軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第21話 田中、差し出される

「通常ダンジョンで生まれたモンスターは決して人間には懐かないはずなんじゃがのう。おそらくこれは世界で初めての 事例(ケース) じゃろう。また世界が驚くぞ」

堂島さんはそう言って楽しそうに笑う。

俺もこれは相当珍しいことだと分かっているので、他の人にはまだ言ってない。足立や星乃、凛もまだ知らないことだ。今だって店員さんが肉のおかわりを取りに行ったタイミングでやっている。

「海外ではモンスターを使役する研究をしているところもあるらしいが、どこも失敗しておる。まさかそれの成功例を身近で見ることになるとはのう」

「こいつ、どうしたらいいと思いますか? 今日はそれを堂島さんに聞きたかったんです」

「ふむ……見たところこやつに強い力は感じない。精神汚染効果もなさそうじゃのう。『駆除』するのは簡単じゃろう」

堂島さんはショゴスを観察しながらそう言うと、「じゃが」と付け加える。

「それじゃ"つまらん"のう。これはモンスターのことを知る絶好の好機。保身に走るのはワシの性に合わん。任せろ、駆除しようとする他の議員やマスコミはワシが黙らせよう」

「ありがとうございます。いつも迷惑をおかけします」

「がはは、気にせんでええわ。若者に迷惑をかけられるのが老人の仕事じゃからのう」

一週間前、俺は家でスーツのポケットに忍び込んでいるショゴスに気がついた。

それから家で一緒に暮らしているのだが、一週間もすればペットへ向けるような情も湧いてくる。処分しなくてすんでホッとした。

「それにしてもあのダンジョンはやはり色々特別じゃったみたいじゃのう。あやつらめ、ダンジョンを作る種などどこで手に入れたのやら」

「それはまだ分かってないんですね」

「うむ。奴らは重要なことはなんも知らん末端の構成員じゃった。使い捨てというわけじゃな」

街で暴れた迷宮解放教団の構成員は全員捕まった。

今も彼らは厳重に拘束され、取り調べを受けているようだがその成果は芳しくないようだ。

「ダンジョンを生み出してしまえば、あとはショゴスが街を破壊する。つまり奴らはダンジョンを生み出してしまえば仕事は完了する。本来なら作戦は大成功のはずだったというわけじゃな。運の悪いことに田中が近くにいたせいで失敗したが」

確かにあれが街へ出てたら壊滅的な被害を出していただろう。

外に出る前に倒すことができて本当によかった。一歩間違えたら皇居大魔災の再来になっていただろう。

と、そんなことを考えていると扉が開き店員さんが戻ってくる。

俺は慌ててテーブルの上でくねくね体を動かしているショゴスを両手で覆い、隠す。

「どうかされましたか?」

「い、いえ。なにも……はは」

汗を流しながらしどろもどろになる俺。

すると堂島さんがすかさず助け船を出してくれる。

「梅ちゃん、肉はこっちで焼くから下がっても大丈夫じゃ。二人で話したいこともあるからの」

「はい……かしこまりました」

店員さんは不思議そうな顔をしながら個室から出ていく。

ふう……危なかった。

「それのことは隠しておくとロクなことにならなそうじゃのう。配信とかで早めに周知させておいた方がよいじゃろう。それのファンが増えれば、世論も味方してくれる。ワシも庇いやすくなるからのう」

「分かりました。次の配信で視聴者に紹介しようと思います」

俺は言いながら肉に火を通し、口に運ぶ。

ああ……美味しい。こんなとこそうはこれないから食いだめしておこう。

そう思っていると、ショゴスが俺のことをじーっと不満げに見てくる。

そして芋虫のような短い手足でおもむろに自分のお尻の部分を持つと、なんとその部分をぶちりと千切って俺に差し出してくる。

「りり! りり!」

「……田中。こやつは何をしとるんじゃ?」

一連の行動を見た堂島さんは不思議そうに首を傾げる。

俺は既にこの行動を何回も見たことがあるから理解してるけど、初めてみたらわけが分からないよな。

「あー、えっと、こいつ食べ物に 嫉妬(・・) してるんですよ」

「ん? もちっと分かりやすく言ってくれるか?」

「なんか俺が美味しそうに食べていると、それが気に食わないみたいで、こうやって自分を食べろと身を削って差し出してくるんですよ。こいつなりの愛情表現らしいです」

俺はそう言ってショゴスの差し出してきた身をつまみ上げると、ぱくりと食べる。

相変わらず美味しくはない。だけどなんか段々人の食えるレベルには近づいてきている気がする。俺が慣れたのか、ショゴスが味を変えてるのか、はたまた両方か。

俺が食べたのを見たショゴスは、嬉しそうに「りり♡」と高い声を出す。

「……なんというか、変わった愛情表現じゃのう」

堂島さんは引き気味にそう言う。

もしかしたら普通に対応して食べてる俺がおかしいのかもしれない。モンスターを食べすぎて感覚が麻痺しているのかもな。

「愛情表現といえば……結局お主は誰を選ぶんじゃ? 天月か? それとも絢川か?」

突然の堂島さんの言葉に俺は飲んでいたビールを「ぶっ!?」と吹き出す。

何を言ってるんだこのジジイは……。

「ちゃんと配信は最後まで見たから知っとるぞ。懐かしいのう、ワシも昔は甘酸っぱい恋をしたものじゃ。早くどっちかとくっつかんもんかと思っとったが、ここに来て前進するとはのう。で、どっちとくっつくんじゃ?」

「……分かりませんよ。俺が誰かと、その、恋仲になるなんて考えもしませんでしたから」

社畜として心を潰された俺は、とても誰かと付き合うなんて考えることができなかった。

最近は多くの人に認められてようやく自分の幸せを考える心の余裕ができてきたけど、それでもまだ恋愛を考えられるほど回復していない。

「ふむ。まあ急ぐことではないが……一つだけ言っておく。ワシは天月も絢川も自分の娘のように思っとる。もしどちらか一人でも泣かせるような真似をしたら、ただじゃ済まさんぞ?」

「……それ、詰んでないですか?」

俺にとって二人は特別で大切な存在だ。泣かせるような真似は俺だってしたくない。

「がっはっは! まあ深く考えるな! それにどっちか選べないなら、どっちも幸せにすればいい! ワシはそこらの老害と違って価値観が古くないからのう!」

「まあ……ちゃんと考えておきますよ」

「ああ、それでいい。ほれ、新しい酒を飲もう。日本酒でええか? 梅ちゃん! 酒じゃあ!」

大声で店員さんを呼ぶ堂島さん。

今日の楽しい飲み会は夜が更けるまで続いたのだった。