軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第27話 自分ができることを

朝、パチッと目が覚めた。

やっぱり、きちんとベッドで寝るのは体にも良い。

ミケはお腹を見せて、大の字になっている。

この宿は、冒険者ギルドで紹介…ではなく、指定された宿だ。

部屋は広く、寝室の他に応接室がある。

ベッドは今までの倍の広さで、ミケが自由に動き回われる。

防犯面はバッチリで、もちろん設備も整っている。

おまけに三食付き。

この部屋を、私は一泊 銀(・) 貨(・) 一(・) 枚(・) で泊まっている。

宿の従業員さんから、王都でトンポイの宿(銅貨五枚)やヘンダームの宿(銅貨六枚)と同等クラス(一泊朝食付き)の宿に泊まると、だいたい一泊 銀(・) 貨(・) 一(・) 枚(・) が相場と聞いた。

王都はやっぱり高いなと思ったところで、あれ?と気づいた。

私は同等クラス以上の部屋に泊まっているのに、なぜ同じ金額なのだろう?と。

その理由は、後日判明する。

◇◇◇

ゴーレムの討伐を終えた私は、夕食を村長さんの家でごちそうになったあと、再び飛行魔法で帰路についた。

夜に帰るのは危ないから、今日は泊まっていきなさいと親切に言ってくれた村長さんを、飛行魔法を知っているエイラさんが「リサさんは、大丈夫だから!」と説得してくれたのだった。

別れ際に、エイラさんへもシュシュをプレゼントしておく。

エイラさんに渡したのは、高級毛糸の余りを寄せ集めて作ったモコモコバージョン二号だ。

ちなみに、モコモコ一号はケイティちゃんにあげたもの。

毛糸は余りものだけど素材は高級なので、手触りはかなり良い。

エイラさんも「気持ち良くて、いつまでも触っていられます!」と喜んでくれた。

翌日、朝一番で冒険者ギルドへ向かう。

依頼完了の手続きと、買取りをしてもらうためだ。

まずは、依頼料を受け取る。

それから場所を移動して買取り受付に行こうとしたら、ミケがこんなことを言った。⦅なにも起こらなければ、いいけどね⦆と。

「だって、ゴーレムと(ゴーレム)キングだよ? そんな珍しい魔物じゃないでしょう?」

エイラさんたちも普通にキングを知っていたし、問題はないはず。

⦅本当にキング な(・) ら(・) いいけど……⦆

ミケが不吉なことを言うから、少し心配になってきた。

でも、キングじゃなかったら、なんだろう?

