軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第4話 田中、温泉に行く

魔素詰まりが発症するには、様々な原因がある。

疲労、ストレス、魔法の使いすぎ、怪我、魔素の過剰摂取など。

それにより魔素を流す 回路(・・) が詰まってしまい、魔素の排出不全になってしまうのが魔素詰まりなのだ。

それを完治させるには、詰まっている魔素を排出してやる必要がある。そしてその方法というのが……

「温泉というわけだ」

「なんでそうなるの……」

俺の説明を聞いた天月が、呆れたように呟く。

現在、俺たちは東京の奥多摩山中に来ている。

一昨日温泉に行くことを提案した俺は、天月を連れて電車でここまでやって来た。

目的はもちろん天月の「魔素詰まり」の治療。そのためにここのダンジョンに潜りに来たのだ。

星乃や凛は今も政府の仕事をこなし、天月がいない穴を埋めてくれている。

彼女たちが頑張っている間に天月を治さなくてはいけない。いつまでも疲れた彼女を見ているのはつらいからな。

ちなみに天月は俺が作った「魔素抜き料理」を食べ体内の魔素をある程度分解したので外を歩ける程度には回復している。

しかしそれで一時的に症状を緩和することはできるが、時間が経てば体内に魔素が溜まってしまうので根本的な解決にはならない。

詰まった魔素をどうにかしなければ、その場しのぎにしかならないのだ。

「ここの温泉は肩こり腰痛神経痛、そして魔素詰まりに効くんだ。ここに入ればきっと天月の体調もよくなるぞ」

「そんな効能がある温泉聞いたことがないけど……あの橘さんが言っていたなら本当なのでしょうね。信じるわ」

天月はそう納得する。

俺の師匠、橘さんのことは天月もよく知っている。そもそも天月の剣士としての目標が橘さんだったのだ。

あの人の剣は 強靭(つよ) く、 流麗(うつくし) く、そして鮮烈だった。

その剣技を見て憧れない剣士はいないだろう。

「奥多摩山林ダンジョン……モンスターが多いけど、あまりいい素材は落ちていないダンジョンね。あまり人気のダンジョンではないけど、本当にここにその温泉があるの?」

「ああ、一度師匠と一緒に来たことがあるんだ。見つけにくい場所にあるから知らないのも無理はない」

「そうなのね……って、なんでドローンを準備しているの?」

俺がドローンを飛ばしていると、天月が突っ込んでくる。

「なんでって、そりゃ配信をするためだぞ」

「いやだから、なんで配信をするの? 凛や星乃さんならともかく、私を見たい視聴者なんていないでしょう……」

天月は呆れたように言う。

はあ……なにも分かってないな。俺はわざとらしくため息をつく。

「天月。言わせてもらうがお前は間違いなく『人気』だ。強さもルックスもお前はずば抜けている。知らないかもしれないが、非公式ファンクラブもあってその会員数は100万人を超えているらしい。俺の配信でも天月が出てほしいって声は多いし、これで人気がないは嘘だろう」

「え、え、え」

俺の言葉を聞いた天月は戸惑う。

天月は前から自己肯定感が低い。自分なんてと思ってしまうタイプだ。

その性格は討伐一課の課長になっても変わることはなかった。もうちょっと自分に自信を持ってもいいと思うんだが……性格はそう簡単には変わらないか。

「天月が最近現場に出ていないことはSNSでも話題になりつつある。もしかしたら怪我や病気で動けないんじゃないかって憶測も流れている。だから配信してみんなに姿を見せられたらなって思ったんだが……どうだ?」

「……分かったわ。そこまで言うなら」

「よしきた。それじゃあダンジョンの前まで行ったら開始するとしよう」

歩けるようになったとはいえ、天月はまだ元気がない。

だが自分を応援してくれる人がたくさんいると知ったら、少しは元気が出るかもしれない。

俺はそうなることを願いながら、ダンジョンに向かうのだった。

◇ ◇ ◇

「これで準備よし……と! それじゃあ凛ちゃん、そろそろ行こっか」

星乃が元気よくそう言うと、凛は「はい」と返事をする。

二人はこれから政府の仕事をこなしに行く。新しく都内に出現したダンジョンを調査し、そこの危険度と得られる資源の種類と量を調べるのだ。

初めて入るダンジョンは、どれだけ危険か分からない。

なのでそれにあたる職員は実力者でなければいけない。星乃はすでに今までの仕事でそれをするに値する実力を認められている。

凛とのコンビネーションも他のどの職員より取れているため、危険な仕事の参加も認められていた。

「じゃあ行ってくるねリリシアちゃん」

「うぬ……今日も行ってしまうのか」

家に残ることが確定してしまったリリシアはテーブルに突っ伏しながら退屈そうにする。天月が倒れてからは留守番することが多く、退屈な日々を過ごしていた。

「あんま文句言うなよ姫さん。俺がいるじゃねえか」

「ダゴ助はつまらんからどうでもいい」

「ひどい!」

しくしくと泣くダゴ助。

しかしやるゲームも話も合わない二人は留守番している時も会話することはほとんどなかった。

「タナカもアマツキと一緒に行ってしまったし、暇だのう」

「今日はそれほどかからない予定だし、終わったらすぐ帰ってくるよ。おみやげも買ってくるし、ね?」

「本当か! ならこの前食べたスシがいいぞ!」

「うん、分かった。楽しみに待っててね」

星乃はリリシアと約束した後、仕事に向かう。

家にはリリシアとダゴ助だけが残される。保護対象である二人は、この家から出ることはできない。

「行ってしまったか。早く帰って来ないかのう」

「ま、おとなしく待ってようぜ姫さん。あの人たちならすぐに終わらせて帰ってくらあ」

「うむ……」

リリシアはそう言うと、元気なさげに自室に帰っていくのだった。