軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

胸の痛みを消す方法・モニカ 【前編】

なぜこうなったのかしら?

「どうした、後悔しているのか?」

「……どうでしょう」

何も覚えていませんと言ってもいいものか。

目覚めると、知らない部屋の知らないベッドの中で知らない男に抱き締められていました。

昨日、エミディオとアリーチェの子供が無事産まれたと連絡が入った。

嬉しくて嬉しくて、本当に嬉しくて……ほんの少しだけ胸が痛んで。そんな痛みを消し去りたくてお酒を飲みに出掛けた。

たまに行くお店で一人で行っても安心。ずっとそう思っていたのになぁ。

うん、乱暴にはされなかったみたい。怪我もないし少し気怠いくらい。生娘でも無いし、自己責任ね。

「何か食べるか?」

そう声を掛けてくれる男を見る。

なんとも無表情で冷たい顔。でも私を気遣ってくれてるから、ただ表情筋が仕事をしないだけなのだろう。

日に焼けた肌。程よい筋肉の付いた体。騎士団とか?……でも平民かしら。野生の獣っぽい。少し癖のある黒髪に同じく黒の瞳。右眉の上に走る傷がチャームポイントね。

なかなかいいキャラクターかも。

「お水をいただけると嬉しいわ」

「ん、待ってて」

ここは彼の家なのかしら。彼……とずっと呼ぶわけにもいかないわね。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

どうやらのどが渇いていたらしい。

すべて飲み干してしまった。

「あの……大変申し訳ないことを言ってもいいかしら」

「……どうぞ」

「ごめんなさい、昨夜のこと何も覚えていないの。何か迷惑をかけてしまったかしら」

「……何も?」

「何も」

「そう……」

沈黙が痛いわ。

「……俺もあの店の常連で」

あ、そうなの?

「だから一方的に貴方のことを知ってて。普段は軽く飲んでるくらいなのに、昨日はずいぶんと杯を重ねていたから少し心配になった。見た目は全然酔って無かったけど」

「顔には出ない方なんです」

「それで店を出た後も少しついて行って……悪い。俺は憲兵なんだ。ストーカーじゃなくて」

正義感でついて来たと。微妙ね。

でも憲兵か。あとで身分証を見せてもらおう。本当なら身元はしっかりしているようだ。

「しばらく歩いて……急に立ち止まって怒り出したんだ。どうしてって」

「え、私が?」

「貴方が」

お酒は飲むものでは無いわね。醜態を人に見られたなんて居た堪れない。……どうして、か。

「……それで?」

「声を掛けた。大丈夫かと」

そうね、酔っ払ってどうしてどうしてと言ってる女は大丈夫じゃないわね。いっそ放っておいて欲しかったけど。

「そうしたら胸ぐらを掴まれて」

「……私が」

「はい、貴方が」

「どうして私は胸が痛いのかしら?と」

「……聞かれても困りますよね」

「はい、ですから困りましたねと俺は言った。そうしたら」

もう聞きたく無いかな。ごめんなさいで終わってもいいかしら。お互い一夜の過ちで終わらせてもいいのでは……

「私と寝ませんか?と聞かれたので」

「は?」

「今に至る」

「……だいぶ飛んでませんか、間が」

さっぱり分からない。私は何がしたかったの?というか、

「なぜ、そんな酔っ払いの誘いに乗るのよ」

「……チャンスだと思ったから」

「何の」

ヤりたかっただけ?それならそれで、

「ずっと貴方が気になっていた。女性として」

あ~、逃げにくいものだった。

「貴方に昨日プロポーズした。OKも貰った。今更忘れたは聞かないから」

何してるの私!

「……色々悪かったわ。でも酔っ払いの言うことなんて無効でしょう。それに……あなた何歳?」

「26歳」

やっぱり若かった。

「私はもうすぐ30歳よ」

「知ってる。学生の時から付き合っていた人がいて、28で別れた。理由は不妊と身分の違い。

全部知ってるさ。小説家だよな。読んだよ、本。面白かった」

「……うそ。じゃあどれが面白かった?」

怖いわ。どこまで知ってるの。

「『悪魔公爵と契約花嫁』別れた恋人とその妻がモデルの話かな」

「……ちょっと本気で怖いんだけど」

「あの店は静かだ。友人との会話はもう少し声のトーンを落とした方がいい」

「……ご忠告ありがとう」

ノーラと飲んだ時ね。あの時は……つい。話してしまった。彼らを題材に書いた本だと。だっていいお話が書けたと思ったの。嫉妬はひと欠片も入っていない。そんな話が書けて嬉しかったから。長年の恋を昇華できた証だった。

「悪いとは思ったけど、つい興味があって読んだ。別れた恋人の妻をあんなに魅力的に書ける貴方が凄いと思った。それからずっと気になって、店に行く度に貴方がいないか探してた」

「彼女が魅力的だからよ」

「違う。貴方が魅力的だからだ」

これは嬉しいわね。自分だけがこっそりと満足していたことを、まったくの他人に気付いて褒めてもらえるなんて。

「……ありがとう。実はその辺りの事情込みで自分でも気に入ってる作品よ」

でも困った。プロポーズ?なぜ?

「バルディ伯爵領憲兵副隊長のアベルだ。忘れていそうだからもう一度挨拶しておく」

「……ありがとう。私はモニカ。小説家よ」

「宜しく、婚約者殿」

本当にどうしてこうなった?