軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第7話 一触即発

「ったくよお、お前のせいで兄貴にしこたま叱られちまったじゃねえか!」

異世界からやって来た魚人、ディープワンのダゴ助は鋭い爪が生えた手で器用に皿を洗いながらそうぼやく。

その隣には同じく田中に大目玉を食らった青年、三上修司が洗われた皿を拭いていた。

二人は喧嘩をした罰で大量の皿洗いを命じられていた。

ここで更に問題を起こしたら、コラボカフェを出禁にすると言われている。そうなれば名誉挽回の機会は完全に失われてしまう。

二人は仕方なく大量の皿を真面目に洗っていた。それでも悪態はついて出て、

「文句を言いたいのは僕の方だ。田中さんの役に立って褒められる予定だったのに、君のせいで台無しだ。ああ、本当なら今頃 八面六臂(はちめんろっぴ) の活躍をして褒められていただろうに……」

三上が大仰にそう言うと、ダゴ助は「けっ」と下らなそうに言う。

今日一日同じエリアで仕事をしていた二人だが、その仲は良くなるどころか悪化していた。

(こいつやっぱ気に食わねえ! 邪魔ばっかしやがって!)

(ことごとく気が合いませんね。なぜ田中さんはこれを近くに置いているのでしょうか)

一触即発の空気が流れる洗い場。

どうにかして相手を見返し、そして田中に見直してもらえる方法はないかと考えていると、

「あ、もう皇帝イカの在庫がなくなりそうだな」

「マジかよあんなにあったのに」

それはコラボカフェで働く店員の声だった。

皿を洗う以外にやることのない二人はその会話をなんとなく聞いていた」

「海の家エリアでも食べられるからな。一人で何人前も食べる人もいたし」

「コラボメニューは多いけど、ダンジョンの食材はそんなに仕入れられなかったからなあ。このままだと売り切れになっちまうな」

「つっても田中さんに食材調達を頼むわけにもいかないし……。おい、お前モンスター狩って来いよ」

「馬鹿言うな。俺だって忙しいんだ。そんな暇ないっつうの」

「はは、それもそうだな」

声は段々遠くなり、やがて聞こえなくなる。

その話を聞いていた二人は皿を洗う手を止める。

「……どうやら考えていることは同じみたいだな」

「ああ。そうみてえだな」

二人は残っている皿を全て洗い終えると、向かい合って睨み合う。

「どっちがより良いコラボカフェの食材を集められるか勝負だ」

「上等だ。兄貴に褒められるのは俺。負けたら大人しく帰ってもらうぜ」

田中の知らないところで始まる勝負。

二人はこっそり喫茶店を抜け出すと、ダンジョンの下へ続く道へ向かうのだった。

◇ ◇ ◇

「やあ、田中クン。繁盛しているじゃないか」

「え……なんであなたがいるんですか」

「なんでとは挨拶だねえ。私はこのカッフェの一番の功労人と言ってもいいのに」

そう言ってタバコの煙をふかしたのは、魔物対策省、魔導研究局の局長、 黒須(くろす) 牧(まき) さんだった。

俺は注文された「 迷宮猪(ダンジョンボア) のステーキ」を持ってきたのだが、注文を取ったのは別の人だったので、まさか牧さんがいるとは思わなかった。

"お、黒須博士おるやん"

"レアキャラやね"

"相変わらず際どい格好してんなw"

"裸白衣とかレベルたけーわ"

"エッ"

"髪とか色々だらしなくて気づきにくいけど、かなり美人だよな"

"はあ……それがいいんだろうが"

"ほんまやで"

"年食うとこういうのが一番いい"

"おっさんの好みは聞いてねえんだよなあ"

"あっ、田中にタバコ没収された"

"店内は禁煙やからね"

"しゅんとしてて可愛い"

"にくうまそう"

