軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第10話 星乃、龍を割る

「はああああっ!!」

星乃は大剣を下に構え、勢いよく駆け出す。

カグツチも消耗しているが、星乃も体力が底を突きかけているだろう。長引けば星乃が先に倒れる、短期決戦で決めるしか勝ち目はない。

『ガアッ!!』

カグツチは自身の周囲に炎球をいくつも出現させ、それを射出する。

消耗しているせいで火球の威力は落ちているが、それでも今の星乃にあれを食らって耐えていられる体力は残っていないだろう。

「負ける……もんか……っ!」

星乃は火球の間をくぐり抜け、先へ進む。

軌道を上手く読めている。この状況でも星乃は冷静だ。

『ルル……ラアッ!!』

カグツチは更に火球の量を増やし、星乃を近づけさせないようにする。

雨のように星乃に降り注ぐ火球、流石に避けきることはできない。

すると三上が魔法の障壁を傘のように展開し、星乃を守る。

「やらせはしない…… 鋼鉄の牡鹿(アイアンスタッグ) の若きエースの力、見せてやる……!」

"三上ィ! よくやった!"

"蛙化治りました"

"やるやんけ!"

"データを捨てたな"

"俺はやればできる奴だと思ってたよ"

"俺も俺も"

"手の平ぐるぐるで草"

"これが光堕ちですか"

三上は炎魔法を得意としている。あいつの実力で火球を防ぐことは困難なはずだが、炎の扱いになれているおかげで軌道を反らすことに成功していた。

魔法は相性も重要だと聞くけど、それが上手く噛み合っているな。

「うぐぐ……おおおおっ!」

三上は見事炎球の軌道を反らし切り、星乃の進む道を切り開く。

しかし魔力切れを起こしたのかその場に倒れてしまう。星乃もそれに気づき足を止めそうになる。

「行くんだ星乃さん! 僕の分も奴を頼む!」

「……分かりました! 任せてください!」

星乃は一層強く踏み込み、カグツチに接近する。

その体からは再び魔素が溢れ出し、輝いている。完全に追覚醒をものにしているな。

その気迫に 圧(お) されてか、カグツチは後退を始める。

あいつ逃げるつもりか? それは阻止しないとな……と思っていると、今まで戦いを見守っていたある人物がそれを咎める。

「女の子が覚悟決めたってのに、なに芋引いてんだテメエ!」

レイピアを構え、カグツチの後ろに現れる雪さん。

あの人、いつの間にあんなとこに行ってたんだ。顔怖すぎるし。

「てめえみてえな臆病者、カマ掘ったらァ!」

雪さんはレイピアをしならせ、その反動で思い切りカグツチの尻を蹴り飛ばす。

虚を突かれたカグツチは『ゴア!?』と驚いたように声を出し、その場に硬直する。星乃はその隙に跳躍すると、カグツチの頭部に着地する。

「これで……決める!」

星乃は大剣を振りかぶり、カグツチの脳天に振り下ろす。

あの構え、あの太刀筋、あの重心移動。まさか……

「富岳唐竹割りっ!」

振り下ろされた大剣が、カグツチの頭部を真っ二つに両断する。

硬い頭部を一撃で両断するなんて、並の攻撃じゃない。あんなに成長していたなんて驚きだ。

"うおおおお!!"

"ゆいちゃあああん!!"

"え、すご"

"ていうか今のシャチケンの技じゃん!"

"愛の力、やね"

"日本どころか世界でもトップクラスに強いでしょ"

"雪さんもナイスアシストすぎる"

富岳唐竹割り。それは俺が前にマウントドラゴンを倒した技だ。

星乃を助ける時に一度だけ使った技、まさかそれを会得していたなんて驚きだ。

『ル……オア……』

星乃の一撃を食らったカグツチは、地に 臥(ふ) し絶命する。

勝負ありだ。仲間のアシストがあったとはいえ、星乃はEXモンスターを倒した。これは快挙だぞ。

「やっ……た……」

力を使い果たした星乃は、その場で倒れそうになる。

俺は急いで彼女のもとに駆け寄り、その体を抱える。こんな細い体でよくあそこまで戦ったな……師匠として誇らしい限りだ。

星乃は視線を動かし俺の顔を確認すると、「へへ」と嬉しそうに笑う。

「田中、さん……見てくれてましたか……?」

「ああ、見てたぞ。さすが俺の弟子だ。見事な一撃だったぞ」

「へへへ……うれしい、な……」

星乃はそう言うと、俺の腕の中で意識を失う。

少し心配だったが、耳を澄ませるとすうすう寝息を立てている。これなら大丈夫だろう。

「寝ちゃったようね。ま、あれだけ動いたのだから当然ね」

「雪さん。みんなを守ってくださってありがとうございます。助かりました」

みんなが無事でいてくれたのは雪さんのおかげだろうと礼をいうが、雪さんは首を横に振って星乃を指差す。

「私はたいしたことはしてないわ。みんなが無事なのはその子が頑張ってくれたおかげ。目を覚ましたらたっぷり褒めてあげなさい」

「そうだったんですね……。分かりました。そうします」

そう答えると、雪さんは満足そうに笑う。

見れば倒れた三上も探索者たちに助け起こされている。さっきの奮闘ぶりを見たからか、三上に対する扱いも柔らかく見える。これなら帰り道に喧嘩が起きることはなさそうだ。

「それじゃあ帰りますか。先頭は雪さんにお願いしていいですか?」

「当然よ。お姫様を抱っこしている王子様の手を煩わせるわけにはいかないからネ♪」

そう言って雪さんはウインクしてくる。

俺はとても王子様なんて柄じゃないが……この役割を他人に譲るつもりはない。ここは黙ってからかわれるとしよう。