考えてもわからないので、魔石は後にしてまずは先に本体を出すことにしよう。

ヘンダームと同じように、作業場へ直接持ち込む。

作業台に乗り切らないほどのゴーレムに作業員さんも驚いていたけど、とくに問題は起こらず受付は無事終了。

解体料を差し引いた金額が、口座へ振り込まれるとのことだった。

さて、何もないこの勢いのまま、魔石を査定してもらうことにする。

受付に戻り、魔石を取り出す。

同じ籠に全部入れたところで、ふと思う。

そういえば、色がぜんぜん違ったなと。

通常のゴーレムの魔石は紫色なのに、キングのほうは真っ黒なのだ。

まあ、体の大きさに比例しているのだろう。

「ゴーレムの魔石は、すべて買い取……」

受付の中年男性の言葉が、途中で止まる。

彼がじっと見つめているのは、キングの欠片だった。

「大変申し訳ありませんが、こちらだけは査定に時間がかかりそうです。数日お時間をいただけないでしょうか?」

「はい、構いません」

まだ、最低でも一週間くらいは王都に滞在する予定だからね。

「失礼ですが、お住まいは……」

「これから宿を取るところです」

「でしたら、少々お待ちください」

一度後ろに下がった男性は、すぐに戻ってきた。

「このカードを持って、こちらの宿へ行ってください」

渡されたのは、商業ギルドのマーク(羽根ペン)が描かれた金色ぴかぴかのカードと、宿の場所が書かれた地図だった。

「あの、従魔も一緒に泊まれる宿ですか?」

「はい、問題ございません」

◇◇◇

地図を頼りに着いたのが現在泊っている宿で、金額だけを提示され案内されたのがこの部屋。

ここで昼食を食べ、制作作業をし、夕食を食べ、制作作業をしてから寝た。

それから三日間は、どこにも出かけず制作作業に没頭していた。

そして翌日の午後、つまり査定に出してから五日目のお昼過ぎ、ギルドから呼び出しを受けた私が案内されたのは、最上階にあるギルドマスターの執務室だった。

五階は眺めがいいな~なんて外を見る余裕もなく、ギルマスのチャーリーさんと向かい合っていた。

チャーリーさんは上品なおじさまという雰囲気の人で、後ろには、受付をしてくれた中年男性が立っている。

テーブルの上には、籠に入れられたキングの魔石があった。

「随分と待たせてしまい、申し訳なかったね。査定やら、事実確認やらで、思いのほか時間が掛かってしまったんだよ」

「そうでしたか……」

非常に嫌な予感がする。

ただゴーレムの魔石を査定するだけなのに、どうしてこんなに時間が掛かったのか。

応接室ではなく、わざわざ最上階にあるギルマスの執務室に案内されたのは、なぜなのか。

そして、明らかに人払いされている、この状況。

思わずため息が出そうになる。

ミケの予想は当たっていた。

もう素直に認めよう。

私は、 ま(・) た(・) やらかしたのだ。

「……この黒い魔石は、ゴーレムキングではなかったのですね?」

回りくどいことはなしにして、直球で尋ねた。

「うん、結論から言ってしまえばね。これは、『エンペラー』だったよ」

「エンペラー?」

初めて聞く名称だった。

「ゴーレムエンペラー。別名を『クリスタルゴーレム』という。初めて存在が確認されたのは、今から百年前。デール帝国でね」

ある日、突如として現れたクリスタルゴーレムは帝国で猛威をふるい、多くの犠牲者が出た。

帝国は軍隊を総動員し、ようやく討伐したのだという。

「ただ、貴女が討伐したのは、厳密に言うとエンペラーの成りかけだった個体だね。体の半分しか、クリスタルじゃなかったでしょう?」

エンペラーの本体は、ガラスの原材料と共に昨日王都へ運ばれてきたそうだ。

話を聞いた冒険者たちが作業場へ押しかけて、大変な騒動になったらしい。

「では、あのまま誰にも見つからず放置されていたら……」

「数年後クリスタルゴーレムとなり、厄災になっていただろうね」

「良かった……」

クリスタルゴーレムが鉱山を出て暴れたら、真っ先に被害を受けるのはあの村だ。

エイラさんや村長さん、鉱夫さんや子供たちが犠牲になっていた。

でも、大惨事になる前に未然に防ぐことができた。

それだけでも、私がやらかした意味はあったのだ。

「それで、エンペラー魔石の買取り価格なんだけどね、欠片全部合わせて白金貨五枚でどうかな?」

「白金貨!」

拳二つ分くらいの大きさだった魔石が、約五百万円!

思わす立ち上がってしまい、膝の上にいたミケに文句を言われてしまった。

「魔力の密度が高くて黒色に見えるかもしれないけど、実際はこれも紫色なんだよ」

白金貨一枚分が、大型の魔道具を動かす動力源としての価値だそう。

それとは別に、国から討伐の褒賞金という形で白金貨四枚がプラスされた。

もし、これが割れておらずひびも傷もない綺麗な魔石だったら、希少価値が付き白金貨十枚は下らなかっただろうとのこと。

もちろん、査定に不満などあるはずがない。

私は買取り同意書にサインしたのだった。

「さて、実は本題がもう一つあってね。これは、貴女へお願いしたいことなんだ」

話はゴーレムの魔石の件だけだと思っていたら、チャーリーさんがおもむろに切り出した。

「ギルドで塩漬けになっている依頼を、また受けてもらえないだろうか? これは、もちろん強制ではない。でも、今回のような案件がまだ眠っているかもしれない。ギルドでは、そう考えているんだ」

「わかりました。引き受けます」

「即答だね。こちらからお願いしておいて何だけど、快く引き受けてくれた理由が何かあるのかな?」

「自分ができることはやろうかな……ただ、そう思っただけです」

私は神ではないから、すべての人を救うことはできない。

それでも、目の前に困っている人がいて、女神様からスキルをもらった私ができることであれば手を差し伸べたいと思った。

それだけだ。

「私は、貴女の人の良さに付け込んだ悪い大人だ。軽蔑してもらって構わない。でも、人を助けたいという思いは嘘ではない。それだけは、信じてほしい」

「軽蔑なんて、しません。チャーリーさんは、チャーリーさんのやり方で。私は私のやり方で人助けをする。そこに違いはありませんから」

「ありがとう。引き受けてくれた礼と言ってはなんだが、王都に滞在している間はあの宿を使ってほしい」

「あの……いま泊っている部屋は、どう考えても銀貨一枚では泊まれないと思うのですが?」

「あそこは私が経営している宿だから、貴女は何も気にしなくていい。では、依頼の件はサブギルドマスター、よろしく頼むね」

後ろに立っていた中年男性が、ギルマスの隣に座る。

どうやら、彼がサブギルドマスターだったようだ。

チャーリーさんへ銀貨一枚で泊まれる部屋に変わりたいと言う前に、話をはぐらかされてしまった。

ならば、私は部屋代の分まで依頼をこなしていくだけだ。

ミケが「ニャー⦅がんばろうね!⦆」と鳴いた。

◆◆◆

リサが帰った執務室には、ギルマスのチャーリーとサブギルドマスターの中年男性が残っていた。

「ギルマス、彼女は一体何者なのでしょう? 移動だけで三日はかかる鉱山の依頼を、たった二日で戻ってくるなんて……」

「きっと、何か特殊な移動手段があるのだろうね。たとえば……飛行魔法とか」

「飛行魔法!?」

「ナウリム領のヘンダームから来た客が、大変興味深い話をしていたよ。『人が空を飛んでいるのを目撃した』と」

話を聞いていた者たちは皆、何かと見間違えたのだと笑った。

もちろん、チャーリーもその一人だった。

しかし、鉱山の一件では、リサは間違いなくゴーレムを討伐し、王都へ戻ってきている。

「でもね、冒険者への詮索はご法度だよ。彼らは手の内を秘匿するものだ。それは、上級者になればなるほど多くの秘密を抱えるからね」

「はい、申し訳ございません」

「彼らが依頼を受注しやすいように、障害となるものをできるだけ事前に排除する。それが、私たちギルドの仕事だと思っている。だから、彼女のことは絶対に王都の貴族連中に知られてはならない。情報漏洩には十分気を付けてね」

魔石の買取り価格に国からの褒賞金が上乗せされていたのは、ギルドが討伐者についての情報開示請求を拒否したため。

国としては、討伐者を王城へ呼び出し直接褒賞金を授与するつもりだったのだ。

「かしこまりました。タカナシ殿の依頼の受付は私が一括しておこないますので、問題はないかと」

「そうだね。宿から情報が漏れる心配もない。傍に置いている従業員は、信用のおける者たちばかりだからね」

チャーリーがリサを自身の経営する宿へ案内した理由。

それは、リサ自身を守るためだった。