牧さんは俺が運んできたステーキをナイフとフォークで雑に切り分けると、ガブッとワイルドに食べる。

まあまあな大きさのを食べたので口の周りが汚れているが、気にしている様子はない。

「ふうん、中々美味いね。悪くない。私みたいな覚醒者からしたら魔素が 完全に(・・・) 抜かれているのは少しもったいないが、それでも十分普通の食材とは違う味を感じられる」

「そうですね。ダンジョン内の食材は魔素を抜いても地上のものと同じにはならないみたいですからね」

このコラボカフェで提供している料理の中にはダンジョンの食材を使っているものもあるが、それらは完全に魔素を抜いた状態で提供している。

今回のコラボカフェでは覚醒者ではない一般の人も来場できるようにしたから、魔素が含まれているものを食べさせるわけにはいかないからな。もし食べてしまったら魔素中毒になって最悪死んでしまう。

「牧さんの作った『魔素中和装置』のおかげです。ありがとうございます」

「役立ててくれて嬉しいよ。役に立てば更に予算が増えるからねえ」

ひひひ、と牧さんは悪い笑みを浮かべる。

牧さんが最近開発した魔素中和装置は、その名の通り魔素を中和させる機械だ。それのおかげで食材内の魔素を消したり、このダンジョンの上層の魔素を消したりすることができた。

もしこれがなかったら覚醒者のお客さんしか呼ぶことはできなかっただろう。

だから牧さんがこのコラボカフェの最大の功労者というのは、あながち間違いでもない。

「それにしても最初は半信半疑でしたが……凄いですね。ダンジョンのワンフロアの魔素を丸ごと中和できるなんて。モンスターは魔素のない空間を嫌う、これならコラボカフェがモンスターに襲われることもない」

「人間が想像できることは必ず実現できる。これくらいたやすいさ。私はもっと凄いことを色々考えているよ」

牧さんは眼鏡を光らさせてそう言う。

頼もしくもあり、恐ろしくもある。この人ならダンジョンの全てを解き明かしてしまいそうだ。

"っぱ天才なんだなこの人"

"ただの露出魔じゃなかった"

"わいのことも解き明かしてほしい"

"算数で解けそう"

"その内ダンジョンの奥まで旅行できるかもなw"

"なにそれ楽しそう"

牧さんはガツガツとステーキを口に運ぶと、綺麗にたいらげてしまう。

結構な量があったと思うが余裕そうだ。研究者も体力勝負というから、意外と胃が大きいのかもしれない。

「ごちそうさま、美味しかったよ。……と、そうだ。頼まれていた物の改造が終わったんだ。返しておこう」

牧さんはそう言うと、テーブルの上に球体型のドローンを置く。

それは俺が使っているドローンだった。今配信で使っているのは会社の備品で俺が普段使っている物じゃないのだ。

俺のドローンは高性能だが、最近酷使してガタが来ていた。だからこの前牧さんに会った時に修理と 改造(・・) をお願いしていたのだ。

「加速度と最高速度はもちろん、耐久力も大きく向上させた。深海だろうが氷の中だろうが溶岩の中だろうが宇宙だろうが問題なく配信できる」

"すっご"

"これもうドローンじゃない別のなにかだろ"

"あの子のスカートの中もいけそう"

"田中エディションのドローン売ってくれ!"

"これと同じ性能とかいくらするんだw"

"家が買えそうだなw"

「他にも要望があった機能は一通り入れてある。存分に使ってくれ」

「ありがとうございます。助かります」

「いいさ。キミには色々楽しませてもらっているからねえ」

牧さんは楽しそうにそう言うと立ち上がり、会計をする。

どうやらドローンを渡しに来店したみたいだ。わざわざ自分で来るなんて律儀な人だ。

「近頃なにかときな臭い話を聞く。キミなら大丈夫だろうが……まあ用心することだ」

「ありがとうございます。牧さんも健康には気をつけてくださいよ」

牧さんは俺の小言に「あぁ。ほどほどに気をつけるよ」と言うと店を去っていく。

さて、まだまだお客さんはたくさんいる。接客に戻らないとな。