軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第61話 聖女の定め

「……『死ぬため』って、どういう意味ですか?」

「言葉通りの意味だ。この世界では、マイは長く生き続ける。だから、あちらの世界への帰還を望んだ」

異世界転移(特典)で聖なる力を授かったため、おばあちゃんは老化の進行が遅かったのだとか。

自分がゆっくり年を取る間に旦那さん(曾祖父)が亡くなり、子供たちが亡くなり、孫まで……

身内を見送ることに、おばあちゃんは耐えきれなくなったのだという。

「きっかけは、孫夫婦がおぬしを残して事故死したことだな。おぬしは生まれたときから魔力量が多く、次期聖女の呼び声も高かった。つまり、国から目を付けられておったのだ」

この頃から帝国は女神様との契約を破り、召喚魔法を使って周辺国へ侵略戦争を仕掛ける動きを見せていた。

このままこの国にいれば、いずれ自分もひ孫も戦争の道具とされるかもしれない。

おばあちゃんは危機感を持った。

だから、幼い私を連れて元の世界に戻ったという。

あっちの世界では、聖なる力は失われるから。

「よく、帝国が帰還を許しましたね?」

⦅マイは許可なんか取っていないよ。だって、絶対に許されないからね⦆

「だったら、どうやって……」

「大聖堂にお祈りに来たと称して逃げてきたマイとおぬしを、ワシが元の世界へ帰した。ニケの力を借りてな」

「だから、ミケちゃんもあっちの世界にいたんだね」

どうして両親や祖父の写真が一枚もないのか、昔から疑問に思っていた。

おばあちゃんに聞いたら「昔、住んでいた家が火事になってね……」と説明されたけど、本当は写真自体がなかったのだ。

「女神様、私たちを助けてくださりありがとうございました。ミケちゃんも、ありがとね」

⦅気にしないで。ボクも異世界に興味があったから、ちょうど良かったんだ⦆

「ミケちゃん……」

思わずミケを抱きしめる。

もし、そのまま帝国にいたら、私は人間兵器にされていたかもしれない。

ふと、公爵家で膨大な魔力を暴走しかけた時のことを思い出す。

経験したことのない、とても不思議な感覚。

全能感で、何でもやれそうだと思った。

うん、あの力に溺れて、きっとなっていただろう。

私は、向こうの世界に行けて良かった。

おばあちゃんと、平和な世界で穏やかに暮らすことができた。

『レース編み』とも出会うことができたから。

「それでだ、今後のおぬしのことだが……」

「私も、おばあちゃんのようにこの国で聖女として生きていくのですね?」

これは、聖女に課せられた定めだ。

逃れることはできない。

これまでヘンダームで築いてきたものは、すべてなくなってしまう。

せめて、関わり合った人たちには私の正体を明かして、きちんとお別れをしなければ。

そして、デール帝国で、おばあちゃんのようにレース編みを皆に伝えながら暮らしていこう。

私も聖女だから、聖なる力で長生きをするのだろうし。

「いや、おぬしの好きなように生きればよい。サイエル王国で、穏やかに暮らすことを望んでおるのだろう?」

「えっ、でも……」

「ワシも学んだのだ。今の皇帝や皇太子は良くとも、子孫たちがどうなるかはわからぬ」

帝国が昔女神様と交わした契約は、『授けられた力を悪用しない』という、とてもシンプルなものだった。

最初は民を救うためのものが代替わりするにつれ、いつしか己の私利私欲の道具となってしまった。

でも、前皇帝と現皇帝は約束を守り、召喚魔法自体を封印していたそうだ。

それに不満を持った皇兄父子が暴走したのが、今回の騒動のすべての始まりだった。

召喚魔法のように、聖女の力を悪用しようと考える者がまた出てくるかもしれない。

だから、厄災を 祓(はら) った聖女はいなくなったほうが帝国のためになる。

女神様はそう言った。

「ただ、これからも聖女の力を必要とする出来事が、他国でも起こるやもしれぬ。幸い、サイエル王国の厄災はおぬしが未然に防いだがな」

そのときだけは、私に聖女としての務めを果たしてほしいと。

もちろん、異論はない。

「だから、おぬしら自身がいつでも姿を変えられるようにしておこう。各国の都にある大聖堂に、おぬしとニケしか使えぬ転移門を設置しておく。そこを通るときに念じれば姿が変えられるし、各国への移動だけもできる」

なんて便利な新機能!

というか、それってワープゲートというものでは?

⦅へえ、女神様も太っ腹だね。まあ、ずっと城で暮らすのはボクも勘弁だから、素直にありがとう!と言っておくよ⦆

「ニケは、リサの言うことをよく聞いて、おとなしくしておるのだぞ?」

⦅女神様に言われなくたって、ボクは良い子だよ!⦆

そうだよね、今のミケは良い子だもん。

「最後に、帝国で神託を広めてもらう件だ」

「それは、帰国前に必ずやりますので」

ツァーリ殿下や宰相さん、大司教様とも約束をしたからね。

国民の皆さんの前で、きちんと宣言をしなければ。

「これに関しては、ワシにある考えがある。ちと、おぬしの耳を貸せ」

はい、はい、なるほど。

よくわかりました。

「大司教へは、おぬしが明後日に大聖堂で宣言すると神託で伝えておくから、よろしく頼む」

はい、お任せください!

「そうそう、言い忘れておったが、おぬしはマイほどは長生きはしないぞ。もともと、この世界の者だからな。他の者よりは少しだけ、という感じだな」

私の場合は、あっちの世界にいたときに異世界転移特典があった、らしい。

どんな特典だったのですか?と聞いたら、「おぬしが気づいていなかったのなら、内緒だ」と言われてしまった。

う~ん、すごく気になるよ……