軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第62話 宣言

この日、帝都の大聖堂には多くの人々が詰めかけていた。

その中にはハワードとルオン、レイの姿もある。

大司教のエンゲルが「聖女様が、女神様からのお言葉を伝えられる」と公言したことで、身分を問わず多くの帝都民が集まっている。

あまりの人の多さに聖堂内には入りきれず、沿道にまで人だかりができていた。

皇兄派がクーデターを企み失敗に終わった件は、聖女が「神罰は下らない」と民の前で宣言し騒動がある程度収束してから公表されるようだ。

これは、リサから(レイ経由で)届いた手紙に書いてあったこと。

ただ、サイエル王国へ先に情報を流すことについては、いずれ知れ渡る話だからと許可をもらっていた。

これを受けて、ハワードは先行して帝国に潜入していた部下たちに情報を共有し、先に帰国させた。

現在残っているのはルオンだけである。

王太子のオルフェンには、魔道具で情報をすでに報告済み。

オルフェンは、クーデター未遂事件と聖女降臨の話に興奮し詳細を知りたがったが、魔力消費を理由にハワードはすぐに通話を切る。

当事者としてどこまで情報を開示してよいのか、現時点では判断がつかなかった。

大司教が女神像に祈りを捧げていると、青白い炎が円を描くように床に現れる。

皆が固唾を呑んで見つめるなか、中央に外套で顔を隠した聖女と聖獣が登場した。

「聖女様だ!」

「聖獣様もいらっしゃるぞ!!」

興奮状態の人々が口々に叫び、祈り始める。

大歓声で興奮の 坩堝(るつぼ) と化した聖堂内は収拾がつかなくなっている。

大司教が「静粛に!」と注意を促す声もかき消されてしまう。

そのとき、「ニャー」と低い鳴き声が響き渡る。

それは喧騒の中、不思議と誰の耳にも届く。

一瞬にして、場は静まり返った。

「皆さま、わたくしはミサと申します。こちらはリケです。本日は、女神様の御言葉を伝えにまいりました」

ゆっくりとした落ち着いた声で、聖女は語り始めた。

皆が真剣に耳を傾け、私語の声などもちろんない。

「女神様は、わたくしにこう仰いました。『神罰は下らない』と」

「聖女様、女神様は私たちを許してくださると?」

大司教からの問いかけに、聖女は「はい」とはっきりと答えた。

「女神様は、 契(・) 約(・) の(・) 遵(・) 守(・) とデール帝国の早期安定をお望みです」

「皆、女神様の御慈悲に感謝し、一日も早く通常の生活に戻るのだ。これは、女神様の御心に従うことでもあるぞ」

大司教の言葉に、帝都民が大きく頷いている。

「女神様は、いつでも見守っておられます。では、皆さまの新たな門出に祝福を!」

女神像が光り輝く。

天井からは、白い花びらの形をした雪が舞い落ちてきた。

ハワードは手で受け取る。

冷たさは感じないが、すぐに融けるように消えてなくなった。

光が収まったとき、雪とともに聖女の姿も消えていたのだった。

◇◇◇

女神像の前には、お祈りをしようと多くの者たちが列を成していた。

ハワードとルオンは大聖堂を出る。

「これで、ようやく帝国も落ち着きますかね?」

「そうだと良いが……まあ、聖女が釘を刺したから、同じ過ちは二度と繰り返さないと思うぞ」

「ああ、契約の件ですね」

昔、帝国と女神がどんな契約を交わしたのかはわからないが、破ったことにより今回の事態を招いた。

次に破ったときは、女神から見放されるということ。

「さて、我々はこれからどうしますか? とりあえず、聖女の宣言内容だけは先に報告をしておかないと、あの方から催促されますよ」

「そうだな」

人混みを掻き分け宿へ歩いていると、「ニャー」と鳴き声が聞こえたような気がした。

レイがルオンの肩から飛び立ち、急いでどこかへ向かっていく。

二人もあとを追いかけた。

「最近のレイは、ルオンを主と見なしていないようだな?」

「ハハハ……主と見なしていないのは、前からですよ。だって、レイは俺のことを『ルオン』と呼び捨てにしているそうですから」

「そういえば、そうだったな。では、同格ということか」

「まあ、それでも別に構いません。家族ですから」

ルオンは苦笑した。

レイが降り立ったのは、広場にある噴水だった。

縁に座っているのは、黒髪の少女と白猫。

リサは何かを割っては、ミケへ食べさせている。

二人に気づいたリサから「食べますか?」と手渡されたのは、平たく丸い形をした物。

ハワードとルオンのは黒い紙付きで、レイ用には何も付いていないものが配られた。

リサにならって、紙を剥がさずにそのままかぶりつく。

パリッとした食感と香ばしい風味で、ハワードはあっという間に食べ切った。

「これは美味いな。何という食べ物なんだ?」

「オセンベイです。もしかしたら、帝都には売っているお店があるかも…えっ、これはないの? それは残念」

ミケとのやり取りを終えたリサが、再びこちらを向いた。

「私のほうからそちらへ伺うつもりだったのですが、ミケがレイ君を勝手に呼び出してしまってごめんなさい」

「もう今さらだしな、おまえたちなら別に良いぞ」

「ありがとうございます」

「君たちの用事は、もう済んだのか?」

「はい。あとは買い物をして、ヘンダームへ帰るだけですね」

ハワードが拍子抜けするくらい、リサはいつも通りだった。

先ほどまで聖女として振る舞っていた同一人物とは到底思えない。

「それで、俺たちに何か用か?」

「お二人が帰国される前に、きちんと説明をしておこうかなと。約束をしましたし」

一緒に帰れたら、道中で説明ができたのに…と残念そうにリサが言う。

ルオンがそれにいち早く反応する。

ハワードは嫌な予感がした。

この二人は、危なっかしいところが多々ある。

人が大勢集まっている中での会話は危険である。他の者には聞かせないほうがよい。

ハワードは素早く判断し、防音魔法を発動させた。

「なあ、一応確認だが…… ココ(デール帝国) から あそこ(サイエル王国) まで、あの魔法ならどれくらいで帰れるんだ?」

「全速力で行けば、王都へ行くのと同じくらいですかね……あっ、もう少し掛かるかもしれませんが」

「「!!」」

一日どころか、半日もかからないとは。

二人の受けた衝撃は大きかった。

「副…ハイドさん、こいつと一緒に帰りましょう! 俺、もうあんな疲れる旅は嫌です!!」

「気持ちは非常に理解できるが、あの方へどう説明をするつもりだ?」

先に帰国させた部下たちが到着していないのに、後から出発した自分たちが王都に着いているなどあり得ない。

どう言い訳をするのか?とハワードからの至極当然の質問に、ルオンはいつになく真剣な表情で考え込んでいる。

「そうだ! 道中の森で『 古(いにしえ) に存在した隠し転移門』を見つけたとかは、どうですか? 実際に、昔の文献にも載っていますし」

「へえ、女神様の転移門って、そんな昔からあったのですね。お二人も大聖堂のが使用できたら、王都まですぐなのに……」

リサがぽそっとつぶやく。

「「!!!!」」

大聖堂には、転移門が存在する。

二人の受けた衝撃は、特大だった。