちしました」

話をしていたら店員さんがお肉を持ってきて、テーブルの中央に置かれた鉄鍋ですき焼きを作ってくれる。

サシが入ったお肉はキラキラと輝いている。見ただけで高級なお肉だということが分かる。一皿で社畜時代の月給くらいいくんじゃないか? あの時だったら逆立ちしても食べられないだろうな。

「いただきます」

手を合わせ、火の入った肉を溶いた卵にくぐらせて口に運ぶ。

一口噛むごとに口の中に甘い脂と強烈な旨味が広がり、幸せな気持ちになる。しばらくそれを堪能した俺は、一気にビールで流し込む……はあ、至高だ。

美味しすぎて脳がぽーっとする。

「どうやら気に入ってくれたようじゃの。連れてきた甲斐があるわい」

堂島さんは嬉しそうに笑いながら肉をガツガツと食べる。

この人も胃が衰えないな。

「よし、じゃあもう一皿……ん?」

次の肉を取ろうとした瞬間、俺はスーツの胸ポケットがもぞもぞ動いていることに気がつく。

あ、そういえば これ(・・) のことを話すのを忘れていた。ちゃんと堂島さんには話しておかないとな。

俺は胸ポケットの中に手を突っ込むと、その中にいる もの(・・) を掴み、テーブルの上に置く。

「堂島さん、これを見て下さい」

「ん? いったいどうし……って、なあっ!?」

それを見た堂島さんは驚き目を見開く。

こんなに驚いたこの人を見るのは久しぶりだな。

「お、おい田中!? そいつはもしや……」

テーブルの上でもぞもぞ動く物体を指差す堂島さん。

親指程度の大きさのそれは、芋虫みたいな形をしていて、全身が黒い。そして頭部と思われる場所にはくりくりした目玉が一つついていて、俺のことをジッと見つめている。

指を近づけてみると「てけ、てけ♡」と甘えるように俺の指に体を擦り付けてくる。

「はい。こいつはダンジョンで倒したショゴス……の幼体みたいです。コアは破壊したはずなのに、なぜか生きてて、俺にくっついてきてしまいました」

「くっついてきてしまいました……って、ありえんじゃろ!? はあ……お主は本当に驚かせてくれるのう」

堂島さんは困ったように、そしてどこか嬉しそうにそう言うのだった。