作品タイトル不明
第8話 田中、大量の鉱石を見つける
"めっちゃ綺麗だな"
"幻想的だね"
"てかあの鉱石ミスリルじゃない!?"
"宝の山やな"
"こんなかにアダマンタイトあるのかな"
俺の今いる空間に漂う魔素濃度は、深層クラスだ。
さっきまでは下層にいたので、先に進めたみたいだ。どうやら穴を開けたことでショートカットしたようだな。
「魔素濃度も高いが、磁力も強いな。 磁鋼巣(じこうそう) ダンジョンの名は伊達じゃないな」
上層から磁力は感じていたが、ここの磁力は段違いに高い。肌がピリピリするから間違いない。
見ればふわふわと宙を浮いている鉱石もある。俺の感覚は間違っていなかったみたいだな。
"厄介そうなダンジョンだな"
"てかなんで磁力が分かるの?"
"それはえっと……田中だからでしょ"
"感覚器官発達しすぎてキモい"
"人と違う器官がありそう"
"新人類田中"
失礼なコメントたちだ。
磁力くらい誰でも分かる……よな? 正直覚醒者になってから長いので普通の人間の時の感覚は忘れてしまっている。慣れって怖い。
「えー、ここには珍しい鉱石がたくさんありますね。ミスリルに魔導水晶……あ、この虹色に輝く水晶は金剛結晶ですね。一つ貰っておきます」
色とりどりの鉱石を俺は物色する。
アダマンタイト以外は必要ないが、星乃の武器を強化したりするのに使えるかもしれない。貰っておいて損はないだろう。
"ミスリルがこんなにいっぱい……欲しすぎる"
"てか金剛結晶あるってマジ!? 5年は探してるけど見つけてないんだけど!"
"金剛結晶も一欠片で数千万いったりするからな……"
"お宝まみれだなこのダンジョン。人気でそう"
"でも道中が大変すぎる。人間探知機にならないとここまで来れないぞ"
"あの迷路の突破方法を考えないとな"
希少な鉱石の数々に視聴者の反応も上々だ。
アダマンタイト以外の鉱石系素材を必要としていないとはいえ、これだけあると俺もテンションが上がる。
調子に乗っていくつも手に取っていると、
「ん?」
岩から生えている大きな水晶を採ろうとすると、突然それが動く。
気のせいかと思って強く引き抜こうとすると、岩だと思っていた物が丸ごと動き出す。
『ギキィ……ッ!!』
動いたそれは、大きな カニ(・・) だった。
二本のハサミを持つ、あのカニだ。
しかしただのカニではなく、甲殻がキラキラと光っており、体のあちこちから水晶が生えている。
"カニだー!"
"虫ばっかだったから助かるw"
"綺麗だな"
"口から泡吹いてめっちゃ怒ってるな"
"そりゃ体から生えてるもの抜かれそうになったらキレるw"
「こいつは……クリスタルキャンサーか。珍しいモンスターだな」
クリスタルキャンサー。別名「水晶殻蟹」。
その名の通り水晶の甲殻を持ったカニのモンスターだ。
ランクはS。深層にのみ出現するモンスターなのだが、その出現率はかなり 低い(・・) 。希少な鉱石を好んで食べるモンスターなので、そういった環境がないと現れないのだ。
俺も一度だけ死骸を見たことがあるだけで、生きているところを見たのは初めてだ。
こいつの甲殻は高値で売れるが、俺はそれよりも気になるところがあった。
「こいつ……美味そうだな」
"ズコー"
"そこかい!"
"知ってた"
"平常運転やねw"
"まあ確かに美味そうではあるけど"
"いやモンスターを美味そうって思うのは普通じゃないぞw"
"え、俺も美味そうに見える……"
"頭田中な奴が増えたな"
"美味そうに食うからしゃあない"
"社畜のグルメ"
思えばダンジョンに入ってからなにも食べていない。
一応携帯食は持っているが、やはりちゃんとした物を食べたい。クリスタルキャンサーの中身がどうなっているかは分からないけど、カニなら食える可能性は高い。
「来い!」
『ギギィ!』
クリスタルキャンサーは太いハサミを振り上げ、襲いかかってくる。
普段なら回避と同時に関節に刃を滑り込ませ、腕や脚を斬り落とす。しかし今それをしてくれる剣はない。
なので俺は振り下ろされるハサミを真正面から素手で受け止めた。
「ふんっ」
『ギ、ギギィ!?』
"草"
"剣がないからいつもより脳筋だなw"
"やはり 物理(これ) に限る"
俺はハサミをガシッとつかみ、そのまま地面に投げ飛ばす。
橘流柔術、 風車(かざぐるま) 。
遠心力を加えられ地面に叩きつけられたクリスタルキャンサーは、苦しそうな呻き声を出す。
ひっくり返り、隙を晒したクリスタルキャンサー。
俺は無防備となったその腹部に、思い切り拳を叩き込む。
「橘流柔術、兜割り」
甲殻の脆い部分を見極め、そこを思い切り殴りつける。
すると硬い甲殻にビキキ! とヒビが入り、殴った箇所が陥没する。
「どんなに硬い物にも脆い箇所がある……そこを突けば壊すのも簡単です」
"そうなの!?"
"んなわけない定期"
"効果はあるんだろうけど一般人じゃ無理w"
"怪力に技術が合わさり無敵に見える"
"まず脆い箇所を目で見つけるのが不可能なんだよなあ"
"たし蟹"
よし、これで今日のご飯は確保できたな。
海産系モンスターの素材は足が早い。
傷む前に食べることにしよう。